はやぶさ2が持ち帰ったリュウグウ試料、地球上で「数週間」で変質開始と判明 将来のサンプルリターン計画に警鐘

探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウから持ち帰った微小な砂粒が、地球に到着してからわずか数週間で変質を始めることが、日本の研究チームの分析で明らかになりました。 初期太陽系の情報を閉じ込めた「タイムカプセル」とも呼ばれる試料が、地球環境に触れることで想定以上のスピードで姿を変えていく実態が示されたことで、今後のサンプルリターン計画における保管戦略の見直しが迫られそうです。

今回の研究は、広島大学、京都大学、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、分子科学研究所、大阪公立大学、国立極地研究所などからなる共同チームが実施したものです。 はやぶさ2がリュウグウ表面から採取した粒子を用い、温度20〜23度、相対湿度30〜40%という一見穏やかな条件下で大気曝露実験を行い、その経時変化を電子顕微鏡観察や放射光X線分光などで追跡しました。

分析の結果、リュウグウ粒子中に含まれる鉱物「磁硫鉄鉱」が、地球大気にさらされてから数週間のうちに表面から酸化を始め、鉄と酸素に富むアモルファス(非晶質)の変質層を形成することが確認されました。 さらに数か月が経過すると、この変化が周囲のフィロケイ酸塩や有機物にまで波及し、鉱物の一部がアモルファス化したり、有機物中にナノサイズの空洞や炭素・酸素に富む沈殿層が生じるなど、連鎖的に変質が広がることも分かりました。

研究チームは、磁硫鉄鉱表面に生じた変質層の厚さから、その進行速度を日あたり約0.1ナノメートルと見積もっています。 これは、目に見えないスケールではあるものの、サンプルが本来持っていた鉱物学的・化学的情報が、地球帰還後の比較的短期間で損なわれ得ることを意味します。 実験は、乾燥した空気中や窒素雰囲気下、室温付近という、一般的なキュレーション(試料保管・管理)条件を想定した環境でも行われており、従来「安全」とみなされてきた条件下でも変質を完全には防げない可能性が示されました。

リュウグウ試料は、初期太陽系における水質変成や有機物進化の解明につながるとして、これまでもJAXAや大学・研究機関による分析が進められてきました。 今回の成果は、そのような貴重な情報をいかに守り抜くかという、これまで十分に定量化されてこなかった課題に具体的な指標を与えた形です。 研究結果をまとめた論文は、英科学誌「Nature Communications」に掲載されています。

火星・小惑星サンプルリターン時代に向け、低温・低酸素・低湿度の「三位一体管理」が鍵に

今回の研究は、リュウグウ試料だけでなく、今後相次ぐサンプルリターン計画にも直結する示唆を含んでいます。 米航空宇宙局(NASA)の探査機「OSIRIS-REx」が回収した小惑星ベンヌの試料や、JAXAが主導する火星衛星探査計画「MMX」で持ち帰る予定の火星の衛星フォボスの砂、さらには将来の火星試料回収計画など、地球外物質の「逆輸入」は今後ますます本格化する見通しです。

今回の結果は、こうした試料を地球上で保存・分析する際、「不活性ガスで満たした容器に入れておけば安全」という従来の発想だけでは不十分であることを浮き彫りにしました。 研究チームは、低温・低酸素・低湿度を一体的に管理することが不可欠だと指摘し、特に室温付近ではナノメートルスケールの変質が日単位で進み得ると警鐘を鳴らしています。 これは、南極から回収された炭素質コンドライト隕石など、従来の隕石試料についても同様のリスクがあることを意味し、既存コレクションの再評価を促すものです。

日本では、はやぶさ2計画を通じて、リュウグウ試料を極力地球環境に触れさせないキュレーション技術がすでに蓄積されてきました。 一方で、今回のように「どの鉱物が、どの程度の速度で変質し、それが周囲にどう波及するのか」を定量的に示した研究はまだ限られており、今後は試料の種類ごとに最適な保管条件を設計するための実験データの蓄積が求められます。

地球外試料は、太陽系の成り立ちから水や有機物の起源、さらには生命誕生の条件に至るまで、多くの問いに答える鍵を握っています。 その科学的価値を最大限引き出すには、サンプルを「持ち帰る」までの技術だけでなく、「持ち帰った後」に何をどこまで守れるのかという視点が、今後のミッション設計や地上施設整備の重要なテーマになっていきそうです。

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