
熊本県のビジネスホテルには、2025年と2026年の2年間で14施設・1,619室が新たに加わった。掲載在庫ベースの客室母数(2026年8月平均12,742室・109.1施設)に対して約12.7%に相当する厚みである。ところが、この供給が積み上がった局面で推定成約ADRは崩れていない。確定値ベースで2026年7月は¥6,574(N=119施設)、前年同月の¥6,634(N=115施設)に対して−0.9%。1〜8月の確定月平均でみれば2026年¥6,966に対し2025年¥6,800で+2.5%と、むしろ小幅な上昇である。同じ期間の推定OCC(OTA掲載在庫ベース)も2026年7月で月平均85.6%を保っている。「稼働は保てているのに単価が伸びきらない」 — 熊本のレベニューマネジメントが直面しているのはこの構図であり、値崩れではない。本稿では供給・単価・稼働・予約進捗の4点を実測で並べ、供給圧力下で打つべき手の順序を整理する。
対象: 熊本県のビジネスホテル N=119施設(2026年7月確定値)、補助線としてシティホテル N=19施設。本記事の価格指標は推定成約ADR(OTA等の販売データから推定される成約価格水準・税抜相当)、稼働率はOTA掲載在庫ベースの推定値。いずれも定義は記事末尾。データ時点: 2026年9月7日。
Key Takeaways
— 2年で14施設・1,619室が熊本県のビジネスホテルに加わった。掲載在庫ベースの客室母数に対して約12.7%相当の供給である。
— それでも推定成約ADRは崩れていない。2026年1〜8月の確定月平均は¥6,966(前年比+2.5%)。
— ただし福岡+8.9%・大分+7.2%と比べると伸び切れておらず、供給のコストは値崩れではなく値上げ機会の逸失として現れている。
— 推定OCCは2026年4〜8月で81.9〜96.2%と高水準。一方で曜日別は土曜91.4%・日曜79.7%と11.7ポイントの段差があり、RevPARの余地は平均値の外側にある。
— 予約は宿泊日の45日前から30日前の15日間で15〜21ポイント積み上がる。価格設計はこの窓に入る前に固めるのが要点。
2年で1,619室 — 供給は「数」ではなく「塊」で入った
まず供給側の事実を押さえる。熊本県全体では2025年に38施設・827室、2026年に49施設・1,448室が新たに開業(2026年は年内開業予定を含む)。2年合計で87施設・2,275室となる。ただしこの数字は貸別荘やゲストハウス、リゾート系を含む全業態の合計であり、ビジネスホテルの価格形成に直接効くのはこのうちの一部だ。業態をビジネスホテルに絞ると2025年7施設・725室、2026年7施設・894室、2年で14施設・1,619室となる。
重要なのは内訳である。14施設のうち200室以上の5施設だけで1,058室、つまり新規供給の約65%を占める。50室未満の小規模案件は5施設あるが合計72室にとどまり、価格への影響はほぼ無視できる。供給は「じわじわ増えた」のではなく、数件の大型案件が塊で入ったという形をしている。さらに、施設名に空港が付く案件だけで3施設・624室 — 新規供給の約4割が空港周辺に集中した。市街地(熊本駅前・繁華街)と空港周辺という、需要源が異なる二つのエリアに供給が分かれて入った点は、後述するセグメント戦略の前提になる。
※データに関する注記
本表の新規開業集計はOTA掲載確認ベースです。OTA事前掲載は全体の約19%にとどまり、半数以上が開業後の掲載のため、直近以降の月・年(本表では2026年後半)は今後の掲載で軒数・室数が増加する可能性があります。確認申請・着工ベースの建築計画パイプライン(国土交通省「建築動態統計調査」=建築着工統計調査・建築物滅失統計調査)と併せて参照することを推奨します。
熊本県のビジネスホテル新規開業(2025年・2026年、2026年は年内開業予定を含む)/OTA掲載確認ベース、N=14施設/出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース)、ホテルバンク編集部より作成
区分
施設数
客室数
構成比(室数)
200室以上51,058室65.3%
100〜199室2367室22.7%
50〜99室2122室7.5%
50室未満572室4.4%
合計(2025+2026年)141,619室100%
