滋賀県立美術館(滋賀県大津市)で、企画展「コレクター福富太郎の眼 昭和のキャバレー王が愛した絵画」が7月3日から開催されます。

昭和の「キャバレー王」として知られる福富太郎ふくとみたろう(1931~2018年)。本展は、独自の信念のもと作品を追い求めた福富太郎の審美眼に焦点をあて、えりすぐりの絵画作品約80点で、他に類を見ないコレクションの全体像を堪能できる貴重な機会となります。

北野恒富《道行》 1913年頃 福富太郎コレクション資料室蔵

企画展「コレクター福富太郎の眼 昭和のキャバレー王が愛した絵画」

会場:滋賀県立美術館 (滋賀県大津市瀬田南大萱町1740-1)

会期:2026年7月3日(金)~8月30日(日)

開館時間:9:30~17:00(入場は16:30まで)

休館日:毎週月曜日(ただし、7月20日[月・祝]は開館し7月21日[火]は休館)

観覧料:一般 1,200円、高校生・大学生 800円、小学生・中学生 600円
※企画展のチケットで展示室1・2で同時開催している常設展も無料で観覧可
※未就学児は無料
※身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳などをお持ちの方とその介助者は無料

アクセス:
JR琵琶湖線「瀬田駅」から帝産観光バス(滋賀県立美術館前行き)で約10分「滋賀県立美術館前」下車
名神高速道路「瀬田西インター」・「瀬田東インター」から車で約10分

詳細は、滋賀県立美術館公式サイトまで。

本展について

昭和の「キャバレー王」として知られる福富太郎ふくとみたろう(1931~2018年)は、1964年の東京オリンピック開催による好景気を背景に、全国各地に44店舗ものキャバレー(舞台のショーを見たり、会話を愉しみながら飲食をおこなう娯楽施設)を展開した実業家です。時代の波に乗り事業を成功させる一方、父親の影響で少年期から美術に興味を持っていた福富は、やがて鏑木清方かぶらききよかた作品との出逢いをきっかけに、美術品の蒐集に熱中していきます。独自の信念のもと作品を追い求めた福富太郎の審美眼に焦点をあて、他に類を見ないコレクションの全体像を提示する貴重な機会となります。

コレクターの福富は、その作品が有名な作家の手によるものかどうかということではなく、たとえば梶田半古かじたはんこや渡辺省亭わたなべせいてい、富岡永洗とみおかえいせん、鰭崎英朋ひれざきえいほうや小村雪岱こむらせったいなど、当時一般にはあまり知られていない作家のものであっても、自身の眼で見て、良質であると信じた作品はコレクションに加えました。またコレクションに関連する資料や情報を熱心に集めて理解を深め、美術に関する文筆活動など、積極的な情報発信にも取り組みました。長らく埋もれていた作家が再評価される際や、ひとつの時代の特色について考察をおこなう展覧会において、福富が蒐集した作品の重要性が注目されるようになりました。

本展は、独自の信念のもと作品を追い求めた福富太郎の審美眼に焦点をあて、他に類を見ないコレクションの全体像が提示される貴重な機会となります。生前の福富と深い交遊があった山下裕二氏(美術史家、明治学院大学教授)を監修に迎え、福富が惚れ込んだ鏑木清方の10数点に及ぶ優品のほか、多彩な顔ぶれの画家による女性像、明治時代から第二次世界大戦を経て昭和40年代までの間に描かれた油彩画の数々など、魅力的な絵画作品80余点が紹介されます。

本展のみどころ
みどころ1: なんといっても鏑木清方! 鏑木清方の優品10数点を展示

コレクター福富太郎にとって、美術作品を蒐集する大きなきっかけとなった鏑木清方(1878-1972)は特別な存在でした。滋賀県立美術館では、清方の美人画の代表作のひとつとされる《薄雪》(1917年)や、妖艶な雰囲気が際立つ異色作《妖魚》(1920年)など、福富が心血を注いでコレクションした清方の優品10数点を展示します。また晩年の清方から福富に宛てた、2人の交流を物語る手紙も一部紹介されます。

