韓国政府は、国家の次世代成長エンジンを発掘・育成するための「超革新経済プロジェクト(Ultra-Innovation Economy Project)」の一環として、次世代パワー半導体の量産技術およびインフラ構築に向けた大規模な研究開発(R&D)計画を始動させた。本プロジェクトの総投資額は、国費のみで5,000億ウォン(約3億2,900万ドル)以上と試算されており、民間企業からのマッチングファンドを含めれば最終的なプロジェクト規模は約7,500億ウォン(約4億9,400万ドル)に達する見通しである。
韓国の洪楠基(ホン・ナムギ)副総理兼企画財政部長官が主宰した非常経済中央対策本部会議において、本プロジェクトの進捗と今後のロードマップが議論された。政府は今月中に次世代パワー半導体の商用化に向けた技術ロードマップを確定させる方針である。会議では、小型モジュール炉(SMR)やオンセンサーAI、ヒューマノイドロボット用アクチュエータなどと並び、次世代パワー半導体が未来の国家競争力を左右する最重要課題として位置づけられた。
これまで韓国の半導体産業は、Samsung ElectronicsやSK hynixに代表されるように、DRAMやNANDフラッシュメモリを中心とするメモリ半導体分野で世界的な競争力を築き上げてきた。近年ではAIブームに伴う高帯域幅メモリ(HBM)の需要急増により多大な利益を享受している。しかし、韓国政府は次の確固たる収益源として、あるいは「第2、第3の半導体」として、パワー半導体の領域に強力なテコ入れを行う決断を下した。背景には、市場拡大への追従という枠を超え、国家の基幹産業を支えるインフラストラクチャとしての重要性が飛躍的に高まっているという危機感がある。
01.なぜ「第2のDRAM」なのか:AIデータセンターとモビリティが牽引する需要02.シリコンから化合物半導体(SiC/GaN)へのシフトと技術的障壁03.フルサイクル型R&Dと民間連携:RootSemicon社の3300V SiCモジュール開発04.経済安全保障とグローバルサプライチェーンへの影響なぜ「第2のDRAM」なのか:AIデータセンターとモビリティが牽引する需要
パワー半導体は、電力の変換、制御、および分配を行う半導体デバイスであり、あらゆる電子機器の心臓部においてエネルギー効率を決定づける中核部品である。近年、このパワー半導体の需要を爆発的に牽引している最大の要因が、急速に拡大する人工知能(AI)インフラストラクチャ、とりわけAIデータセンターである。
大規模な言語モデル(LLM)の学習や推論を担うAIデータセンターは、数万基単位のGPUやAIアクセラレータを稼働させるため、従来のデータセンターとは桁違いの電力を消費する。この膨大な電力をグリッドからサーバーへ、そして各チップへと安定かつ高効率に供給するためには、高度な電力変換と熱管理が不可欠である。パワー半導体の性能向上は、電力損失を最小化し、冷却コストを削減することで、施設全体の電力使用効率(PUE)の改善に直結する。AIクラスタの運用コストにおいて電力要件が支配的となる中、パワー半導体はシステム全体のボトルネックを解消する鍵となっている。
さらに、電気自動車(EV)やハイブリッド車におけるバッテリー駆動効率の向上、再生可能エネルギー(太陽光や風力)の導入拡大に伴う電力網(スマートグリッド)の安定化、さらには国防、航空宇宙、ロボット工学に至るまで、電力を消費するあらゆる高度産業においてパワー半導体の役割が不可欠となっている。AIデータセンターという特需に加えて、モビリティの電動化やカーボンニュートラルに向けたエネルギートランジションという不可逆的なメガトレンドが、パワー半導体市場の長期的な成長を保証している。韓国政府がこの分野を「第2のDRAM」と見なす理由は、メモリ半導体と同様に、あらゆる次世代産業の基盤となる汎用性と膨大な市場規模が見込まれるためである。
シリコンから化合物半導体(SiC/GaN)へのシフトと技術的障壁
現在、パワー半導体市場は大きな技術的転換点にある。長らく主流であった従来のシリコン(Si)ベースのデバイスは、物理的な性能限界に達しつつある。特に高電圧、大電流、高周波数という過酷な動作環境下では、シリコンデバイスにおける電力損失や発熱が無視できないレベルとなっている。
そこで次世代の主役として急速に台頭しているのが、シリコンカーバイド(SiC)や窒化ガリウム(GaN)といった化合物ベースのパワー半導体である。これらの新素材はシリコンと比較してバンドギャップが広く、絶縁破壊電界強度や熱伝導率に優れるという物理的特性を持つ。これにより、大幅な電力変換効率の向上や、冷却機構の簡略化によるモジュールの小型軽量化を実現し、高温・高圧環境下での安定動作も可能となる。
