日本各地では、風土に根ざした多様な染織品が古くから作られてきました。その美しい布を次世代へと受け継いでいきたい──そんな願いを込めて、全国の産地を取り上げた特集「染織レッドリストを救え」は、雑誌『美しいキモノ』で大きな反響を呼びました。この特集を、各産地への最新リサーチ情報を加えて、デジタル連載として復刻します。
北から巡る連載の第15回では、新潟県の「越後上布」をはじめ、「本塩沢」、「塩沢紬」「小千谷縮」「小千谷紬」を紹介します。
[初出『美しいキモノ』2015年秋号より]
新潟県「越後上布」雪に育まれる麻織物の最高峰
Jun Nakamura
重要無形文化財指定の越後上布。ごく薄手でさらりとした感触。
南魚沼市(旧塩沢町・六日町)で作られる麻織物です。歴史は大変古く、正倉院の宝物にも越後の麻布の記録があるほどです。十九世紀に鈴木牧之が著した『北越雪譜』には、当時の越後の麻布の生産の様子が詳細に記されています。
作り方は、福島県会津の昭和村産の青苧(あおそ・苧麻の皮を剥いだ内側を乾燥させた繊維)を、爪で細く裂いてつないで糸を績み、糸は手括りで染めて、地機で織り上げ、雪の上に晒す「雪晒し」をします。
現在は伝統的な方法で作られる重要無形文化財指定の越後上布のほか、緯糸の一部または全部が手績み糸で、経糸にラミー糸を使って高機で織る「古代越後上布」と、経緯とも上質なラミー糸を使って織る越後上布と、三種類が流通しています。
制作工程
Chiharu Ito
原料の青苧を、爪で裂き、糸端をより合わせてつなぎます。細く均一な糸を績むのは大変な作業。
Chiharu Ito
撚りを掛けて糊付けした糸を整えます。
Chiharu Ito
経糸、緯糸の長さと本数を整えます。
Chiharu Ito
絣の位置を写し、染めない部分を糸で括って防染し、染液に浸して染めます。
Chiharu Ito
織りは地機で。腰に経糸を付け、体で経糸の張りを調節しながら織ります。
Chiharu Ito
織り上がった布は温湯に漬けて糊を落とし、さらに足でもみます。
Chiharu Ito
雪上に布を晒します。色物は色目が落ち着き、白地はくっきりした白さになり、地風も良くなります。
Jun Nakamura
手績み糸とラミー糸を併用して織り上げた古代越後上布。2点共/太田和
【その後の越後上布(2026年現在)】
制作を継続中です。現在は、重要無形文化財の指定の技術で作られる越後上布は、年間生産反数20~30反程度です。塩沢織物工業協同組合や、重要無形文化財小千谷縮・越後上布技術保存協会では情報を発信。講習生募集なども行っています。重要無形文化財 越後上布・小千谷縮布技術保存協会のFacebookでは、制作や研修の様子なども紹介しています。2009年には日本の染織部門で初となるユネスコ無形文化遺産への登録を果たしました。
塩沢の織物を知ることができる施設「織の戸」では、実演見学や手織り体験などが可能です。鈴木牧之記念館でも越後上布関係の展示や体験講座などを行っています。
新潟県「本塩沢」シボが肌に涼しい精緻な絣の御召
Jun Nakamura
黒地に小絣模様の映える本塩沢。/市原亀之助商店
南魚沼市(旧塩沢町・六日町)周辺で織られる、細かなシボが特徴の絹織物です。「塩沢御召」ともよばれます。この地方では江戸時代中頃から麻縮が織られるようになり、その技法を絹に応用して作られた絹縮がもとになっています。後に西陣御召の技術の導入や地機から高機への切り替えが行われ、大正末期頃から現在のような織物となりました。
糸は、経緯ともに生糸を使い、緯糸には強い撚りを掛けます。織り上がってから湯もみで糸の糊を落とすことでシボを出し、独特のシャリ感のある生地になります。十字絣や亀甲絣などで構成される精緻な絣模様も魅力。サラリとした肌触りから夏のひとえによく用いられます。国の伝統的工芸品に指定。(文=朝香沙都子)