鏑木清方《薄雪》1917年 福富太郎コレクション資料室蔵 Kiyoo Nemoto 2026 /JAA2600079
みどころ2: 女性の姿、古今東西 多彩な画家が描く女性の肖像

福富コレクションの特徴のひとつとして、日本画、油彩画ともに女性の姿を描いた作品の充実ぶりが挙げられます。滋賀県立美術館では、全出品作80点のうち、実に68点が女性像、あるいは女性が登場する作品です。たとえば、上村松園うえむらしょうえん《よそほい》(1902年頃)のような晴れの日の姿、北野恒富きたのつねとみ《道行》(1913年頃)のような一途な愛を貫こうとする姿、満谷国四郎みつたにくにしろう《軍人の妻》(1904年)のような戦争への悲しみを見せる姿など、東西の画家が描く女性たちのさまざまな表現を見ることができます。

上村松園《よそほい》 1902年頃 福富太郎コレクション資料室蔵
みどころ3: コレクターの審美眼にシビれる! 独自の信念で蒐集された作品群

福富は、従来の画家への評価などはあまり気にせず、自身が良いと感じた作品を積極的に蒐集しました。その結果として、日本画から油彩画まで、非常にバラエティ豊かで魅力的な作品が福富の手元に集まりました。福富コレクションの全貌を紹介する滋賀県立美術館をとおして、コレクター福富太郎の審美眼のすばらしさとユニークさを感じられるでしょう。

みどころ4: 作品への思いが伝わる 福富の言葉を展示室に掲示

滋賀県立美術館では、福富が残した言葉を展示室の各所に掲示。福富の蒐集作品や画家への思いを知ることができ、絵画作品と合わせて鑑賞することでコレクションへの理解がより一層深まります。

展覧会構成
Ⅰ コレクションのはじまり 鏑木清方との出逢い

1945年5月24日、東京都品川区中延に住んでいた13歳の福富(本名:中之村勇志智なかむらゆうしち)は、空襲に遭い命からがら逃げ出しました。しかし父親が大切にしていた鏑木清方の掛軸を持ち出すことは叶わず、家屋もろとも焼失させてしまいました。この体験が原点となり、のちに福富は清方作品の蒐集に熱中することとなります。本章では、清方が作品との再会を喜んだと言われる《薄雪》や、発表当時も話題となった異色作《妖魚》など、実業家として事業を成功させた福富が特に情熱を傾けて蒐集した清方作品から、福富コレクションのはじまりが紹介されます。

鏑木清方《妖魚》1920年 福富太郎コレクション資料室蔵 Kiyoo Nemoto 2026 /JAA2600079
Ⅱ-1 女性像へのまなざし 東の作家

福富コレクションの核は、近代日本画の女性像です。清方への思慕からはじまった蒐集は、梶田半古、渡辺省亭、富岡永洗、鰭崎英朋、小村雪岱といった当時はあまり知られていなかった作家たちへと興味が広がっていきました。コレクションには竹久夢二たけひさゆめじ、伊東深水いとうしんすいといった福富が蒐集をおこなっていた時期から評価の高かった作家も含まれていますが、その作品はありきたりではなく、福富の審美眼によって選ばれたものでした。

本章では、院展や文展といった展覧会への出品作を中心に編まれてきた近代美術史とはまったく別の視点で蒐集された作品群について、女性像を中心に紹介されます。

竹久夢二《かごめかごめ》 1912年 福富太郎コレクション資料室蔵
Ⅱ-2 女性像へのまなざし 西の作家

東京都出身の江戸っ子ということもあり、まず関東の作家に関心を持った福富は、やがて蒐集の範囲を関西の作家にも広げていきます。そのなかで特に福富が気に入り、愛着を持って手元に置いたのが、大阪で活躍した北野恒富の《道行》でした。やがて恒富に私淑した島成園しませいえんや、京都の作家、上村松園の作品もコレクションに加わりました。本章ではそのほかにも、甲斐荘楠音かいのしょうただおと、松浦舞雪まつうらぶせつ、寺島紫明てらしましめいらの作品も出品されます。