推定成約ADRは崩れず、しかし伸びてもいない
供給が12.7%相当積み上がれば単価は下がる — という直感は、実測では裏切られている。熊本県ビジネスホテルの推定成約ADR(確定値)は、2024年が¥6,623〜¥7,246のレンジ、2025年が¥6,476〜¥7,305、2026年(1〜8月)が¥6,574〜¥7,346。年を重ねてもレンジそのものはほぼ動いていない。下のチャートは3年分を1〜12月の同一軸に重ねたものだが、3本の線は概ね同じ帯の中を上下している。
熊本県ビジネスホテル・推定成約ADR(確定値・税抜相当)/N=104〜122施設/出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
確定月同士で前年同月比をとると、季節ごとの濃淡が見えてくる。2026年1月は+9.9%と大きく伸びた一方、6月は−0.3%、7月は−0.9%と前年割れ。8月は+4.0%に戻している。シティホテル(N=19施設)はより振れ幅が大きく、1月+25.6%、2月+6.6%と年初が強い反面、4月−3.8%、6月−6.6%、7月−2.6%、8月−7.5%と春から夏にかけて前年を下回った。年間を通じた地盤沈下ではなく、月ごとに勝ち負けが分かれているのが熊本の実像である。
熊本県・推定成約ADR(税抜相当)確定値同士の前年同月比/ビジネスN=110〜122施設、シティN=18〜19施設/出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
確定月
ビジネス2026
ビジネス2025
前年同月比
シティ2026
シティ2025
前年同月比
1月¥7,120¥6,476+9.9%¥11,781¥9,382+25.6%
2月¥7,132¥6,958+2.5%¥9,635¥9,037+6.6%
3月¥6,814¥6,712+1.5%¥9,058¥9,168−1.2%
4月¥6,868¥6,740+1.9%¥8,952¥9,309−3.8%
5月¥7,264¥7,176+1.2%¥10,216¥10,088+1.3%
6月¥6,612¥6,635−0.3%¥8,332¥8,921−6.6%
7月¥6,574¥6,634−0.9%¥8,842¥9,078−2.6%
8月¥7,346¥7,066+4.0%¥10,022¥10,835−7.5%
1〜8月平均¥6,966¥6,800+2.5%¥9,605¥9,477+1.4%
この+2.5%(ビジネス・1〜8月確定月平均)という数字は、単体では判断がつきにくい。近隣県の同カテゴリ・同期間の確定値で並べると位置づけがはっきりする。福岡県は2025年¥9,976→2026年¥10,859で+8.9%(N=341施設)、大分県は¥6,075→¥6,510で+7.2%(N=91施設)、鹿児島県は¥6,016→¥6,136で+2.0%(N=161施設)。熊本の+2.5%は、九州の中では伸び幅の小さいグループに属する。つまり熊本のビジネスホテルは値崩れを回避することには成功したが、周辺市場が享受した単価上昇には乗り切れていない。供給1,619室のコストは「価格の下落」ではなく「値上げ機会の逸失」という形で払われた、と読むのが実測に整合する。なお熊本市中心部に限れば客室供給は2019年比+26.0%に達しており、この供給増の局面で価格を守るための実務フレームは熊本市中心部の客室供給は2019年比+26.0%で整理している。全国47都道府県で供給増がADRに効く条件を検証したホテル新規供給はADRを下げるかも、熊本の位置づけを掴むうえで参考になる。
稼働は保たれている — ただし曜日で7〜12ポイントの段差がある
単価が伸びきらない一方で、在庫の消化は良好だ。熊本県ビジネスホテルの推定OCC(OTA掲載在庫ベース)は、2026年4月81.9%、5月85.9%、6月82.6%、7月85.6%、8月96.2%。シティホテルも同期間で86.8%/89.5%/86.7%/88.4%/95.6%と、いずれも80%台後半〜90%台の水準を保っている。供給が12.7%相当増えたにもかかわらず、市場全体としては需要が受け止めている格好である。
熊本県・推定OCC(OTA掲載在庫ベース)月平均/ビジネスは日次で104〜110施設、シティは17〜18施設を観測/出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
