2026年9月9日 13:37 | 2026年9月11日 16:59 更新 [無料]

米軍普天間飛行場の移設に向けた工事が続く沖縄県名護市辺野古の沿岸部。知事選を巡り、基地負担の問題に触れるSNSの投稿は限られる

9月13日投開票の沖縄県知事選を巡り、交流サイト(SNS)が荒れている。発信元は首都圏発が沖縄県内からを大きく上回ることが、地元メディアの調査で明らかになっている。昨年10月の宮城県知事選でも同様の現象が起き、選挙戦が混乱した。沖縄の地元テレビと新聞がそれぞれ報じた分析をまとめた。
SNS投稿は「沖縄県外」発信が多数
地元テレビ「琉球放送」がユーザーローカル社のSNS分析ツール「ソーシャルインサイト」でX(旧ツイッター)の投稿を調べたところ、8月の1か月間に「沖縄県知事選」と言及した投稿は、リポスト(再投稿)を含め約52万4000件あった。
うち86・2%は沖縄県外からの発信で、都道府県別の最多は東京都の29・7%。沖縄からは13・8%にとどまった。琉球放送は1日の配信記事で「誹謗(ひぼう)中傷や真偽不明の情報、誤った情報なども拡散されており、選挙戦に影響を及ぼすことが懸念されます」と警鐘を鳴らした。

9月1日配信の琉球放送による分析記事のキャプチャー画像
【沖縄県知事選挙】SNS「X」の投稿の約9割は県外から 選挙戦への影響も(TBS NEWS DIG )
地元紙「琉球新報」は、8月27日の公示から1週間にユーチューブに投稿された関連動画2871本を分析した。渋谷遊野・東大大学院准教授(社会情報学)の協力で動画のデータを収集し、北海道新聞、河北新報と連携して再生数上位30位までの動画の内容を精査した。
選挙戦の軸となる無所属新人で元那覇市副市長の新人古謝玄太氏(42)=自民、維新、国民、参政、保守推薦=と現職玉城デニー氏(66)への言及を整理したところ、古謝氏は30本中23本の動画で取り上げられ、うち10本は肯定的な内容。否定的な動画はなかった。玉城氏は26本で言及があり、うち20本が否定的だった。肯定的な動画はなかった。
上位30位までの動画の総再生回数は約1730万8000回に上り、全体の34・5%を占めた。沖縄県内からの発信と確認できる動画はなかった。7日掲載の記事で琉球新報は「県民をからかったり、陰謀論を展開したりする動画が再生数上位に入った」と指摘した。

【沖縄知事選】関連動画の再生5000万回超 告示1週間で 再生数の上位は県外から発信(琉球新報)
宮城知事選では「悪行14選」画像拡散
25年10月の宮城県知事選も似た状況があった。河北新報が選挙後、「宮城県知事選」と記載のあった10月1カ月間のX投稿を分析ツールで調べると、発信地の最多は東京都の28・6%で、宮城の21・6%を7ポイント上回っていた。
Xでは「売国的宮城県知事村井嘉浩の悪行14選」と称する画像が出回り、「外国人労働者大量受け入れ推進」という誇張、「宮城県をザンビアのホームタウンに!」との捏造が入り交じった。Xとユーチューブそれぞれの投稿件数は増減がほぼ重なっており、連動した情報の拡散がみられた。

宮城県知事選の期間中にX上で拡散した「悪行14選」と題した画像
宮城県知事選挙のX関連投稿 参政党フォロワーが4割 発信数は関東地方が宮城の2倍超 河北新報調査 (河北新報オンライン)
NHK放送文化研究所(東京)が宮城県知事選後に実施したインターネット調査によると、知事選で「最も参考にした情報源」の最多はテレビの20%、次いで選挙公報やビラが19%、新聞16%、XやユーチューブなどのSNSが13%だった。
SNSの情報が宮城県知事選の投票行動に影響を及ぼした実際の程度は定かではないが、ターゲットになった候補者やその支援者は中傷対応や偽・誤情報への反論に追われ、人口減少や仙台一極集中といった本質的な県政課題の論戦が深まらなかったのは確かだ。
宮城県知事選挙 2000人アンケート➀~有権者は何を参考に投票したのか~ #644( NHK放送文化研究所)
選挙中の対応には限界も
昨年10月の宮城県知事選を受け、今年2月から対策の議論を重ねてきた県の有識者検討会は、9月1日に県庁であった会合で意見の素案をまとめた。議論の過程で選挙中にできる対策の限界が改めて浮き彫りになり、平時の備えを充実させることで選挙時の対応につなげる方向だ。
素案は①偽・誤情報対策②誹謗中傷への対応③中長期的な予防策④民間主体の情報検証の環境整備―を軸に今後の取り組みの方向性を整理した。主な内容は表の通り。検討会座長を務める京大大学院法学研究科の曽我部真裕教授(憲法・情報法)は会合で「昨年の知事選で実際に起こったことに効果が見込めるか、という視点を持って最終的な報告書をまとめたい」と述べた。

素案には、SNSの話題をモニタリングするツールの導入が盛り込まれた。状況に応じて県の1次情報や見解を上乗せした発信を平時から進め、一度流布された偽・誤情報の再拡散を防ぐ「プリバンキング」(事前暴露)の効果を見込む。
現行制度で選挙中のSNS利用を取り締まるのは実質的に難しい。虚偽情報の流布は公選法違反(虚偽事項公表)で罰則があるが、発信者を特定するためのアクセス記録の保存期間は法制化されていない。結局のところ、情報をうのみにせず読み解く「メディアリテラシー」を社会全体でどう高められるかが問われる。
今回の沖縄県知事選で報道各社のユーチューブ動画分析に協力した東大大学院の渋谷遊野准教授は、宮城県の有識者検討会のメンバーでもある。1日の会合では偽・誤情報対策がSNSのトレンドに振り回される懸念に触れ「県境を越えて発信される情報が有権者に与える影響を見極めなければならない」と強調した。
県外から押し寄せる大量の情報を特定の組織や団体で逐次検証するのは事実上困難だ。渋谷准教授は「偽・誤情報の発信は感情をあおり、人間の認知の脆弱(ぜいじゃく)性を突いている」と指摘し、地域の有権者が自ら検証しやすい情報公開の体制づくりを行政に求める。
「宮城県選挙期間中の情報流通の諸課題への対処に関する検討会」意見(素案)

選挙中の誹謗中傷や偽・誤情報対策を議論する宮城県の有識者検討会=9月1日、県庁
検討会の議論は、行政が自ら真偽の判定を明示する「官製ファクトチェック」を行わない前提で進められた。NPO法人日本ファクトチェックセンター(JFC)の古田大輔編集長は1日の会合で「何をもってファクトチェックなのか、何が良くて何が駄目なのかは詰めて考えた方がいい」と付言した。
例えば、第三者が発信する政策情報の中に明らかな事実の誤りがあった場合に、行政が訂正を求めることを「ファクトチェック」とは言わない。「表現の自由」「検閲の禁止」に留意した必要最小限の介入をどう実現できるかは今後の運用に積み残された課題といえる。
(横山勲)
