
新潟県のシティホテルでは、同一ホテル内で朝食付プランと2食付プランの両方を売っている施設(N=11)の差額が +¥11,600・+42.7% に達する。一方、同じ施設群で朝食付と食事なしの差額(N=16)は +¥2,600・+12.2% にとどまる。朝食の段より夕食の段のほうが4.4倍厚いということだ。ビジネスホテルでも夕食の段は朝食の段の4.9倍(+¥3,900/+¥800)だが、率で見ると夕食の段はシティ42.7%に対しビジネス22.5%と、業態間で1.9倍の開きがある。プラン棚のどの段に単価を積む余地が残っているのか、新潟県の同一ホテル内ペア比較から整理する。
対象: 新潟県のホテル(食事プレミアムは同一ホテル内で両方の食事区分を販売する施設のみのペア比較・2026年9月断面、県全体 N=99施設/2食付ペア N=51施設)。推定成約ADRはシティホテル N=18施設・ビジネスホテル N=126施設(2026年8月確定)。本記事の価格指標は推定成約ADR(OTA等の販売データから推定される成約価格水準・税抜相当)で、食事プレミアムはプラン間の差額のみを扱う。定義は記事末尾。データ時点: 2026年9月9日。
Key Takeaways
— +42.7%(N=11)— 新潟県のシティホテルの夕食の段(2食付−朝食付)。朝食の段+12.2%(N=16)の4.4倍の厚みがある。
— +22.5%(N=23)— ビジネスホテルの夕食の段。シティのおよそ半分だが、朝食の段+5.4%(N=66)に対しては4.9倍。
— 5か月ぶれない — 夕食の段はシティ36.8〜45.9%、ビジネス20.3〜24.7%に収まる。一方ビジネスの朝食の段は5月+12.5%から8月+3.3%へ縮む。
— +0.5%(N=28)— 新潟市中央区のビジネスホテルの朝食の段。長岡市+9.2%・上越市+10.9%・三条市+10.0%とは対照的で、段が消えるのは中心部の現象。
— 22都道府県中4番目 — シティホテルの夕食の段として新潟+42.7%は中央値+36.0%を6.7ポイント上回る(ペア8施設以上の22都道府県・2026年9月断面)。
朝食の段と夕食の段は、同じ「食事付」でも厚みが違う
食事プレミアムを測るときに最も起きやすい誤りは、朝食付プランを売っている施設群の平均と、素泊まりプランを売っている施設群の平均を引き算してしまうことだ。この引き算は食事の価値ではなく、施設グレードの差を測ってしまう。ここで使うのは同一ホテル内で両方の食事区分を実際に販売している施設だけを抽出し、その施設ごとの差額を平均した値である。したがって以下の数値は、水準(いくらで売られているか)ではなく差分(食事区分を1段上げたときに何円積み増されているか)を示す。母数(N)はペアが成立した施設数であり、ペアごとに母集団が変わるため、N は必ず併記する。
2026年9月断面の新潟県は、次のとおりである。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
シティホテルは、朝食の段が+¥2,600(+12.2%・N=16)、夕食の段が+¥11,600(+42.7%・N=11)。食事なしから2食付まで一気に上げると+¥14,300(+58.5%・N=11)である。ビジネスホテルは朝食の段が+¥800(+5.4%・N=66)と薄く、夕食の段は+¥3,900(+22.5%・N=23)、食事なしから2食付までで+¥4,900(+29.7%・N=22)。どちらの業態でも、積み増しの大半は朝食ではなく夕食の段で発生している。
県全体(N=99)で見ると朝食の段は+¥300(+1.7%)とほぼ平坦で、夕食の段は+¥7,700(+30.8%・N=51)。県全体の朝食の段が平坦なのは、後述するとおりビジネスホテルの構成比が高く、かつリゾートホテルのペアがマイナス圏にあるためで、業態を混ぜた県平均から自館の適正な段差を読み取るのは難しい。業態別に見るべき指標である。
表1: 新潟県の食事プレミアム — 業態別の朝食の段・夕食の段・2段合計(2026年9月断面・同一ホテル内ペア比較)
業態
朝食の段
(朝食付−食事なし)
夕食の段
(2食付−朝食付)
2段合計
(2食付−食事なし)
シティホテル+¥2,621/+12.2%
N=16+¥11,575/+42.7%
N=11+¥14,264/+58.5%