対象月(2026年)
ビジネス 推定OCC
シティ 推定OCC
4月81.9%86.8%
5月85.9%89.5%
6月82.6%86.7%
7月85.6%88.4%
8月96.2%95.6%
ただし月平均は実態を平準化してしまう。2026年5〜8月の日次データを曜日別に集計すると、熊本のビジネスホテルには明確な段差がある。最も高いのは土曜91.4%、次いで木曜90.6%、火曜89.6%、水曜89.3%。一方で日曜は79.7%と突出して低く、月曜・金曜も86.5%で並ぶ。土曜と日曜の差は11.7ポイント、木曜と日曜の差は10.9ポイントに達する。
熊本県ビジネスホテル・曜日別の推定OCC(OTA掲載在庫ベース、2026年5月〜8月の日次実績を曜日で平均・各曜日17〜18日分)/出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
この形は示唆に富む。金曜が火・水・木より低いということは、熊本のビジネスホテル需要が「平日出張+土曜のレジャー・イベント」の二山構造で、金曜と日曜が谷になっているということだ。月内で最も高い日と低い日の開きも大きく、2026年7月では最高が7月18日(土)の98.2%、最低が7月5日(日)の68.6%で、その差は29.6ポイントある。月平均85.6%という数字の内側に、ほぼ満室の日と3割強が空いている日が同居している。供給が増えた市場でRevPARを積み増す余地は、まずこの段差の中にある。この曜日の形は業態によって正反対になることも分かっており、熊本の旅館・リゾートまで含めた比較は熊本県の曜日別稼働は業態で真逆で詳しく分析している。
予約はいつ積み上がるか — 45日前から直近までのブッキングカーブ
価格を動かすタイミングを決めるには、在庫がどのペースで消化されるかを知る必要がある。熊本県ビジネスホテルについて、9月と10月の金曜・土曜を宿泊日として、宿泊日の45日前から直近までの推定OCCの推移を並べた。
熊本県ビジネスホテル・宿泊日別ブッキングカーブ(推定OCC/OTA掲載在庫ベース、宿泊日の45日前から直近までの観測に基づく)/出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
9月11日(金)は45日前に63.6%、30日前で84.7%、直近(5日前)で91.8%。9月12日(土)は45日前69.9%、30日前85.0%、直近(6日前)92.7%。両日に共通するのは、45日前から30日前までの15日間で15〜21ポイントが一気に積み上がり、そこから直近までは6〜8ポイントの緩やかな上積みで着地しているという形だ。つまり熊本のビジネス需要は「T-45からT-30の窓」で勝負が決まり、その後は微調整の局面に入る。
10月の2日(金)・3日(土)は本稿のデータ時点でまだ観測窓の途中にあるが、同じLT(残り日数)で照合すると進捗の温度差が見える。10月2日は45日前67.6%、30日前76.5%、直近(26日前)77.9%。10月3日は45日前73.9%、30日前81.3%、直近(27日前)82.5%。出発点は9月の同曜日より高いのに、30日前時点では金曜で8.2ポイント、土曜で3.7ポイント低い。9月に見られた「T-45→T-30の急上昇」が、10月上旬の2日についてはまだ同じ角度では立ち上がっていない。
この差をどう読むかは慎重であるべきだ。10月上旬はまだ観測が進行中であり、残りの日数で追いつく可能性は十分にある。ただし少なくとも、9月と同じ「T-30までに8割超」というペースには乗っていない。カーブの立ち上がりが緩いということは、裏を返せば価格を動かして需要を引き寄せる余地が、直前ではなくもう少し手前に残っているということでもある。
現時点の販売状況からみた秋の水準
参考として、現在・未来の宿泊月について現時点の販売状況に基づく推定値を示す。これは月内の販売が完了していない時点でのスナップショットであり、確定値とは集計の基礎が異なる。上表の確定値と単純に比較することはできず、月末の確定を待つ必要がある。用途は「未来月同士の相対的な強弱を見る」ことに限られる。
熊本県・推定成約ADR(税抜相当)現時点の販売状況に基づく推定値。販売の進捗により変動し得る/確定値との単純比較は月末の確定を待つ/出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
