中国・北京で2025年7月に開催された第25回欧州連合(EU)・中国首脳会談の様子。左からコスタ欧州理事会議長(EU大統領)、習近平国家主席、フォンデアライエン欧州委員長。中国・北京で2025年7月に開催された第25回欧州連合(EU)・中国首脳会談の様子。左からコスタ欧州理事会議長(EU大統領)、習近平国家主席、フォンデアライエン欧州委員長。POOL UNION EUROPEENNE/AGENCE HANS LUCAS/Hans Lucas via Reuters Connect

欧州連合(EU)は6月中旬に開いた首脳会議で「中国に対する貿易赤字を削減するための措置」を検討するよう(執行機関の)欧州委員会に指示する決定を下した。

首脳会議後に記者会見したフォンデアライエン欧州委員長は「構造的な過剰生産能力と世界的な不均衡への影響について実りある議論が行われた」とした上で、「中国からEUへの輸入は過去5年間で45%増加」「昨年は初めて全ての加盟国が対中貿易赤字となった。これは単に安価な輸入品の問題ではない。過剰生産能力がEUの製造基盤を蝕(むしば)んでいる」との問題意識を強調した。

中国は電気自動車(EV)、リチウムイオン電池、太陽光パネルといった戦略産業を対象とした支援に、莫大な国家予算を投入している。加えて、西側諸国の企業が二酸化炭素排出量の制限や産業廃棄物処理に関する厳しい環境規制、最低賃金や労働時間、安全基準といった労働者の権利保護法規を遵守するために高いコストを支払っているのに対し、中国はそれらに特段の配慮を向けていない。

そのため、中国企業は海外市場において圧倒的な価格的優位性を獲得することに成功している。

国家資本主義とも言える中国の産業政策を相手に民間企業だけで戦いを挑まねばならない現況に対しては政府が何らかの措置を取る必要があるだろうから、EUの抱える問題意識の深さは当然理解できる。

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「アメリカの制裁関税を参考に」

具体的な数字を介して状況を見てみよう。

モノの貿易収支を見ると、EUの対中赤字は2025年に約3600億ユーロと過去最高水準に肉薄し、フォンデアライエン委員長が指摘したように過去5年間を通じて明確に拡大している【図表1】。

【図表1】欧州連合(EU)の対中貿易収支(緑の折れ線)の推移。【図表1】欧州連合(EU)の対中貿易収支(緑の折れ線)の推移。出所:Bloomberg資料よりみずほ銀行国際為替部作成

過去最大の対中貿易赤字を記録したのは2022年。パンデミックの鎮圧期、中国からの医療関連輸入が拡大して3980億ユーロの赤字を計上した。異例の規模ではあったものの、不可抗力かつ一時的な対応措置として認容された経緯がある。

しかし、翌年こそ貿易赤字は縮小したものの、その後は再び拡大に転じ、2022年並みの赤字水準が常態化しつつあるように見える。

6月20日付の日本経済新聞は、中国製EVや太陽光パネルなどが欧州市場に流入することへの対策をフランスなどが呼びかけている現状を紹介した上で、EU内に「不公正な貿易手法をとる国に制裁関税を課すアメリカの『通商法301条』を参考にした措置を検討すべき」との意見があることを報じた。

アメリカが貿易不均衡の是正を目指して相互関税を発動したのが2025年4月。それから1年余りの月日を経て、欧州もアメリカに追随したと見ることもできるだろう。

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フォンデアライエン委員長はかねてより、トランプ政権の保護主義的な振る舞いに対し、EUが自由貿易協定の拡大を進めてきたことを引き合いに出し、「私たちは関税より公正な貿易を選ぶ」「孤立よりパートナーシップを選ぶ」(1月中旬開催の「世界経済フォーラム2026」での発言)との立場を強調してきた。

冒頭で触れたEU首脳会議後の声明では「(世界的な不均衡への対処は)リスク軽減を加速させるものであり、デカップリングを加速させるものではない」と注釈を加えたものの、制裁関税のような措置が実際に導入されるのであれば、ダブルスタンダードと揶揄(やゆ)されても仕方ない。

欧州政治において、壮大な理想を掲げながら時を置かずして撤回に至る流れは日常茶飯事ではあるものの、自由貿易陣営の旗手としてアメリカに対抗するポジションを志向してきたEUが、その基幹的な主張を捨ててまで対中輸入規制に動こうとする様子から、問題意識の高まりの程度がうかがい知れる。

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