
決勝の舞台になるニュージャージー州のメットライフ・スタジアムのブラジル対モロッコ戦のスタンドから(提供)筆者
【現地発 北中米W杯は今日もクレージーだった!】#8
ボンジーア! 政治の介入とか物価の話とか、これまでネガティブな話ばかりしてきたけど、今日はポジティブでクレージーな話をしよう。
メキシコシティーで開幕戦を見たけど、ピッチでボールが転がり始める前から、現地の雰囲気はクレージーだった。ボクはこれまで100カ国以上を訪れ、多くのW杯も取材してきた。でも、メキシコ人ほどサッカーへの情熱が激しい国は見当たらない。もちろん我がブラジルも「サッカーが宗教」って言われるぐらい熱い国だけど、その中心は熱狂的なサポーターだったり、組織化されたファンだったりする。
ところが、メキシコでは老若男女全てがサッカークレージーなんだ。街の大通りを歩けば、ほぼ全員が自国代表のユニホームを着ている。スタジアムに行く人だけじゃなくて街の人みんながW杯開催を心から喜んでいるんだ。バーやレストランのウエーター、街の清掃員、ニュース番組のキャスターも全員ユニホーム。まるで世の中に他の服がなくなっちゃったみたいだ。散歩している犬たちもユニホーム姿だったよ。その一体感は羨ましいくらいで、ボクも思わずホテル近くの露店でユニホームを買っちゃった。
開幕戦の日はメキシコシティーの学校や会社はお休み。やむなく働かなくちゃいけない人たちには、3倍の給料が払われたらしい。
チケットは高騰して誰もが買うことはできなかったようだが、たとえ試合を見られなくてもW杯の雰囲気を楽しみたい! ということで、スタジアム周辺には、およそ50万人が詰めかけたんだ。
さすが史上唯一3回もW杯を開く国だ。メキシコではサッカーは単なるスポーツでも、ましてやビジネスでもない! なんでサッカーを好きになったのか、初心を思い出させてくれたよ。
だけど、この熱い気持ちは、翌日米国に飛んで一気にしぼんじゃった。米国ではスタジアムの中にこそ熱狂はあったけれど、一歩外に出ると、今この瞬間、W杯が開催されていることが嘘のように「普通」だった。
いや、W杯をやっていることを知らない人もいっぱいいると思う。ニューヨーク市民は、ブラジル対モロッコ戦より、同時刻に行われたNBAファイナルでニューヨークのニックスが優勝したことの方が、はるかに興味があるようだった。
カナダでは自国代表がプレーする開幕戦と、地元の大リーグ・ブルージェイズの試合の時間が重なっていて、米国同様、スタジアムの外はいつも通りの日常だった。米国やカナダでW杯は、あくまで数あるイベントのひとつにすぎないんだね。
(Ricardo Setyon/ジャーナリスト)
▽翻訳=利根川晶子(とねがわ・あきこ)埼玉県出身。通訳、翻訳家。1982年W杯でイタリア代表タルデッリに魅せられ、89年にイタリア・ローマに移住。「ゴールこそ、すべて」(スキラッチ自伝)など著書、訳書多数。