宿泊月
ビジネス(現時点推定)
シティ(現時点推定)
2026年9月¥10,918(N=119)¥14,757(N=19)
2026年10月¥10,590(N=116)¥13,166(N=19)
2026年11月¥10,414(N=113)¥14,200(N=19)
2026年12月¥9,586(N=106)¥13,098(N=17)
未来月同士で並べると、10月・11月が9月に次ぐ水準で、12月に向けて緩む形になっている。秋の需要期に価格の芯を作り、12月に向けた谷をどう埋めるかが当面の設計課題であることは、この並びからも読み取れる。なお10月以降の需要環境については、11月・12月の在庫消化ペースを実測した九州応援割は対象7県・10月1日からが、この谷の読み方を補ってくれる。
熊本のビジネス・シティホテルを運営するレベニューマネージャーへ — 示唆とアクションプラン
運営目線のインサイト
(1) 「稼働が良いのに単価が伸びない」は、価格が安いのではなく在庫の配り方の問題である可能性が高い。市場全体の推定OCCは2026年4〜8月で81.9〜96.2%と高い水準を保ちながら、確定月ADRの1〜8月平均は前年比+2.5%にとどまった。福岡+8.9%、大分+7.2%という近隣の伸びと比べると、値下げで稼働を買っているというより、高稼働の日に低単価セグメントが残ってしまっている構図を疑う価値がある。自館の月次を見るときは、稼働とADRを別々に見ずに「稼働が90%を超えた日のADRが月平均を上回っているか」で点検したい。
(2) 打ち手の順序は、値付けの前にセグメント構成である。供給が2年で1,619室、既存の掲載在庫母数の12.7%相当増えた市場では、単純な値上げは他館への流出を招きやすい。先に着手すべきは、高稼働曜日(2026年5〜8月の曜日別平均で土曜91.4%、木曜90.6%)に残っている低単価の卸・法人固定料金・長期割の比率を落とし、その枠を直販・変動料金に振り替えること。価格表を触らなくても実現ADRは動く。
(3) 曜日の段差は「均す」のではなく「階段として設計する」。土曜91.4%と日曜79.7%の11.7ポイント差、木曜90.6%と金曜86.5%の4.1ポイント差(いずれも2026年5〜8月の曜日別平均)は、市場が自然に作っている需要の形である。全曜日を同じ価格で売れば、高い曜日で取りこぼし、低い曜日で売れ残る。曜日ごとに階段状の設定を持ち、谷(日曜・金曜)は連泊条件や滞在の組み立てで埋める発想に切り替えたい。
(4) 熊本の需要は「市街地」と「空港周辺」で別物として扱う。2年間の新規供給1,619室のうち3施設・624室が空港周辺に入っている。空港周辺の需要は乗り継ぎ・早朝便・企業出張の色が濃く、市街地のイベント・レジャー需要とはピーク日も予約リードタイムも異なる。自館がどちらの需要源に接しているかを確定させたうえで、比較対象とするコンペティターセットを組み直す余地がある。
(5) 仕込みの窓はT-45からT-30。9月11日(金)は45日前63.6%から30日前84.7%へ、9月12日(土)は69.9%から85.0%へ。この15日間で大勢が決まる。この窓を過ぎてからの価格操作は、上積みが6〜8ポイント程度の局面での微調整にしかならない。
打ち手の効き幅 — ADR×OCCで見るRevPARの感応度
順序を決める前に、それぞれの打ち手がRevPARベースでどれだけの幅を持つのかを押さえておきたい。下表は本文で実測した推定成約ADRのレンジ(¥6,574〜¥7,346)と推定OCCのレンジ(79.7%〜96.2%)を掛け合わせた算術である。網掛けのセルが2026年1〜8月平均ADR ¥6,966 × 2026年7月の推定OCC(OTA掲載在庫ベース)85.6% = ¥5,963 の基準点になる。
推定RevPAR=推定成約ADR×推定OCC の感応度(熊本県ビジネスホテル)/行・列はいずれも本文の実測レンジ/出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
推定成約ADR \ 推定OCC79.7%
日曜82.6%
6月85.6%
7月・基準91.4%
土曜96.2%
8月
¥6,574(2026年7月・確定最低)¥5,239¥5,430¥5,627¥6,009¥6,324
