2023年、タイタニック号の沈没現場を訪れる観光ツアーの途中で、OceanGateの潜水艇「タイタン」が圧壊した。この事故を巡り、カナダ運輸安全委員会(TSB)は報告書を公表し、政府機関同士の情報共有が機能していなかった実態を明らかにするとともに、監督体制の強化を提言している。

報告書によると、タイタンは未登録・無船籍・未認証の状態だったにもかかわらず、事故前の数年間にわたり、カナダのニューファンドランド島にある港湾都市セントジョンズを拠点として運航を続けていたという。

TSBの委員長ヨアン・マリエは声明で、「タイタンに関する重要な情報は複数の連邦政府機関に存在していたが、それらを結び付けて全体像を把握する責任を負う組織がなかった」と指摘した。その結果、「運航実態が十分に把握されないまま、タイタンは規制当局による監督を受けずにカナダで運航を続けていた」としている。

OceanGateとカナダ政府との初接点は、タイタンがまだ米国ワシントン州エバレットで最終組み立て段階にあった2021年にさかのぼる。同年5月、カナダ漁業海洋省は、翌年に予定されていたタイタニック号沈没現場への潜航にあわせて行なわれる深海生態系の調査を支援するため、OceanGateに2万5,000カナダドル(約270万円)を拠出する計画を打ち出した。

しかし、OceanGateが同省を研究計画の後援機関だと事実に反して説明したため、カナダ外務省は研究許可の発給を認めなかった。

監督の死角にあった潜水艇

翌月に実施されたタイタニック号沈没現場への初回潜航は失敗に終わった。タイタンのチタン製ドームのひとつが脱落し、潜水艇を搭載していた支援船「ホライゾン・アークティック」はセントジョンズへ引き返した。

ところが、沈没船を見るために10万ドル(約1,600万円)超を支払っていた乗客たちが下船する前に、船は港内の立ち入りが制限された区域へ誘導された。

そこで、カナダ国境サービス庁(CBSA)の武装した職員らがホライゾン・アークティックに乗り込み、乗客たちに対して新型コロナウイルス対策の遵守状況や潜航への関与について聞き取りを行なった。

「彼らは非常に威圧的でした。とにかく一刻も早く船を降りたいと思いました」と乗客だったゲイリー・フィルブリックは『WIRED』に対し、当時を振り返った。

CBSAの職員らはさらに、なぜOceanGateが研究許可を取得せずに運航しているのかを問いただした。これに対し、過去にOceanGateの業務に関わっていた弁護士デビッド・コンキャノンは、タイタンが潜航するのは公海上だけで行なわれるため、カナダの研究許可は不要だと説明。職員らはそれ以上追及することなく船を後にした。

コンキャノンは『WIRED』に対し、「彼らは潜水艇そのものにはまったく関心を示しませんでした。本当にまったくです。彼らが見ていたのは書類だけでした」と話している。

カナダ運輸安全委員会(TSB)の調査官エティエンヌ・セガン=ベルトランによると、職員らのその対応は当時の権限上、適切だったという。「潜水艇が適切に輸入され、必要な関税が支払われている限り、その登録状況や安全性を確認することは国境当局の管轄外でした」

一方、船舶や潜水艇を含むあらゆる船舶の規制遵守を監督するのは、カナダ運輸省の責任だ。特に乗客を運ぶ船舶については、登録や船籍の取得、認証などが求められる。同省には、船舶を検査し、必要に応じて法執行措置を行なう権限がある。

ところが運輸省は、タイタンを独立した船舶ではなく、ホライゾン・アークティックの積み荷の一部とみなしていた。そのため検査対象外として扱っていた。

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