評・宮部みゆき(作家)
著者の葉真中さんは、貴重な社会派ミステリーの書き手として多くの読者をつかんでいる。「個人が幸せになろうとするのを妨げるものの正体を探ると、社会の
歪(ゆが)
みが見えてくる」という切実なテーマと事件の謎解きが合わさっているところが魅力だ。
『サメと救世主』カワイ・ストロング・ウォッシュバーン著
本書も、核となるのは(いつかどこかで起きてしまいそうな)リアルな悲劇。十八年間いわゆる引きこもりの生活をしていた男性が、自身の父親とホームレスの女性を殺害し、後者にいたってはその遺体を焼いたと自供する。凶行後、逃亡することもなく逮捕された男性の独白と、この事件を捜査する女性刑事の視点とを交互に重ねて、物語は進んでゆく。二つの殺人に真の動機はあるのか。孤独な
彷徨(ほうこう)
のうちに殺害されたホームレスの女性、通称「フラワーさん」の人生に何があったのか。メインの二人だけでなく、登場人物の誰に共感するかによって、謎が解けたとき心に浮かぶ
想(おも)
いが違ってくる。私はフラワーさんに自身の未来の不安を重ねる女性刑事の目で読み、読後しばらく、ほの温かい涙のなかにひたっている気分でした。(光文社、1870円)

読書委員プロフィル
宮部みゆき(
みやべ・みゆき
)
1960年生まれ。作家。87年に「我らが隣人の犯罪」でデビュー。99年に『理由』で直木賞。2007年に『名もなき毒』で吉川英治文学賞。22年に菊池寛賞を受賞。
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