¥6,800(2025年1〜8月平均)¥5,420¥5,617¥5,821¥6,215¥6,542
¥6,966(2026年1〜8月平均・基準)¥5,552¥5,754¥5,963¥6,367¥6,701
¥7,150¥5,699¥5,906¥6,120¥6,535¥6,878
¥7,346(2026年8月・確定最高)¥5,855¥6,068¥6,288¥6,714¥7,067
読み方は二つある。第一に、曜日の段差を均す価値の大きさ。日曜79.7%を土曜91.4%の水準へ近づけられれば、ADRを一切動かさずに同じ列の左端から右へ移動でき、基準ADRで¥5,552→¥6,367と¥815の差がつく。第二に、単価と稼働のどちらを取るかの交換比率。基準点から稼働を2.9ポイント落として(85.6%→82.6%)ADRを¥184上げても(¥6,966→¥7,150)、RevPARは¥5,963→¥5,906とわずかに沈む。供給が増えた市場で安易に稼働を手放す判断が割に合いにくいことは、この表の傾きに表れている。
本表は本文の実測レンジを掛け合わせた算術であり、将来の予測ではない。推定OCCはOTA掲載在庫ベースのため実客室稼働率より高めに出る。自館で用いる際は、上表の列を自館の実稼働に読み替えたうえで水準を確認されたい。
以上を時間軸に落とすと、次のような順序になる。
供給増局面で打つべき手の順序とタイムライン(本文の実測値を判断トリガーとして整理)/出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
時間軸
打ち手
判断トリガー(記事中の数値に照合)
狙い
今日〜今週
高稼働曜日の在庫棚卸し。土曜・木曜に残っている低単価枠(卸・固定料金・長期割)の構成比を洗い出す
曜日別の推定OCC(2026年5〜8月平均)が市場で土曜91.4%・木曜90.6%に達している一方、自館の同曜日の実現ADRが月平均を上回っていないなら
価格を触らずに実現ADRを押し上げる余地の特定
今日〜今週
10月上旬の金曜・土曜について、自館の予約進捗を市場カーブと同じ残り日数で照合する
市場は30日前で10月2日(金)76.5%、10月3日(土)81.3%。自館がこれを大きく下回るなら在庫の出し方を見直す
直前の投げ売りに追い込まれる前の是正
2週間以内
谷曜日(2026年5〜8月平均で日曜79.7%・金曜86.5%)に連泊条件を設計する。土日/日月をまたぐ滞在の組み立てを用意する
自館の日曜の稼働が市場平均79.7%を下回り、かつ土曜が満室近くで着地している日が複数あるなら
高需要日の需要を谷曜日へ延ばし、平均滞在日数で稼ぐ
2週間以内
曜日別の階段設定を作り直す。全曜日一律ではなく、火〜木・土をひと段上、日・金をひと段下に置く
市場の曜日間の開きが最大11.7ポイント(2026年5〜8月平均、土曜91.4%と日曜79.7%)あるのに、自館の設定が曜日でほぼ同額なら
需要の形に合わせた取りこぼしの縮小
来月に向けて(T-45の窓)
11月・12月の宿泊日について、45日前時点の設定を先に固める。カレンダーに「T-45レビュー」を定例で置く
市場カーブでは45日前から30日前の15日間で15〜21ポイントが積み上がる。この窓に入る前に設定が決まっていないなら
最も効く期間に正しい価格を置く
来月に向けて
館内単価(朝食・駐車場・レイトチェックアウト等)の設計を見直し、室料以外の1泊あたり収入を積む
確定月ADRの伸びが市場で+2.5%(1〜8月平均)にとどまり、室料だけでの上昇余地が近隣県ほど大きくない局面が続くなら
室料の競争から一歩離れた収益源の確保
順序が重要である。セグメント構成の入替 → 最低宿泊日数・連泊条件 → 曜日別の階段 → 館内単価。この順に手を付けると、価格を下げずに実現ADRを動かせる余地から先に使い切ることになる。逆に最初から料金表を触ると、供給が増えた市場では他館との追随合戦に巻き込まれやすい。効果を保証できるものではないが、熊本の実測が示す構図に対しては合理的な順序である。
まとめ — 熊本を読む3つの物差し
物差し1: 供給増は「値崩れ」ではなく「値上げ機会の逸失」として現れる。熊本のビジネスホテルは2年で1,619室(掲載在庫母数の12.7%相当)を吸収しながら、確定月ADRの1〜8月平均を前年比+2.5%に保った。下がってはいない。しかし福岡+8.9%、大分+7.2%と比べれば、伸ばしきれなかった分がコストである。供給局面の評価軸は「前年より下がったか」ではなく「近隣市場と同じだけ伸ばせたか」に置くべきだ。