しかし、化合物半導体はシリコンに比べて材料となるウェハーの製造(結晶成長やスライス工程)が極めて難しく、製造プロセス全体の歩留まり向上が技術的な障壁となっている。現在、ハイエンドなSiC/GaNパワー半導体市場は、Infineon Technologies(ドイツ)やSTMicroelectronics(スイス)、Wolfspeed(米国)、Mitsubishi Electric(日本)などの欧米および日本の専業メーカーが強力な先行優位性を持っている。韓国国内の技術力は、これまで1700VクラスのSiCデバイスまでは対応可能であったが、高圧環境向けのハイエンド製品については依然として海外サプライヤーに依存しているのが実情である。
フルサイクル型R&Dと民間連携:RootSemicon社の3300V SiCモジュール開発
海外依存の脱却と国内技術のキャッチアップを図るため、韓国産業通商資源部(MOTIE)は、研究開発の初期段階からエンドユーザー(需要企業)を巻き込む「フルサイクル統合型R&Dプログラム」を設計した。このアプローチの核心は、素材開発、デバイス設計、モジュール実装、そしてシステムレベルの検証・実証に至るまでの全行程をパッケージ化し、基礎研究から量産化までの「死の谷(Valley of Death)」を最短期間で乗り越えることにある。
この戦略を体現する具体的な動きとして、韓国のパワー半導体企業であるRootSemicon社が、政府支援による3300V級SiCパワーモジュール国産化プロジェクトの主幹機関に選定された。韓国産業技術評価管理院(KEIT)が監督するこのプロジェクトは、約77億ウォンの予算規模で4年間にわたり実施される。
このプロジェクトの最大の特徴は、サプライチェーン全体をカバーする強固なコンソーシアム体制である。RootSemiconがSiCデバイスの設計・製造を担い、SemiPowerExがデバイスのモジュール・パッケージング技術を提供し、そしてIntec Electric & Electronicが最終的な需要側パートナーとして完成品を購入・検証するエコシステムが構築されている。また、デバイス製造の要となるエピタキシャルウェハーはArke社から供給される。
RootSemiconはすでに1200VクラスのSiC MOSFETデバイスにおいて、歩留まり90%以上での量産設計・パッケージング能力を確保している。今回開発される3300V級のSiCモジュールは、従来製品をはるかに凌駕する高耐圧性能が求められ、電力網の送配電システム、高速EV充電ステーション、鉄道インフラ、および半導体式ソリッドステート遮断器(SSCB)といったミッションクリティカルなインフラストラクチャへの適用が想定されている。こうした高付加価値領域での国産化成功は、韓国のパワー半導体産業全体の技術レベルを一段階引き上げる試金石となる。
経済安全保障とグローバルサプライチェーンへの影響
韓国政府による5,000億ウォン超のR&D投資は、産業育成にとどまらず、経済安全保障上の極めて重要な布石となる。自動車、二次電池、造船、エネルギーインフラ、そして国防産業など、韓国を牽引する基幹産業群は、今後ますますパワー半導体の安定供給に依存することになる。
仮にパワー半導体のサプライチェーンにおいて海外企業への依存度が過度に高まった場合、地政学的なリスクやパンデミックなどの予期せぬショックが発生した際、部品調達の遅延が国家経済全体に致命的な打撃を与える可能性がある。近年経験した世界的な半導体不足は、そのリスクを顕在化させた。韓国政府は、パワー半導体の自律的なエコシステム構築が遅れれば、次世代産業における最終製品の価格競争力や性能向上において他国に後れを取るという強い危機感を持っている。この危機感に対する具体的なアクションとして、釜山(プサン)のパワー半導体特化団地に設けられた公共ファブの高度化や、浦項(ポハン)、羅州(ナジュ)における実証インフラの活用など、民間企業の量産移行を後押しするハードウェアインフラの整備も同時に進めている。
メモリ半導体という巨大な基盤の上に、AI時代の中核となるパワー半導体の自立したサプライチェーンを確立できるか。韓国の「超革新経済プロジェクト」は、グローバルな半導体市場の勢力図において、韓国が引き続き圧倒的なプレゼンスを維持するための戦略的かつ不可避な挑戦である。今後の予算化プロセスを通じて総投資規模が確定し、具体的な技術開発フェーズに移行することで、世界のパワー半導体市場における競争は新たな局面を迎えることになる。
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