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台湾唯一の民間オーケストラ、エバーグリーン交響楽団(ESO)が来日した。率いたのはニューヨーク・フィルの音楽監督を務めたオランダのヤープ・ヴァン・ズヴェーデン。昨年からアーティスト・イン・レジデンスを務めている。設立されてまだ24年だが、台湾において急成長著しいオーケストラであることは来日公演のマーラーを聴いてよく分かった。ズヴェーデンは「よいオーケストラになるためには伝統や長い時間は必要ではない」と自信を見せる。

海外で音楽学んだ学生の「働く場」として

ESOは2002年、世界有数の長栄海運、エバー航空などを有する台湾のエバーグリーン・グループ(長榮集團)創業者、張栄発氏の財団法人張栄発基金会によって設立された。現在は財団の理事でESO最高責任者のジム・チャン氏は「創業者はクラシックが好きで、グループの財団が音楽を学ぶ学生たちに奨学金を出していました。しかし、彼らが海外から帰ってきても働く場がない。それでオーケストラを作りました。ESOのレベルを上げて、世界に知らしめるためには世界のトップ級の指揮者を呼ばなければならない。そこでズヴェーデンさんに白羽の矢を立てました」と話す。

ズヴェーデンは1960年、アムステルダム生まれ。ニューヨークのジュリアード音楽院でバイオリンを学び、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団でコンサートマスターを務めた。指揮者に転向しオランダ放送フィルの首席指揮者などを務め、アメリカのダラス交響楽団、香港フィルを経て、2018年から24年までニューヨーク・フィルの音楽監督。今シーズンからフランス放送フィルの音楽監督に就任する。

昨年、アーティスト・イン・レジデンスに就任したヤープ・ヴァン・ズヴェーデン=7月21日、オークラ東京(江原和雄撮影)

アジア人気質は「努力と辛抱強さ」

ズヴェーデンはソウル・フィルの音楽監督も務めるなど、アジアの音楽状況に詳しい。

「アジアのオーケストラの強みは弦楽器から始まっています。1970年代のジュリアード音楽院にはアジアの留学生がたくさんいました。突出していたのは日本と韓国です。台湾などほかのアジアの国が追ってきて、大きなコンクールの入賞者にアジア人が増えました。そして管楽器のレベルも徐々に上がってきました。NHK交響楽団や香港、ソウル、北京や上海などアジアのトップ級は弦楽器と管楽器が同じ水準になっています。私の役割はオーケストラを最上級に上げること。就任して1年半、ESOは理想とするレベルまでだんだん近づいています」


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ズヴェーデンはアジア人の気質についても言及した。

「私の父はピアニストでした。父との練習の際、父がもういいだろう、と言っても私はあと30分と粘って練習を続けました。私は勉強して努力をするという父の資質を受け継いでいます。アジア人の何かを成し遂げようと努力し、辛抱強いところはオーケストラが大きくなる要素です。ESOのメンバーももっと練習をしようと言ってきます」

7月21日、東京芸術劇場でのコンサートを聴いた。前半はバリトン、トーマス・ハンプソンを迎えてマーラーの歌曲集「子供の魔法の角笛」より、後半はマーラーの交響曲第1番「巨人」。「巨人」ではズヴェーデンの指揮にぴたりと合わせたオーケストラが、マーラーのダイナミクスの大胆な変化も見事に表現した。そしてメンバーの懸命な演奏ぶりに感動を覚えた。

今後は「王冠の中の宝石に」

ESOは5月、エリザベート王妃国際音楽コンクール入賞者で欧米においてソリストとして活躍しているウィリアム・ウェイをコンサートマスターに迎えるなどオーケストラのレベルアップのために次々と手を打っている。今回は東京と新潟。その前週にシンガポールで公演し、10月には再び来日し、京都、大阪で公演。来年はヨーロッパ・ツアーを行う。ズヴェーデンは年間10週間で20回指揮する。

「マーラーはとても重要な作曲家です。ハンプソンをゲストに呼んだのは一流のアーティストと音楽を構築する経験が大事だからです。オーケストラは時間が育てるという考え方には同意しません。素晴らしいオーケストラが100年後も素晴らしいかというと必ずしもそうではないのです。オーケストラの教育が大きくかかわります。ESOはこれから王冠の中の宝石となります」ときっぱり話す。

チャン最高責任者は「ズヴェーデンさんは19歳でコンセルトヘボウ管のコンサートマスターになりました。ダラス響の実力を上げ、香港フィルではリングチクルスで評判になりました。企業でいえば再建屋のような人でしょうか。ESOが世界で知られていくために財団は全面的にバックアップしていきます」と話す。


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自閉症の子供たちへのサポートも

財団の活動は音楽だけではない。教育支援や貧困家庭などへの援助、東日本大震災でも支援活動を行ってきた。その一つに、自閉症の子供たち向けのコンサートなどサポート活動がある。

実はズヴェーデンの子供の一人が自閉症。1997年、妻アールチェと共に自閉症の子供を持つ家族を支援するために、モーツァルトのオペラ「魔笛」の登場人物の名を持つパパゲーノ財団を設立した。自閉症の若者が生活し、働き、地域社会に参加できるパパゲーノ・ハウスを作った。いま45人の音楽家が音楽療法に携わっているという。

「財団の活動に共感したこともESOに就任した理由です。人生の中で大事なことは社会に還元することです」と話した。

筆者:江原和雄(産経新聞)

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