制作工程
Satoko Asaka
糸を整経します。経糸は1mあたり350回、緯糸は1800回、撚りを掛けます。緯糸は撚りを掛けて糊付け後、さらに追い撚りをします。
Satoko Asaka
絣は手摺り込み、板締め、型紙捺染で染めます。
Satoko Asaka
撚りの掛かっていない糸と、右撚りと左撚りの強撚糸の3種類の緯糸を交互に入れて、高機で織ります。
Satoko Asaka
織り上がった布を湯に入れて、もんで糊を落とすと、糸の撚りが戻る力で布面にシボが表れます。
【その後の本塩沢(2026年現在)】
制作を継続中です。温暖化によりひとえの需要が増したことから、本塩沢への注目が集まっています。塩沢産地では、夏用の薄手の「夏塩沢」も作られていますが、真冬以外は着用できる薄手のタイプを開発するなど、現代のニーズを踏まえた製品作りも行われています。
塩沢織物工業協同組合では情報を発信。制作や研修の様子なども紹介しています。体験講座なども随時実施されています。塩沢の織物を知ることができる施設「織の戸」では、実演見学や手織り体験などが可能です。
新潟県「塩沢紬」越後上布の技から生まれた小絣の紬
Jun Nakamura
精緻な絣柄の塩沢紬。2点共/市原亀之助商店
越後上布の産地でもある、南魚沼市(旧塩沢町・六日町)周辺で織られる紬です。蚊絣、十字絣、亀甲絣などを組み合わせた、精緻な絣模様が特徴です。塩沢紬の絣糸作りには越後上布の伝統技術が取り入れられています。昔から麻織物が盛んだったことから織物が発展し、大正から昭和にかけて紬作りが盛んになりました。
糸は、経糸に玉糸か生糸、緯糸に真綿の手紡糸を用います。そのため、生地には真綿特有のふっくらした風合いがあります。大きな絣は手括りで、小さな絣は摺り込みや型紙捺染で作ります。絣が細かいので、高機で絣を合わせながら丁寧に織ります。シックな色合いが多く見られますが、近年は多様な色柄を生産。国の伝統的工芸品。
制作工程
Hisashi Miyakawa
手摺り込みによる絣作りの様子。図案に合わせて印を付けた糸に、ヘラで染料を摺り込みます。
Hisashi Miyakawa
型紙捺染による絣作り。反物の幅に白糸が巻かれた厚紙に、型紙で色糊を置き、糸に摺り込みます。
Hisashi Miyakawa
細かい絣を合わせながら織り上げます。
【その後の塩沢紬(2026年現在)】
制作を継続中です。塩沢織物工業協同組合では情報を発信。制作や研修の様子なども紹介しています。塩沢の織物を知ることができる施設「織の戸」では、実演見学や手織り体験などが可能です。
新潟県「小千谷縮」シボの感触が肌に涼やかな麻縮
Jun Nakamura
伝統的な方法で作られた国の重要無形文化財の小千谷縮(手前)。越後上布と同様に苧麻の手績み糸を使って地機で織ります。近年は非常に希少。
小千谷市周辺で織られる麻縮。シボとよぶ布面の凸凹や、さらりとした感触が特徴の夏用の織物です。越後では昔から麻織物が盛んで、江戸初期に播州(兵庫県)明石から小千谷に移り住んだ堀次郎将俊が麻縮を完成させたのが始まりと言われています。主に緯糸で模様を表し、現在はラミー(麻の紡績糸)を用いたものが主流です。
伝統的な絣作りでは、手括りのほか、経糸は板定規、緯糸は木羽定規を作って摺り込みで染めます。緯糸に強い撚りを掛けて、高機や力織機で織り、温湯に浸けて揉み込み、縦に絞ることによって特有のシボが生まれます。作り方や材料の違いで、国の重要無形文化財指定の小千谷縮、小千谷市指定無形文化財・寿小千谷縮、国指定伝統的工芸品の小千谷縮があり、その他に経絣や縞、格子、無地などがあります。
制作工程
Hisashi Miyakawa
必要な本数の経糸を、長さを揃えて整えます(整経)。