N=11
ビジネスホテル+¥800/+5.4%
N=66+¥3,904/+22.5%
N=23+¥4,920/+29.7%
N=22
リゾートホテル−¥4,365/−10.0%
N=12(下記注記)+¥9,724/+25.5%
N=13+¥4,874/+11.2%
N=12
県全体+¥334/+1.7%
N=99+¥7,729/+30.8%
N=51+¥7,369/+28.9%
N=50
新潟県・2026年9月断面。同一ホテル内で両方の食事区分を販売する施設のみのペア比較。旅館は食事込みの料金設計が前提のため本集計の対象外。出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
リゾートホテルの朝食の段がマイナス(−¥4,400/−10.0%・N=12)である点は、そのまま「朝食に価値がない」と読んではいけない。同一ホテル内のペアであっても、朝食付プランと食事なしプランでは対象となる部屋タイプ・販売期間の構成が揃わないことがあり、選択バイアスが残る。リゾートは食事なしプランが広い部屋や連泊向けに設定されているケースがあり、その構成差が差額に乗る。同じ業態でも夕食の段は+¥9,700(+25.5%・N=13)とプラスであることから、リゾートの数値は「朝食の段の測定が構成差に弱い」ことを示す例として扱い、断定的な解釈はしないのが妥当である。なお旅館は食事込みの料金設計が前提であり、食事区分の段差という概念自体が当てはまらないため本テーマの対象外とした。
夕食の段は5か月間ぶれない、朝食の段は繁忙月に縮む
単月の断面だけでは、この段差が構造的なものか一時的なものか判断できない。集計可能な直近5か月(2026年5月〜9月)の推移を追うと、夕食の段は業態ごとにきわめて安定していた。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
シティホテルの夕食の段は36.8%〜45.9%(N=11で5か月固定)、ビジネスホテルは20.3%〜24.7%(N=23で固定)、リゾートホテルは22.4%〜27.3%(N=11〜14)のレンジに収まる。5か月を通じてシティの夕食の段はビジネスのおよそ2倍という関係が崩れない。同じペア施設群を追跡しているため、この差は施設の入れ替わりではなく、業態ごとの夕食商品の設計そのものを反映していると読める。ビジネスホテルの夕食の段が全国でどのレンジに散らばっているかは、夕食の上乗せ幅は全国中央値+28.3%・¥4,451で都道府県別に比較している。
対照的に動いたのが朝食の段である。ビジネスホテル(N=65〜66)の朝食の段は5月+12.5%、6月+10.4%、7月+9.7%と推移したのち、8月は+3.3%、9月は+5.4%へ縮小した。一方シティホテル(N=16)の朝食の段は5月+10.2%、6月+11.1%、7月+11.5%、8月+10.2%、9月+12.2%とほぼ一定である。夏の繁忙期にビジネスホテルの段差だけが縮むという形は、繁忙日に食事なし側の設定が引き上げられて相対的に差が詰まる動きと整合する。朝食の段は需要期に「食べられてしまう」段であり、夕食の段は季節を通じて維持されている段だという違いが、この5か月の観測からは読み取れる。
表2: 朝食の段と夕食の段の5か月推移 — シティホテル・ビジネスホテル(2026年5月〜9月)
対象月
シティ 朝食の段
シティ 夕食の段
ビジネス 朝食の段
ビジネス 夕食の段
2026年5月+10.2%(N=16)+40.7%(N=11)+12.5%(N=66)+20.5%(N=23)
2026年6月+11.1%(N=16)+45.9%(N=11)+10.4%(N=66)+24.7%(N=23)
2026年7月+11.5%(N=16)+43.1%(N=11)+9.7%(N=65)+22.3%(N=23)
2026年8月+10.2%(N=16)+36.8%(N=11)+3.3%(N=66)+20.3%(N=23)
2026年9月+12.2%(N=16)+42.7%(N=11)+5.4%(N=66)+22.5%(N=23)
新潟県・同一ホテル内ペア比較。朝食の段=朝食付−食事なし、夕食の段=2食付−朝食付。出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