物差し2: 月平均は段差を隠す。2026年7月の推定OCC月平均85.6%の内側には、98.2%の日(7月18日・土)と68.6%の日(7月5日・日)が同居している。曜日別(2026年5〜8月平均)でも土曜91.4%と日曜79.7%で11.7ポイントの開きがある。RevPARを積む余地は平均値の外側、この段差の中にある。
物差し3: 判断の窓はT-45からT-30。9月の金曜・土曜はいずれもこの15日間で15〜21ポイントを積み上げ、その後は6〜8ポイントの上積みで着地した。10月上旬の2日は30日前時点で金曜76.5%・土曜81.3%と、9月の同曜日(84.7%・85.0%)ほどの立ち上がりを見せていない。カーブが緩いうちに動くか、直前で在庫を抱えるか。分岐点はいつも45日前にある。
データについて
■ データソース
推定成約ADR・推定OCC・ブッキングカーブ・新規開業の集計はいずれもメトロエンジンリサーチ&コンサルティングの自社集計(OTA掲載価格・掲載在庫の日次観測)による。建築計画パイプラインの併読先として国土交通省「建築動態統計調査」を挙げている。近隣県比較(福岡県・大分県・鹿児島県)は熊本県と同一のカテゴリ定義・同一期間で取得した。
■ 試算前提
前年同月比は確定値同士(過去月同士)のみで算出し、現在・未来月の推定値とは混在させていない。1〜8月平均は各月の確定値の単純平均である。RevPAR感応度表は推定成約ADR×推定OCCの積であり、行・列はいずれも本文で実測したレンジ(ADR ¥6,574〜¥7,346、OCC 79.7〜96.2%)の範囲内に収めている。供給の12.7%は新規開業1,619室÷2026年8月平均の掲載在庫12,742室で算出した。
■ 限界・留意点
推定OCCはOTA掲載在庫ベースの消化状況であり、実客室稼働率とは定義が異なる(高めに出る)。新規開業の集計はOTA掲載確認ベースで、事前掲載は全体の約19%にとどまるため直近以降の月は下限値として扱う必要がある。10月上旬のブッキングカーブは観測窓の途中にあり、確定した着地ではない。RevPAR感応度表は算術であって予測ではなく、効果を保証するものではない。数値は2026年9月7日時点のスナップショットである。
推定OCC(OTA掲載在庫ベース)の定義: OTA掲載在庫ベース稼働率 = 100 − 100 × OTA掲載残室数 ÷ 総客室数。OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、実客室稼働率とは定義が異なる(高めに出る)。本記事の対象は熊本県、対象月は2026年4月〜8月(月平均)および2026年5月〜8月(曜日別集計)。
ブッキングカーブ: 宿泊日の45日前から直近までの観測に基づく。対象宿泊日は2026年9月11日・9月12日・10月2日・10月3日。
推定成約ADRの定義: OTA等の販売データ(最安プラン水準×業態別係数・複数チャネルのアンサンブル)から推定した成約価格水準(税抜相当)。過去月は確定値、現在・未来月は現時点の販売状況に基づく推定値。公表運営実績との照合で誤差中央値6.6%。
対象Nの内訳: 熊本県ビジネスホテルの推定成約ADRはN=104〜122施設(月により変動、2026年7月はN=119施設)、シティホテルはN=18〜19施設(2026年7月はN=19施設)。推定OCCの日次観測はビジネスホテルで104〜110施設・総客室数12,237〜12,900室前後、シティホテルで17〜18施設。近隣県の比較は福岡県N=341施設、大分県N=91施設、鹿児島県N=161施設(いずれも2026年8月時点のビジネスホテル)。新規開業の集計はOTA掲載確認ベースで熊本県内の全業態を対象とし、2026年は年内開業予定を含む。OTA掲載は開業の数ヶ月前に現れることが多く、直近以降は今後の掲載により増加し得るため、現時点での下限値として扱う。
推定成約ADRの前年同月比は、確定値同士(過去月同士)のみで算出している。現在・未来月の推定値と確定値を直接比較していない。
データ時点: 2026年9月7日。販売状況・在庫は日々変動するため、本記事の数値は取得時点のスナップショットである。
