2026年7月、フランスの名門オーケストラ「イル・ド・フランス国立管弦楽団」が初来日し、7月3日(金)~16日(木)まで全国7都市を巡る。ソリストに迎えるのは、ピアニストの石井琢磨。間もなく迎える初来日に向け、指揮者ユージン・ツィガーンのインタビューが到着した。

フランスの“歌うオーケストラ”が日本へ――
イル・ド・フランス国立管弦楽団と描く、新しいベートーヴェンとブラームス

フランスの名門、イル・ド・フランス国立管弦楽団が7月に待望の初来日を果たす。今回タクトを握るのは、日本にルーツを持つ指揮者ユージン・ツィガーン。プログラムにはベートーヴェン《英雄》、ブラームス《交響曲第1番》、そしてピアニスト石井琢磨を迎えたグリーグ《ピアノ協奏曲》が並ぶ。フランスのオーケストラでドイツ音楽を演奏する—その組み合わせに意外性を感じる人も多いだろう。しかしツィガーンは、そこにこそ大きな魅力があると語る。

“歌う”フランスの響き

「イル・ド・フランス国立管弦楽団の最大の特徴は、“歌うオーケストラ”であることです」

ツィガーンは楽団の特徴をそうシンプルに表現する。フランスのオーケストラには、ベルカント的な歌心が今も息づいているという。柔らかく、しなやかで、どこか明るい響き。特に木管楽器の透明感と色彩感は独特で、ドイツの重厚なサウンドとは異なる魅力を持つ。

「まずフランスのオーケストラは、音が硬くない。リズムにも柔軟性があって、自然に“揺れ”が入る。その感覚がとても美しいと思うのです」

これまで5〜6回ほど客演し、R.シュトラウス《英雄の生涯》やチャイコフスキー《交響曲第5番》、ベルリオーズ《幻想交響曲》など幅広いレパートリーを取り上げてきたという。その経験を通して確信したのが、「ドイツ音楽だからドイツのオーケストラ」という固定観念に縛られる必要はない、ということだという。

フランスの響きで描く《英雄》

今回のベートーヴェン《英雄》について、ツィガーンは非常にユニークな視点を持っている。

「この曲は特にフランスの音に合うと思います。テンポやキャラクターの変化がとても激しいので。フランスのオーケストラが持つ機敏さと柔軟性が最大限に活きる曲だと思います。現代のクラシック音楽の一般的な慣習としてテンポを一定に保つ傾向がありますが、ベートーヴェン自身の演奏はもっと自由だったはずです。当時の記録に、ベートーヴェンのピアノ演奏で同じ曲を三度聴いた人が毎回違う曲だと思った、と残されているくらいですから。私は、ベートーヴェンがこの交響曲を自身のピアノで演奏しているかのようにオーケストラと演奏したいと思っています」

フランスオケのブラームス

また、ブラームス《交響曲第1番》についても、ツィガーンは独自のアプローチを試みているようだ。「一般的にブラームスというと重厚な音楽という印象が強いですが、私はもっとフレキシブルなブラームスを目指しています」

ブラームスはベートーヴェンの巨大な影に苦しみながら、20年以上かけて第一交響曲を書き上げた。その一方で、歌曲や合唱作品を数多く残した“歌の作曲家”でもある。「彼は合唱が大好きだったし、リートもたくさん書いています。実は、すごく“声”を意識した作曲家だと思うのです」ツィガーンが特に注目するのは、楽譜に散りばめられたヘアピン(<>)記号だ。「ヘアピン記号を単なるクレッシェンドとディミヌエンドとして教えてしまう学校もありますが…、ブラームスにおいてはテンポの揺れや呼吸を意味している場合があるので注意が必要なのです」前へ進むような推進力、少し引くような間合い。そして、その繊細な伸縮を自然に表現できるのが、フランスのオーケストラだと語る。

「ドイツのオーケストラの音には重力を感じさせる素晴らしさがある。一方でフランスのオーケストラは、もっと軽やかに呼吸できる。その違いがブラームスにも新しい景色を見せてくれると思います」

 (C) Grzegorz Karkoszka

(C) Grzegorz Karkoszka

石井琢磨との共演に寄せる期待

グリーグ《ピアノ協奏曲》で共演する石井琢磨については、「自由な感性を持ったアーティスト」と高く評価する。「彼の、19世紀パリのショパンにまで遡るサロン音楽のような、あのスタイルの魅力と柔軟性は興味深いものです」昨年のベルリン交響楽団東京公演を訪れ、石井のシューマン演奏に強い印象を受けたという。「私は、ソリストをできるだけ自由にしたいのです。オーケストラと合わせる時にも、その自由さを失わせたくない」理想と掲げるパーシー・グレインジャーによるグリーグ演奏について触れ、「テンポや呼吸が本当に生きている。少し伸び縮みしながら、でも全体は自然に流れていく。石井さんとそのような演奏ができたらと思っています」と語った。

日本ツアーへの思い

今回のツアーでは東京だけでなく、大阪、名古屋、札幌、福岡、高松、浜松など各地を巡る。
日本生まれでありながら、幼少期からアメリカで育った彼にとって、日本は“ルーツ”であると同時に、今なお新しい発見に満ちた場所でもある。

「今回のツアーで東京以外の日本を見るのが本当に楽しみです。日本でもっと指揮したいし、教えたいし、もっと深く関わっていきたいと思っています」

そして最後に、今回の演奏会への思いをこう語った。

「音楽には心と心を繋げる橋のような役割があると思います。日本の皆様と、音楽を通して繋がる。そういった体験ができることを今からとても楽しみにしています」

フランスの歌心とドイツ音楽の構築美。その融合から生まれる《英雄》とブラームス。
既成概念を軽やかに飛び越えるツィガーンの指揮は、日本のクラシックファンに新鮮な驚きをもたらしてくれそうだ。

イル・ド・フランス国立管弦楽団 ユージン・ツィガーン(指揮)コメント

取材・文=テンポプリモ

公演情報

『CHASSEUR Presents イル・ド・フランス国立管弦楽団 with 石井琢磨』

 

■大阪公演
日程:2026年7月3日 (金)
開演:15:00~ (開場 14:00~)
会場:フェスティバルホール (大阪府)

 

■高松公演
日程:2026年7月5日 (日)
開演:14:00~(開場 13:00~)
会場:レクザムホール(香川県県民ホール)大ホール (香川県)

 

■福岡公演
日程:2026年7月6日(月)
開演:19:00~(開場 18:15~)
会場:アクロス福岡シンフォニーホール (福岡県)

 

■北海道公演
日程:2026年7月9日(木)
開演:19:00~(開場 18:15~)
会場:札幌文化芸術劇場hitaru (北海道)

 

■東京公演
日程:2026年7月13日(月)
開演:19:00~(開場 18:00~)
会場:東京芸術劇場 コンサートホール (東京都)

 

■愛知公演
日程:2026年7月14日(火)
開演:18:45~(開場 18:00~)
会場:愛知県芸術劇場コンサートホール (愛知県)

 

■東京公演
日程:2026年7月15日(水)
開演:14:00~(開場 13:15~)
会場:東京オペラシティコンサートホール(東京都)

 

■静岡公演
日程:2026年7月16日(木)
開演:19:00~(開場 18:00~)
会場:アクトシティ浜松 大ホール (静岡県)

出演
管弦楽:イル・ド・フランス国立管弦楽団
指揮:ユージン・ツィガーン
ピアノ:石井琢磨

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