朝食の段は立地で割れる — 新潟市中央区のビジネスホテルはほぼゼロ
朝食の段をさらに市区町村別に分解すると、県内でもきれいに割れる。ペアが5施設以上成立した市区町村に限ると、2026年9月断面は次のとおりである。
表3: 朝食の段の市区町村別分解 — ペア成立5施設以上の市区町村(2026年9月断面)
市区町村
業態
朝食の段(円)
朝食の段(%)
N
新潟市中央区シティホテル+¥3,944+15.8%7
新潟市中央区ビジネスホテル+¥73+0.5%28
上越市ビジネスホテル+¥1,650+10.9%5
三条市ビジネスホテル+¥1,212+10.0%6
長岡市ビジネスホテル+¥1,520+9.2%9
新潟市中央区全体+¥847+5.1%35
新潟県・2026年9月断面。ペア成立が5施設未満の市区町村は掲載していない。出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
最も目を引くのは新潟市中央区のビジネスホテルで、朝食の段が+¥73(+0.5%・N=28)とほぼ消えていることだ。同じ中央区でもシティホテルは+15.8%(N=7)の段差を保っており、業態でまったく別の景色になる。県内の他都市(上越市+10.9%・N=5、三条市+10.0%・N=6、長岡市+9.2%・N=9)はいずれも+9〜11%の段差を維持しているため、「朝食の段が消えているのは新潟県のビジネスホテル全体ではなく、供給が密集する中心部の現象」と切り分けられる。中心部で朝食を無料化・低価格化する運用が広がると、周辺の施設も段差を維持しにくくなる。朝食を単価の主戦場に置いている施設ほど、この市区町村レベルの分解を定点で見る意味がある。県をまたいだ朝食の段の水準感については、朝食プレミアム全国47都道府県が業態別の中央値を整理しており、自館の位置を確かめる物差しになる。
単価そのものの地合い — シティは前年割れ、ビジネスは前年超え
食事の段差をどう使うかは、ベースの単価がどちらを向いているかで変わる。新潟県の推定成約ADR(確定値)を年重ねで見ると、シティホテル(N=18施設)は2026年8月が¥10,400で前年同月の¥11,800に対し−11.9%。4月−10.0%、6月−7.6%、7月−5.3%と、春以降は前年割れの月が続いている。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
一方でビジネスホテル(N=126施設)の2026年8月は¥8,400で前年同月の¥8,000から+5.4%、1月+4.9%、2月+4.7%、3月+4.0%、6月+10.8%と、確定月の多くが前年を上回っている。同じ県内でも業態で地合いが逆を向いているということだ。この業態間の分岐が上期を通じてどう形成されてきたかは、新潟のビジネスホテルは6月+10.8%、シティは−7.6%で月次の確定値を追っている。
ここで先ほどの段差を重ねると、示唆は明快になる。単価が前年割れしているシティホテルは、素泊まり・朝食付のレンジで正面から値上げするより、5か月間ぶれていない夕食の段(+42.7%)を積む余地のほうが実務的に扱いやすい。逆にベースが前年超えで推移するビジネスホテルは、朝食の段が繁忙月に縮む(8月+3.3%)性質を踏まえ、朝食を単価の中心に置くのではなく、繁忙日は食事なしの側を素直に上げる設計が噛み合う。
なお2026年9月以降の推定成約ADRは「現時点の販売状況に基づく推定」であり、確定値とは基準が異なる。両者を並べて増減を語ることはできないため、上図は確定月のみを図示し、9月以降は本記事の判断材料に用いていない。
段差の厚みを他県と比べ、積んだときの上乗せ額を見積もる
ここまでは新潟県の内側だけを見てきた。自館の段差を動かす判断をする前に、二つ確かめておきたいことがある。ひとつはこの+42.7%という厚みが全国のなかでどの位置にあるのか、もうひとつは実際に2食付の構成比を動かしたとき、客室1泊あたりの単価がどれだけ動くのかである。
新潟のシティ42.7%は、ペアが成立する22県のなかで4番目の厚み
同じ集計方法(同一ホテル内で2食付と朝食付の両方を販売する施設だけのペア比較)を全国に当てはめ、シティホテルでペアが8施設以上成立した都道府県を並べると、2026年9月断面では22都道府県が対象になる。その中央値は+36.0%で、レンジは大阪府+19.4%(N=20)から滋賀県+48.5%(N=10)まで開く。
