欧州最大手のLCCであるライアンエアは2026年6月16日、欧州連合(EU)が導入を進める航空旅客の権利(EU261)の新たな規則案に対し、強烈な非難声明を発表しました。

 同社は、標準的な機内持ち込み手荷物(第2キャビンバッグ)を含めた高い運賃を初期表示させることを義務付ける新規則について、「EUの競争力向上には全く寄与しない馬鹿げた規制である」と痛烈に批判しています。マイケル・オリアリーCEOは声明の中で、ライアンエアーの乗客の50%以上が標準キャビンバッグを利用せず、最安値の運賃を選択しているという自社の実態データを提示しました。その上で、不要なサービスを省いて徹底的な低価格を実現し、座席下に収まる身の回り品のみを持参する乗客に恩恵をもたらしてきたLCCのビジネスモデルを、根本から否定するものだと強い憤りを示しています。

 この問題の核心は、長年LCCが武器としてきた価格表示手法の是正にあります。現在、欧州LCCの多くは座席下に入る小さな身の回り品のみを無料とし、頭上の収納棚を使う標準的なキャビンバッグを別料金としています。航空券の予約を進める過程で手荷物料金が次々と加算されていくこの手法は「ドリップ・プライシング(後出し価格)」と呼ばれ、価格比較を難しくさせているとしてEU内で批判の的となってきました。

 EU側は価格の透明性を高めるため、最低限の手荷物を含めた運賃を最初の検索結果から表示する法制化を模索しています。これに対し、欧州最大手ライアンエアーのマイケル・オリアリーCEOをはじめとするLCC陣営は、「乗客の半数以上は手荷物を持ち込まず最安値を選んでいる。高い価格を強制的に初期表示させるのは無意味だ」と一蹴しています。また、全乗客が手荷物を持ち込んだ場合、単通路機では収納する物理的スペースがなく、搭乗ゲートでの混乱や遅延を招くという運用上の限界も指摘されています。

 しかし、EU当局がここまでメスを入れるに至った真の背景には、近年の「フルサービスキャリア(FSC)のLCC化」があります。スカイスキャナーなどの航空券比較サイトの普及に伴い、ルフトハンザやエールフランスといった伝統的なFSCも、見かけ上の最安値を下げて検索順位を上げるため、手荷物や座席指定を別料金とした「ライト運賃」を相次いで導入しました。結果として、ドリップ・プライシングはLCC特有の戦略ではなく、業界全体のスタンダードになってしまったのです。「FSCだから荷物も含まれているはず」と思い込んで予約した一般旅行者からの苦情が激増したことで、EUは航空会社の種類に関わらず、比較可能な実質運賃を最初から提示させるべきだという方向へ動きました。

 この規制強化の動きに対し、FSC側も公式には「企業の自由な運賃設定やマーケティング戦略に対する過剰な介入である」と反対の姿勢を示しています。FSCにとっても手荷物などの付帯収入は重要な収益源となっているためです。

 しかし、その裏にはLCCとは異なるFSCならではの「水面下の本音」も透けて見えます。もし新ルールが法制化されれば、「手荷物なしの超低価格」を前面に押し出してきたLCCの初期表示価格が跳ね上がります。消費者から見ればLCCとFSCの価格差が縮まったように感じられ、「これくらいの価格差ならサービスの厚いFSCを選ぼう」という心理的誘導が働きやすくなります。FSCの経営陣にとっては、LCC最大の武器である「見た目の安さ」が削がれることで、奪われたシェアを奪還する好機になると捉える向きもあるのが実態です。

 日本の航空市場ではLCCであっても「総重量7kgまで無料」という制限が主軸であり、欧州のように「頭上の収納棚を使うだけで高額課金」という極端な場所代ビジネスは定着していません。それだけに、今回の欧州の動きは独自の進化を遂げた空のインフラに対する大きな転換点と言えます。

 現在、EUでの議論は欧州議会での決議を受け、欧州委員会による法制化の検討プロセスにあります。価格の透明性を求めるEUの動きが最終的にどのような法的ルールとして着地するのか、そして航空各社が規制の枠内で実質的な最安値をアピールするため、予約システム上の見せ方をどう工夫していくのか。欧州航空界の新たな運賃競争から目が離せません。Photo : Ryan Air

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