【画像】パリ、コンコルド広場でフランスが生んだ二つの文化遺産「自動車と建築」が交差する(写真25点)

コンコルド広場に面した荘厳な新古典主義建築。18世紀に建てられたこの建物は、現在Automobile Club de France(ACF)の本拠であり、同じブロックにはFIFAの事務所も入っている。格式と歴史を兼ね備えた建築の前に、ACF会員のクラシックカーが整列する光景は、まさに「フランスが生んだ二つの文化遺産──自動車と建築」が交差する瞬間だった。

ACFは自動車黎明期に設立され、1906年にはル・マン郊外で世界初のグランプリ自動車レースを主催した。技術革新と規則制定においても重要な役割を果たし、やがて国際モータースポーツを統括するFIAへとつながる基盤を築いた。コンコルド広場のクラブハウスは1912年以来の拠点であり、同じ建物群にはFIFAも入居する。建築遺産と自動車遺産が同居するこの場所は、まさに「文化と速度の首都」と呼ぶにふさわしい。

Automobile Club de France(ACF)のエントランス。クラブの本拠は1912年以来、コンコルド広場を望むパレ・ド・ラ・コンコルド(旧オテル・ド・クリヨンの隣)に置かれてきた。18世紀に建造されたこの壮麗な建物は、かつて貴族や政治家の邸宅としても使われ、フランスの歴史の舞台を数々見届けてきた。クラシックカーが集ったこの日、石造りの門構えは今なお格式あるクラブの顔として来場者を迎えていた。

展示車両は会員の愛車ゆえに多彩だ。フランス勢では、未来的造形で知られるシトロエンDS 21や、革新の象徴トラクシオン・アヴァン、そして端正なセダン、プジョー404が並び、日常と非日常をつなぐ光景を見せた。戦前の威容を誇るブガッティ・タイプ40や大型のタイプ44は、いまも現役で石畳を走り去り、人々に往年のグランプリを想起させた。

漆黒のシトロエン DS 21がコンコルド広場に到着する姿。独特の流麗なラインと、時代を超えたオーラを放つDSは、同じパリの街を走る姿でも、クラブ展示という文脈に置かれるとまるで別物のように映る。1955年の登場以来、革新的なハイドロニューマチック・サスペンションと前衛的デザインで“未来の車”を体現したこのモデルは、今なおフランス自動車文化の象徴であり続けている。

人だかりをつくっていたのは、1930年代に登場したシトロエン・トラクシオン・アヴァン。世界初の量産前輪駆動車として知られるこのモデルは、モノコック構造や独立懸架といった当時の最新技術を投入し、フランス自動車史を一変させた存在だった。展示の場でも、ボンネットを開ければ人々が自然と集まり、革新の遺伝子に触れようとする。その様子こそ、この車が“生きた技術遺産”であることを物語っていた。

銀色のセダンはプジョー404。1960年代フランスの街角を彩った国民車で、ピニンファリーナの手による端正なスタイリングと堅牢なメカニズムで知られる。スポーツカーやグランツーリスモに混じって展示されると一見地味に見えるが、フランスの自動車文化を語るうえで欠かせない存在だ。ACF会員の愛車としてコンコルド広場に姿を現したことで、日常と非日常、庶民性と格式のコントラストが際立った。

石畳の上を軽やかに駆け出すブガッティ・タイプ40。展示されるだけでなく、実際にエンジンを始動し、自らの足で走り去るその姿は、この車が依然として“走るために存在する”ことを証明している。会場にいた人々は、その排気音とともに戦前のグランプリの記憶を一瞬にして呼び覚まされたに違いない。

荘厳なプロポーションを備えたブガッティ・タイプ44。1920年代後半に登場したこの大型ツアラーは、エットーレ・ブガッティが手がけた直列8気筒エンジンを搭載し、優雅さと力強さを兼ね備えていた。巨大なホイールと直線的なサイドラインは、当時の航空機工学にも通じる実用美を漂わせ、パリの石畳を舞台にするとその存在感はいっそう際立つ。クラブ会員の愛車として現役で維持されていること自体が、フランス自動車文化の厚みを物語っている。

イタリアからは、空力的な美を追求したアルファ・ロメオ・ジュリアSS、鮮烈な黄色に輝くフェラーリ365 GTB/4“デイトナ”、そして1980年代を代表するスーパーカーフェラーリF40が参加。英国車はジャガーEタイプ・シリーズ1やアストンマーティンV8ヴォランテ、さらに希少なAC Acecaが姿を見せ、優雅なGTの世界を体現した。ドイツからはメルセデス・ベンツ190SLやポルシェ356Cが参加。特に青いEタイプと赤い356が並ぶ姿は、偶然にもトリコロールを思わせ、フランスの舞台に相応しい光景となった。