表4: シティホテルの夕食の段の都道府県比較 — ペア8施設以上の22都道府県から抜粋(2026年9月断面)
都道府県
夕食の段(%)
夕食の段(円)
N
滋賀県+48.5%+¥13,94310
静岡県+46.6%+¥17,27416
兵庫県+45.5%+¥15,98825
新潟県+42.7%+¥11,57511
京都府+41.1%+¥17,75822
長野県+39.7%+¥12,8399
神奈川県+39.4%+¥16,33016
岡山県+35.3%+¥11,31911
東京都+32.2%+¥17,33224
千葉県+32.0%+¥10,25021
福岡県+22.7%+¥9,49517
大阪府+19.4%+¥7,55120
2026年9月断面。シティホテルの2食付−朝食付。ペア成立が8施設未満の都道府県は対象外(対象22都道府県の中央値+36.0%)。全22都道府県のうち抜粋して掲載。出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
新潟県の+42.7%(N=11)は22都道府県中4番目で、中央値を6.7ポイント上回る。率で上位に来る一方、実額では+¥11,575と、同じく上位の静岡県+¥17,274(+46.6%・N=16)や京都府+¥17,758(+41.1%・N=22)とは開きがある。率が高くても実額が中位にとどまるのは、新潟のシティホテルの朝食付の水準が上位県ほど高くないためで、率で見た厚みと、1泊あたりで積める金額は別の指標として読む必要がある。逆に東京都は+32.2%(N=24)と率では中位以下だが実額は+¥17,332と大きい。自館の位置を確かめるときは、率で業態レンジからの外れ方を見て、実額で積める金額を見る、という二段構えが要る。
2食付の構成比が動くと、客室1泊あたりの上乗せ額はどれだけ動くか
段差そのものは商品設計の話だが、実際に単価へ効くのは段差 × その段が売れた構成比である。直近5か月で観測された夕食の段のレンジを、下限・中位・上限の3水準に置き換えて感応度を見る。シティホテル(N=11・5か月固定ペア)は下限が2026年5月の+¥10,416(+40.7%)、中位が7月の+¥11,196(+43.1%)、上限が6月の+¥11,725(+45.9%)。ビジネスホテル(N=23)は同じ順に+¥3,504(+20.5%)、+¥3,654(+22.3%)、+¥4,022(+24.7%)である。
表5: 2食付の構成比 × 夕食の段の観測レンジ — 客室1泊あたり平均単価への上乗せ額(機械的試算)
朝食付から2食付へ
置き換わる構成比
シティホテル(N=11)
ビジネスホテル(N=23)
下限
+¥10,416
中位
+¥11,196
上限
+¥11,725
下限
+¥3,504
中位
+¥3,654
上限
+¥4,022
5%+¥520+¥560+¥590+¥180+¥180+¥200
10%+¥1,040+¥1,120+¥1,170+¥350+¥370+¥400
15%+¥1,560+¥1,680+¥1,760+¥530+¥550+¥600
20%+¥2,080+¥2,240+¥2,340+¥700+¥730+¥800
25%+¥2,600+¥2,800+¥2,930+¥880+¥910+¥1,010
上乗せ額=夕食の段 × 構成比。下限・中位・上限は2026年5月〜9月に観測された夕食の段の最小値・中央値・最大値(シティ=5月/7月/6月、ビジネス=5月/7月/6月)。¥10単位に丸め。出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
読み方は単純である。シティホテルで朝食付として売れていた10泊に1泊(構成比10%)が2食付に置き換わると、客室1泊あたりの平均単価は+¥1,040〜+¥1,170上がる。構成比が20%まで伸びれば+¥2,080〜+¥2,340になる。前節で見たとおりシティホテルの推定成約ADRは2026年8月に前年同月比−11.9%(N=18施設)だったから、この前年割れ分を段差の側で埋め戻そうとするなら、必要な構成比は決して小さくないことがわかる。ビジネスホテルは段差そのものが薄いため、同じ構成比10%でも+¥350〜+¥400にとどまり、単価の主戦場としては朝食でも夕食でもなく素泊まり側の価格設定が効きやすい、という前節の整理と整合する。
