「冷房は、データセンターと並んで、今後の世界の電力需要を押し上げる最大の要因のひとつになるとみています」と、IEAでエネルギー効率政策アナリストを務めるファビアン・フォスヴィンケルは話す。世界ではいまこの瞬間にも新しいエアコンが次々と設置されており、冷房用の電力需要は2050年までに3倍以上に増える可能性がある。
太陽光発電の普及によって排出量は減らせるかもしれない。しかし、それだけでエアコンが抱える環境負荷という悪いイメージが払拭されるわけではない。一般的なエアコンは現在も約100年前に確立された原理で動いている。冷媒を液体と気体の間で循環させ、室内の熱を屋外へ放出する仕組みだ。
メーカー各社は改良を続けているものの、多くの冷媒には依然として課題が残る。例えばフッ素系ガスは、大気中に漏れた場合、二酸化炭素(CO₂)の数千倍もの地球温暖化係数(GWP)をもつ。このため欧州連合(EU)は2024年、こうした冷媒を段階的に廃止する規則を導入した。
「数年以内には、こうしたガスを使用するエアコンやヒートポンプは、EU域内で販売できなくなるでしょう」とフォスヴィンケルは話す。ただし、代替となる冷媒にもそれぞれ課題がある。プロパンは可燃性が非常に高く、アンモニアには毒性がある。
次世代冷房への挑戦
こうした行き詰まりを受け、一部の研究者や企業は発想を根本から見直し、こんな問いを立てた。より優れた冷媒を探すのではなく、そもそも冷媒を必要としないエアコンはつくれないだろうか──と。
その答えとして注目されているのが、外部から力を加えると温度が変化する材料を利用した固体冷却(solid-state cooling)だ。この技術は、空気を冷やす方法そのものを一変させる可能性を秘めている。
ドイツのザールラント大学でスマートマテリアルシステムの教授を務めるパウル・モツキは、EUの支援を受けるニッケル・チタン合金の研究コンソーシアムを率いている。この金属は、引き伸ばしてから力を緩めると元の形に戻る際、周囲の熱を吸収する弾性熱量効果を示す。
実際、この技術を使えば室内を5~10℃下げられる可能性があり、モツキによると、現在の一般的なエアコンよりも高い効率が期待できるという。研究チームは現在、研究室で試作機の実証試験を進めており、数年以内に新築建物への導入を目指している。
実用化されれば、「既存の冷房システムとはまったく異なるため、業界に大きな変革、ひいてはパラダイムシフトをもたらす可能性があります」とモツキは語る。チームは、冷媒を使わないヒートポンプを開発しているアイルランド企業Exergynとも連携している。
冷媒を使わない冷却技術の開発は、ほかにも進んでいる。米ニューヨーク州ブルックリンのMimic Systemsは電流によって熱を室内外へ移動させる半導体材料を用いたヒートポンプを開発し、カナダ・バンクーバーのマンションの一室で試験を進めている。
ドイツのダルムシュタット工科大学発スタートアップMagnothermは、磁場を利用した冷蔵庫を開発中で、年内にもドイツのスーパーマーケットチェーンで実証試験を始める予定だ。その後は、エアコン向け技術の開発にも取り組む。
英ケンブリッジ大学発スタートアップBarocalは、加圧チャンバー内で押しつぶしてから元に戻すと熱を放出する、柔軟なプラスチック結晶を利用した冷却技術を開発している。同社は今年5月、シードラウンドで1,000万ドル(約16億2,500万円)の資金を調達した。
