富坂 聰

拓殖大学海外事情研究所教授、ジャーナリスト

高市首相の「存立危機事態発言」をきっかけに、日中関係は急速に冷え込んだ。一方、世界では西側先進国の首脳が次々と訪中し、対中関係の修復に動いている。拓殖大学海外事情研究所教授でジャーナリストの富坂聰さんは「カナダは8年ぶり、イギリスは7年ぶりに首相が訪中した。フランスもドイツも対中関係を修復している。高市首相の『台湾発言』は世界の流れに完全に逆行しており、日本だけが孤立する代償は計り知れない」という――。(第2回)


※本稿は、富坂聰『おそるべき「中国一強」時代』(小学館新書)の一部を再編集したものです。


2026年1月、日本経済団体連合会と会談する高市早苗首相
2026年1月、日本経済団体連合会と会談する高市早苗首相(写真=首相官邸ホームページ/内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)



実態を捉えていない日本の「中国イメージ」

日本の政治家やメディアが煽り続けた結果、中国といえば「軍拡に熱心で力による現状変更を目論む国」であり、「人権侵害と少数民族弾圧が繰り返されているにもかかわらず、それを言論統制と警察力で抑え込んでいる国」で、「経済もボロボロ」「若者の失業問題が深刻」「たくさんの人が日本に逃げてきている国」とのイメージを定着させてしまった。


だが、その一つ一つは、検証に堪えうるものなのだろうか。


例えば、「力による現状変更」という表現だ。多用されるのは台湾問題と南シナ海問題だが、記事を書いた記者は、いまだ内戦の過程にある台湾のいつの時点を「現状」と考え、何を「変更」と考えているのだろうか。


南シナ海問題でも、中国(中華民国時代を含む)がこの海域の領有を宣言したのは戦後間もなくのことで、そのころにはフィリピンもマレーシアもベトナムもまだ国として存在していなかった。当然、領有の宣言もできなかったのだが、その場合の「現状」をどう考え、何を「変更」したと解釈しているのか。


中国は「経済もボロボロ」という切り捨て方も同じだ。その「ボロボロの国」も5%の経済成長をしている。そう書けば、日本人の多くは「中国は統計データを改竄している」と反論するが、IMF(国際通貨基金)も世界銀行も似たような数字を導き出している。


「反中」を先導したトランプ大統領の翻意

また中国は、新型コロナ禍と米大統領選挙の影響で、アメリカを筆頭とした西側先進国からの批判の的になった。だがその流れも、新型コロナ禍が明けて、ようやく終わろうとしており、現在はその「変化」の途上にある。しかも、世界の「反中」の流れを牽引してきたトランプ大統領自身の手によって、それが大きく修正されようとしているのだ。


世界は当然、それを無視できなくなっている。今の中国との新たな経済協力の可能性を求めて、グローバル・サウス各国から新興国、西側先進国に至るまで政府首脳・経済人が日参し始めているのは、偶然ではない。


例えば、オーストラリアは、それまで「反中」姿勢を続けていたスコット・モリソン首相が退任。2022年に就任したアンソニー・アルバニージー首相が中国との関係修復に動き、2025年には、2回目の訪中も果たしている。


またカナダも、ジャスティン・トルドー前政権時代には中国との対立を深めていたが、2025年にマーク・カーニー首相が就任すると、方針を転換。2026年1月14日には、カナダ首相としては8年ぶりの訪中を果たし、カナダが中国製EVに課していた100%の関税は、年間4万9000台の輸入枠を設けた上で6.1%にまで引き下げられた。


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