ただしこの表は予測ではなく、観測された段差を使った機械的な試算である。同じ客室数・同じ稼働のまま構成比だけが入れ替わった場合の計算であり、2食付の投入による需要創出も、朝食付からの単純な移動(カニバリ)も織り込んでいない。夕食原価・レストランの席数・人員も同様に含まれない。したがってこの表は「積んだらいくらになる」という約束ではなく、どの構成比まで動かせば議論に値する金額になるかの当たりをつけるための目安として使うのが妥当である。実額は自館の段差で置き換えて計算し直してほしい。
新潟県のシティ・ビジネスホテルを運営するレベニューマネージャーへ — 示唆とアクションプラン
(1) 「食事付を強化する」では粗すぎる。強化すべき段は夕食である。新潟県のシティホテルでは朝食の段+12.2%(N=16)に対し夕食の段+42.7%(N=11)、ビジネスホテルでも+5.4%(N=66)に対し+22.5%(N=23)。自館のプラン棚を見直すとき、朝食付の価格を何百円動かすかという議論に時間を使うより、2食付の枠が棚に存在しているか、存在していても検索結果で見える位置にあるかを先に確認したい。
(2) 業態のレンジを自館の段差の物差しにする。自館の2食付と朝食付の差額が、シティならおおむね+40%前後、ビジネスなら+20%台という市場のレンジからどれだけ離れているかを見る。大きく下回っていれば、夕食原価を回収しきれていない設定になっている可能性がある。逆に大きく上回る場合は成約が付いているかを併せて確認し、段差そのものではなく販売数の問題として扱う。
(3) 朝食の段は「守る段」ではなく「消えうる段」として扱う。ビジネスホテルの朝食の段は5月+12.5%から8月+3.3%まで縮んだ。新潟市中央区に至っては+0.5%(N=28)である。中心部立地でこの段に単価を依存する設計は、需要期ほど機能しにくい。中央区以外(長岡市+9.2%・上越市+10.9%・三条市+10.0%)では段差が残っているため、立地で運用を分けるのが自然だ。
(4) 単価の地合いと段差の使い分け。シティホテルの確定ADRは2026年8月−11.9%と前年割れが続く一方、ビジネスホテルは+5.4%と前年超え。ベースが伸びない業態ほど、夕食の段という別の軸で単価を積む設計に振り替える余地がある。ただし夕食の段はレストランの席数と人員が制約になるため、RM単独では決められない。次の表は、その制約を前提にした進め方である。
表6: 段差設計のアクションプラン — 時間軸別の打ち手と判断トリガー
時間軸
打ち手
判断トリガー(記事中の数値)
狙い
今日〜今週自館の棚を「食事なし・朝食付・2食付」の3段で並べ、各段の差額を実額と率で書き出す2食付の枠が棚に無い、または朝食付との差額がシティ+42.7%/ビジネス+22.5%を大きく下回る場合積む余地が朝食側か夕食側かを事実で特定する
今日〜今週朝食の段への依存度を立地で点検する新潟市中央区立地で、朝食付が単価上積みの主軸になっている場合(同エリアのビジネスホテルの段差は+0.5%・N=28)機能しにくい段に依存した設計を早期に見直す
2週間以内レストラン側と、曜日別に提供可能な夕食席数の上限をすり合わせる夕食の段を積む方針を採る場合(シティの段差は直近5か月36.8〜45.9%で安定)売れる枠数を先に確定し、販売可能量の裏付けを作る
2週間以内繁忙日は2食付を優先的に見せ、閑散日は食事なしの露出を戻す出し分けを設計する繁忙月に朝食の段が縮む形が自館でも確認できる場合(ビジネスホテル県平均は8月+3.3%)需要が強い日に厚い段へ、弱い日に客数確保へ役割を分ける
来月に向けて価格改定カレンダーに「段差の点検日」を月1回入れる自館の段差が業態レンジから外れた月が2か月続いた場合単価の議論を水準だけでなく段差の軸でも回す
来月に向けてベース単価の地合いに応じて主戦場を決め直すシティで前年割れが続く場合(2026年8月確定−11.9%・N=18施設)正面からの値上げに頼らない単価の積み方を確保する
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
