中小企業の人材活用、農業のデジタル化、交通空白の解消、EVインフラの整備——広島県内16市町とスタートアップをマッチングするアクセラレータープログラム「The Meet 広島オープンアクセラレーター Gov-Tech-Challenge 2025」の成果報告会が開催された。vol3の本レポートでは、産業支援・一次産業DX領域の4社と、交通・エネルギー・共創領域の4社、計8社の取り組みをレポートする。いずれも大手ITベンダーではなく、課題の「核心」に特化したスタートアップが採択されている点が特徴的だ。報告会を通じて繰り返し出てきたキーワードは「人手不足」と「属人化」——人口減少が続く地域では、行政・産業ニーズの増加と担い手の減少が同時進行している。その矛盾を技術で埋めようという、8社それぞれのアプローチを追う。
中小企業の採用難をプロ人材活用で突破する——産業支援・一次産業DX領域の4社
労働人口の減少が迫る「雇用から活用へ」のパラダイムシフト
人口減少が加速する中で、地方の中小企業は採用難易度が上がるという構造的な壁に直面している。大手と比べて採用力で劣る中小企業に対し、外部のプロ人材を副業・業務委託で活用するという発想の転換が、この領域での共通テーマだ。
株式会社カルビン × 呉市|「雇用から活用へ」プロ人材副業で中小企業の課題を解決

固定コストを変動コストへ——中小企業経営の前提を変える
カルビンが掲げるのは「新たな時代の人材活用を提案・実行・浸透させ、持続可能な社会を作る」というミッションだ。代表取締役の東 慶親氏は「これからは雇用から活用へパラダイムシフトした中小企業経営を普及させたい」と語る。正社員を抱えることで生まれる固定コストや採用活動の負担、社内に限定された知見——こうした課題を外部プロ人材の活用で解消しようという提案だ。
呉市との実証では、課題解決の意欲がある市内事業者2社を選定し、カルビンのコンサルタントが課題設定・求める人材像の定義からプロ人材の採用まで一貫支援する。実証中の1社・リアライズ(工作機械・工具の総合卸売業)では、メール・電話・FAX・ネットなど複数チャネルからの発注を手書きで転記するアナログ業務のDX化に取り組んでいる。「成功事例を市内事業者に横展開し、困ったときにプロ人材を活用する選択肢が当たり前になる呉市を目指す」と東氏は語った。
株式会社グリーンウォーターズ × 呉市|DX人材育成と就労マッチングで地域企業を変える

採用費ゼロのマッチングで育成コストに予算を回す
創業12期目を迎えるグリーンウォーターズは、DX・IT人材を育成するオンラインスクール「GSchool」と、スクール卒業生と企業をつなぐマッチングプラットフォーム「GWork」を軸に事業を展開する。特徴はライブの対話型授業で習得度を高めながら、採用費をゼロにしてその分を人材育成費に回す仕組みだ。
呉市との実証では、地域企業向けにAI活用ワーク中心のDX研修をオンラインで実施。助成金と活動支援金を活用して受講料を無償化し、参加ハードルを下げた。さらにDX研修を受けた企業と地元にゆかりのある人材を結ぶ合同オンライン企業説明会も開催する。川合氏は「地元の魅力ある企業作りと地元出身人材のUターン促進の一翼になることが最大の目的」と語った。
株式会社HokWIL × 三次市|衛星画像で広域性・周期性・多次元情報性・即応性・継続性を生かして農政業務支援する宇宙技術の実用化

農業用ため池緊急点検・農地確認・山林現状調査を衛星データで一括処理
広島市内に拠点を置くHoKWIL(工学博士・菅 雄三代表)は、地球観測衛星データを活用したAI・DXサービスプラットフォームを開発する。フランスのPleiades衛星(分解能0.5m)とSPOT衛星(分解能1.5m)を活用し、広域性・周期性・多次元情報性・即応性・継続性の特長を生かした行政業務を支援する。
三次市との実証では3テーマを展開する。1つ目は農業用ため池約620カ所の緊急点検。衛星画像から被災状況を独自プラットフォームで解析し、航空機・ドローンでは難しい広域の同時・即時解析を実現する。2つ目は農地の耕作(管理)地と非耕作地の識別と品種・育成状況の確認。3つ目はスギ・ヒノキ等の既存林班図と繰り返し衛星観測データを比較した山林現況調査だ。「暮らしの安全安心に役立つ宇宙技術」を合言葉に、防災・減災・業務支援、環境調査業務支援そして衛星データ分析情報提供業務支援の4領域をビジネスモデルとして提案している。
株式会社きゅうりトマトなすび × 世羅町|LINEで農業記録から補助金申請まで完結するAIエージェント