Hisashi Miyakawa
小千谷縮で用いられる木羽定規。反物幅の厚紙(昔は薄い板)で、模様の一単位に必要な緯糸の幅だけ揃え、束ねて側面に模様を描いたもの。これを用いて緯糸を染めます。一枚ずつ緯糸に当てて印付けをして、染料 を摺り込みます。
Hisashi Miyakawa
絣括り後、糸染をして括りを解き、整経台に張ったところ。
Hisashi Miyakawa
染め終えた緯糸の絣糸。
Hisashi Miyakawa
力織機による製織の様子。力織機でも絣合わせの手作業は必要で、手間のかかる作業です。
Jun Nakamura
小千谷市の重要無形文化財指定・寿小千谷縮。経糸にラミー、緯糸すべてに手績み糸を使い、高機で手織りします。/西脇商店
Jun Nakamura
経緯ともにラミーを用いた小千谷縮。写真は国指定伝統的工芸品。3点共/西脇商店
【その後の小千谷縮(2026年現在)】
制作を継続中です。現在は、ラミー糸と力織機で作られる小千谷縮が生産の主流で、伝統的な重要無形文化財指定の方法で作られる小千谷縮は年に数反程度です。2009年に、小千谷縮・越後上布がユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の無形文化遺産に登録されました。日本の染織技術としては第一号となります。重要無形文化財 越後上布・小千谷縮布技術保存協会のFacebookでは、制作や研修の様子なども紹介しています。
小千谷織物同業協同組合HP、インスタグラムなどで情報を発信。展示会や体験講座なども行っています。体験工房「織の座」は、見て、触れて、体験して、小千谷の織物を手軽に学べる体験型の織物ギャラリーで、実演の見学や、機織り体験なども実施しています(体験は完全予約制)。
新潟県「小千谷紬」小千谷縮から生まれた緯絣の紬
Jun Nakamura
小千谷紬。基本的には緯糸だけで模様を表します。
小千谷市とその周辺で作られる紬です。小千谷縮の基本的な技術を生かして作られ、素朴で多彩な絣模様と、軽く温かみのある地風が魅力です。当地では昔から屑繭を使って自家用の紬が織られてきました。長年小千谷縮に隠れた存在でしたが、江戸末期以降は、麻から絹への転換が増えて、昭和の初期には本格的に紬の生産が始まりました。
経糸は真綿の手紡糸または玉糸を、緯糸は真綿の手紡糸を使います。伝統的な絣作りでは、手括り、または手摺り込みで、緯糸は小千谷縮と同様に木羽定規とよぶ薄板を重ねた定規を使って染めます。模様は主に緯糸で表します。織りは高機と、力織機も使います。国指定の伝統的工芸品。
制作工程
Ojiya Textile Industry Cooperative
手紡糸機で真綿から糸を作ります。
Ojiya Textile Industry Cooperative
絣糸を作るところ。手前が木羽定規。定規を一枚ずつ緯糸に当てて印付けをしてから、染料をヘラで摺り込みます。
Ojiya Textile Industry Cooperative
絣を合わせながら、機で丁寧に織り上げます。
【その後の小千谷紬(2026年現在)】
制作を継続中です。絣柄で知られますが、近年は、ひとえ向きの織物や高い技術をもとにした新たな製品開発など工夫を続けています。小千谷織物同業協同組合HP、インスタグラムなどで情報を発信。展示会や体験講座なども行っています。体験工房「織の座」では、見て、触れて、体験できるギャラリーとして、子供から大人の方まで楽しめます。実演の見学や、機織り体験なども可能です(体験は完全予約制)。
撮影=伊藤千晴 中村 淳 宮川久 構成・文=笹川茂実
『美しいキモノ』2015年秋号より
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