いずれも効果を保証するものではなく、自館の商品構成・レストラン運営体制によって適否は変わる。特に夕食の段は、席数・人員・原価という客室側では制御できない条件に強く依存するため、段差の設計は必ず調理・レストラン部門との合意の上で進めたい。
まとめ — 3つの物差し
新潟県の同一ホテル内ペア比較から、繰り返し使える物差しは3つある。
第一に、段の厚みの比。朝食の段に対して夕食の段は、シティで4.4倍、ビジネスで4.9倍。食事付の強化を検討するとき、どちらの段に手を入れるかでインパクトが桁で違う。
第二に、業態レンジ。夕食の段はシティ+42.7%(N=11)、ビジネス+22.5%(N=23)で、直近5か月ともシティがビジネスのおよそ2倍という関係を保つ。自館の段差をこのレンジに当てて、外れ方の向きを確認する。
第三に、段の安定性。夕食の段は季節を通じて維持される一方、朝食の段は繁忙月と中心部立地で縮む(ビジネスホテル県平均8月+3.3%、新潟市中央区+0.5%・N=28)。単価の柱をどちらの段に置くかは、この安定性の差を踏まえて決めたい。
食事プレミアムは、客室の値付けとレストラン運営が交わる数少ない共通言語である。差分という形で棚を点検すれば、価格表を眺めているだけでは見えない余地が、業態と立地の単位で浮かび上がってくる。
データについて
■ データソース
・食事プレミアム: メトロエンジンリサーチが収集する宿泊料金データから、新潟県内の宿泊施設の食事区分別の販売価格を集計したもの。対象月は2026年5月〜9月(集計可能な範囲)。都道府県比較(表4)は同一の集計方法を全国に適用し、シティホテルでペアが8施設以上成立した22都道府県を対象とした。
・推定成約ADRの定義: OTA等の販売データ(最安プラン水準×業態別係数・複数チャネルのアンサンブル)から推定した成約価格水準(税抜相当)。過去月は確定値、現在・未来月は現時点の販売状況に基づく推定値。
・対象Nの内訳: 食事プレミアムは新潟県・県全体N=99施設(朝食の段)/N=51施設(夕食の段)、シティホテルN=16/11、ビジネスホテルN=66/23、リゾートホテルN=12/13。推定成約ADRはシティホテルN=18施設、ビジネスホテルN=126施設(いずれも2026年8月確定)。
・データ時点: 2026年9月9日。
■ 試算前提
・食事プレミアムの算出方法: 同一ホテル内で比較対象となる2つの食事区分(食事なし/朝食付/2食付)の両方を販売している施設だけを抽出し、施設ごとの差額を平均したもの。片方の食事区分しか販売していない施設は含めないため、施設グレードの差ではなく食事区分そのものの差分を測っている。N=ペアが成立した施設数で、ペアごとに母集団が変わるため各数値に併記した。本記事では水準(各食事区分の価格そのもの)は扱わず、差分(円・%)のみを提示している。
・旅館は食事込みの料金設計が前提であり、食事区分の段差という比較軸が当てはまらないため本集計の対象外。
・表5の上乗せ額: 夕食の段 × 構成比 の機械的な積であり、同じ客室数・同じ稼働のまま、朝食付で売れていた分の一部が2食付へ置き換わった場合の客室1泊あたり平均単価の変化として計算した。下限・中位・上限は2026年5月〜9月に観測された夕食の段の最小値・中央値・最大値を用い、¥10単位に丸めている。需要創出効果・カニバリ・夕食原価・レストランの席数と人員は織り込んでいない。予測ではなく感応度の目安である。
・前年同月比は確定月同士のみで算出している。
■ 限界・留意点
・2026年9月の食事プレミアムは現時点の販売状況に基づくスナップショットであり、販売条件の変更により変動しうる。2026年9月以降の推定成約ADRは確定値と基準が異なるため、本記事の判断材料には用いていない。
・同一ホテル内のペアであっても、食事区分によって対象となる部屋タイプ・販売期間の構成が揃わない場合があり、選択バイアスが残る(本文で触れたリゾートホテルの朝食の段がその例)。
・推定成約ADRは公表運営実績との照合で誤差中央値6.6%。
・ペア成立が5施設未満の区分は引用していない。都道府県比較(表4)はペア8施設未満の都道府県を対象外とした。
・本記事では稼働率(推定OCC)およびブッキングカーブは取り扱っていない。
・販売状況・在庫は日々変動するため、本記事の数値は取得時点のスナップショットである。