農家のLINE会話をAIが自動で申請フォーマットに変換
「農業と一口に言っても計画・記録・栽培判断・出荷・パート管理と業務は多岐にわたる」——東大発AIスタートアップのきゅうりトマトなすびは、農業特化型AIエージェントシリーズ「ノウノウシリーズ」を開発する佐々木氏がそう語る。農業用語を理解するようカスタマイズしたAIが、LINEグループ上でのパートとの日常会話・写真・音声メッセージを自動で分類・フォーマット化する。
世羅町との実証では、中山間地域等直接支払制度の申請業務を対象とした。農家ごとの作業報告をLINEで送るだけで、取りまとめ、農家への集約・面積割合に応じた支援金の自動計算・申請フォーマットへの変換まで一気通貫で完結する仕組みを構築中。(ノウログさん)「花が咲く頃には我々の技術も花が咲く」と実証の今後に期待を示した。
医療・福祉・教育領域の4社——「制度の持続性」と「地域の未来」に挑む
高齢化・人口減少が加速させる公共交通の再設計
地方都市では高齢者の免許返納が進む一方で、バス路線の縮小が止まらない。必要な移動手段が届かないという「交通空白」問題に対し、AIデマンド交通・ライドシェア・ワイヤレスEV充電という多様な技術が挑む。
株式会社シカク × 三原市|AIデマンド乗合システムで「今も未来も交通空白ゼロ」へ

大手の1/3〜1/5の価格で全国10カ所以上に展開中
群馬県桐生市を拠点に全国10カ所以上に展開するシカクは、AIによる需要予測型の乗合システム「ミット」を開発する。定時定路線に縛られず、電話・LINEで呼べるデマンド型の交通を実現し、大手の1/3〜1/5の価格で自治体に提供するのが強みだ。
今氏は「高齢者が免許を返した後も田舎じゃ生活できないという現実がある。それを解決するのが私たちの仕事」と語る。三原市では2026年春から準備を開始し、10万人以下の市町村を中心に全国300ユーザーを目指す。
つばめ交通株式会社 × 安芸太田町|日本版ライドシェアで夜間の交通空白を埋める

夜の飲食・娯楽の衰退と移動手段の消滅——鶏と卵の問題に切り込む
安芸太田町では19時以降のタクシー・路線バスが極めて手薄で、飲食店が来店客を自ら送迎するケースも生じていた。「夜の移動手段がなくなったから娯楽が減ったのか、娯楽が減ったから供給がなくなったのか——どちらが先かの議論はあっても、現実として両方がなくなっている」と山内氏は語る。
広島市内でタクシー事業を展開するつばめ交通は、隣接営業区域での運行を認める改正法を活用し、夜間1,000円の定額タクシーを月〜木は1台・金土は2台で運行する実証を実施。アンケートでは「飲酒後に安全に帰宅できた」という定性的成果が得られた。山内氏は「アナログとデジタルを融合し、細くとも長く続けられる運行条件を洗い出していく」と語った。
株式会社2DC × 竹原市|走行中EV充電インフラで「太陽光で車を動かす社会」をつくる

電球普及に50年かかったように——「誰かが気づいた瞬間」を今作っている
「電球の普及に50年かかったように、走行中ワイヤレス充電も数十年先で世界を変えるポテンシャルがある」——2DCの増田氏はそう確信する。Minecraftのようにパネルを敷き繋いでいけばそのエリアがワイヤレス充電エリアになる技術を開発し、太陽光の余剰電力を走行中の車に送電することで地域単位のエネルギー自給を目指す。
竹原市では市内企業・中通冷蔵でフォークリフト向け停車中ワイヤレス充電の実証を実施。小型バッテリー+こまめな充電で業務が成立することを確認した。「EVはテスラやBYDのようなジャイアントが電池性能で勝負する世界だが、どこでも充電できるインフラがあれば地域特化モビリティを作る側が有利になる」と増田氏は長期ビジョンを語った。
株式会社Switch × 東広島市|障がい者アート×最新テクノロジーで「共創都市・東広島」の認知向上

点在するコミュニティのハブとして——「未来」をイノベーション拠点に
株式会社Switch代表の大世渡 渉氏は、「すべての人が自分らしく生きる社会の実現」をビジョンに掲げ、イベント企画やコミュニティ形成、障がい者アートの活用などを通じて地域共創を推進している。理学療法士としての経験を背景に、人と人をつなぐ体験づくりに取り組んできた。これまでには、障がい者アートを活用したイベントで延べ2,000人を集めるなど、多様な人が交わる場を創出してきた。
東広島市との実証では、「Miraino Cross Days」を核に、企業・大学・市民が交わる地域共創プラットフォームの構築と、東広島イノベーションラボ「ミライノ+」の認知向上を目指す。
企業や研究者の技術を体験できる「最新テクノロジー体験会」・多世代が参加する「お仕事体験(医療版)」・多様な感性に触れる「デジタルアート体験」を組み合わせたイベントを段階的に開始し、新たな関係者500社のつながり創出・可視化をKPIに据えるこれらの取り組みを通じて、偶発的な出会いではなく継続的な連携と価値創造を生み出し、地域の多様な主体が関わる「共創都市・東広島」の実現を目指す。
現場に向き合い続ける実証の積み重ねが、次の広島モデルをつくる
8社の発表に共通していたのは、「理想のソリューション」を持ち込むのではなく、現場の制約の中で仮説を修正し続けるという姿勢だ。フォークリフトから始めたEVワイヤレス充電の実証、「人員削減」から夜間交通需要の掘り起こしへと発想を転換したライドシェアの実証、LINEの日常会話から補助金申請フォーマットを自動生成するAI農業支援——こうした小さな修正の積み重ねが、大規模展開に耐えうる実証の質を高めていく。
The Meet 広島オープンアクセラレーターは来年度も継続予定だ。各市町での成功モデルが広島県全域へ、そして全国へと横展開される可能性を、今回の報告会は十分に示していた。
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