上村松園《よそほい》 1902年頃 福富太郎コレクション資料室蔵
松浦舞雪《踊り》 1931年頃 福富太郎コレクション資料室蔵
Ⅲ-1 時代を映す絵画 黎明期の洋画

これまでの福富コレクションの展覧会では、日本画の女性像を紹介されることが多かったのですが、実は洋画にも重要な作品が多数収蔵されています。本章では、日本における洋画(油彩画)の黎明期とも言える明治時代に活動した高橋由一たかはしゆいち、山本芳翠やまもとほうすいのほか、近年再評価が進んでいる川村清雄かわむらきよおや、五姓田芳柳ごせだほうりゅう、五姓田義松ごせだよしまつ、また彼らに大きな影響を与えた来日外国人画家のチャールズ・ワーグマンやジョルジュ・ビゴーなどの作品が公開されます。

高橋由一《小幡耳休之肖像》1872年 福富太郎コレクション資料室蔵
Ⅲ-2 時代を映す絵画 江戸から東京へ

福富の蒐集は、作品の時代やジャンルを問わず、実に多岐におよんでいます。有名無名を問わず、自らの眼で惚れ込んだ作品は躊躇なく蒐集していったのです。本章では、そういった福富の審美眼によって選び抜かれた岡田三郎助おかださぶろうすけ、萬鐵五郎よろずてつごろう、岸田劉生きしだりゅうせい、村山槐多むらやまかいた、佐伯祐三さえきゆうぞうなどの作品が紹介されます。

岡田三郎助《ダイヤモンドの女》1908年 福富太郎コレクション資料室蔵
Ⅲ-3 時代を映す絵画 戦争画の周辺

幼少期に第二次世界大戦を体験した福富にとって、戦争を主題とした絵画とは、大きく心を動かされるものであったようです。福富はいわゆる「戦争画」といわれる、戦争をテーマに描いた作品を熱心に蒐集しました。そのうち、戦時中に描かれた藤田嗣治ふじたつぐはる、向井潤吉むかいじゅんきちなどのきわめて重要な作品を含む約100点は、没後に東京都現代美術館に寄贈されましたが、「戦争画の周辺」ともいうべき作品は、現在も福富コレクションに残っています。

満谷国四郎《軍人の妻》1904年 福富太郎コレクション資料室蔵
福富太郎について

東京都品川区に生まれる。「健全娯楽」をモットーにキャバレーチェーンを経営し、日本各地に44店舗を展開。テレビやラジオのコメンテーターとしても活躍し、軽快かつユーモア溢れる語り口で親しまれた。美術品のコレクターとしては、独自の審美眼によって作品を選定。浮世絵や、鏑木清方をはじめとする日本画のほか、油彩画も蒐集し、美術をテーマにした講演会や美術雑誌の連載、テレビ出演などさまざまなメディアをとおして、幅広い世代に美術作品の魅力や愉しみ方を伝える活動にも力を注いだ。

福富太郎氏肖像写真

独自の審美眼を貫き、世間の評価に惑わされることなく自らの「眼」で名画を求め続けた昭和のキャバレー王、福富太郎。彼が情熱を傾けた比類なきコレクションが一堂に会するこの企画展は、美術史の新たな側面に触れられるだけでなく、一人のコレクターの純粋な絵画への愛と執念を肌で感じられる貴重な機会です。名作美人画から、知られざる洋画、心揺さぶられる戦争画の周辺まで、多彩な80余点の絵画で、福富太郎が惚れ込んだ美の世界を心ゆくまで堪能してみてはいかがでしょうか。(美術展ナビ)

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