鮮烈なイエローに彩られたフェラーリ 365 GTB/4 “デイトナ”。1968年の登場以来、カヴァリーノのV12グランツーリスモの頂点に位置づけられたモデルだ。シャープに切り立ったノーズと伸びやかなリアのプロポーションは、ピニンファリーナの手によるデザインの完成形とも称される。ル・マンの勝利によって得た“デイトナ”の愛称をまとい、コンコルド広場の石畳に佇むその姿は、今なおイタリアンGTの黄金時代を体現している。

会場でひときわ熱い視線を集めていたフェラーリ F40。ブランド創立40周年を記念して1987年に登場したこのモデルは、エンツォ・フェラーリが生前に見届けた最後のロードカーとして知られる。2.9リッターV8ツインターボが生み出す478馬力を、極限まで軽量化されたカーボンとケブラーのボディが受け止め、最高速度は当時の市販車最速を誇る324km/hに達した。会員の愛車としてコンコルド広場に並ぶその姿は、クラシックとモダンの境界を軽やかに飛び越える「未来の遺産」そのものだった。

コンコルド広場に並んだジャガーEタイプ・シリーズ1 ロードスターとポルシェ356カブリオレ。イギリスとドイツ、それぞれの国を代表するスポーツカーが肩を並べる姿は、1960年代欧州スポーツカー黄金期の縮図そのものだ。流麗なEタイプと愛らしい356が対照をなしつつ、青と赤のボディカラーがフランス国旗のトリコロールを思わせ、ここがACFの本拠であることを象徴するようにも映った。

堂々たるフロントマスクを備えたアストンマーティン V8 ヴォランテ。1970年代に登場したこのモデルは、当時“英国のマッスルカー”と称されるほど力強いV8エンジンを搭載しながら、アストンらしい洗練とエレガンスを併せ持っていた。オープントップの優雅さと重厚な存在感を兼ね備えたその姿は、映画や王侯貴族のガレージにもふさわしいものだった。パリのコンコルド広場に並ぶと、その気品はさらに際立つ。

鮮やかな赤がひときわ目を引くAC Aceca。1950年代に英国ACカーズが手がけた2+2クーペで、名車AC Aceのシャシーをベースに密閉ボディを与えたGTモデルだ。後にこの系譜からキャロル・シェルビーの手によるコブラが誕生することを思えば、この一台はまさにスポーツカー史の分岐点に位置する存在といえる。コンコルド広場に佇む姿は、英国スポーツカー黄金期の気品をそのままに伝えていた。

1950年代のメルセデス・ベンツを代表するロードスター、190SL。同時期の300SLガルウィングに比べ、より扱いやすい2シーターとして欧米の富裕層に愛されたモデルだ。クリームホワイトのボディと赤い内装が、戦後のドイツが取り戻そうとしたエレガンスを雄弁に物語る。フロントグリルに掲げられたACFバッジが、この車をただのクラシックカーではなく、クラブの文化遺産として位置づけている。

グラファイトグレーに輝くポルシェ356C。356シリーズの最終進化型として4輪ディスクブレーキを備え、軽快さと優雅さを兼ね備えた一台だ。レザーストラップ付きボンネットやメッシュライトがGTレースの薫りを漂わせる。リアグリルにはACFバッジが掲げられ、いまも“生きたクラブカー”であることを示していた。

さらに現代のフランスを代表するアルピーヌA110も会員車両として加わり、クラブが単に歴史を保存するだけでなく、現代と未来のスポーツカー文化にも接続していることを示した。エントランス内部には1900年製ド・ディオン=ブートン Type G vis-à-visが展示され、自動車が「馬なき馬車」と呼ばれた時代から最新のアルピーヌまで、120年を超える連続性が視覚化された。

会員の愛車として並べられたアルピーヌ A110。初代A110の精神を現代に受け継ぐこのモデルは、軽量アルミボディとミドシップレイアウトを武器に、純粋なスポーツカーとして現行フランス車の中でも異彩を放つ存在だ。クラシックカーが多い展示の中にあっても違和感なく溶け込み、ACFメンバーにとっては過去と現在をつなぐ“日常の相棒”として輝きを放っていた。

ACF本部エントランスに展示されているのは、1900年前後に製造されたド・ディオン=ブートン Type G「vis-à-vis」。単気筒4.5馬力エンジンを後方に横置きし、最高速度はわずか30km/hだった。向かい合わせに座るキャビンは馬車の名残を色濃く残しており、自動車がまだ「馬なき馬車」と呼ばれていた時代の空気を伝えている。格式あるクラブの玄関に、この小さな車が静かに佇むこと自体が、フランス自動車史の厚みを象徴していた。

この日、コンコルド広場を訪れた人々は、単なるクラシックカーの列以上のものを目にしたはずだ。ACFの会員車両は、それぞれが個人の情熱と文化遺産としての意味を兼ね備え、石畳の上で一瞬にして時代をつなげた。建築と自動車、過去と現在、そしてフランスと世界を交差させるこの展示こそが、ヨーロッパ遺産の日にふさわしい光景だった。

写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI

櫻井 朋成

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