1.日本相手には「決して引かない」
トウシル編集部(以下、トウシル):中国による圧力の強化が続いています。中国はなぜそこまで強硬なのでしょうか?
楽天証券経済研究所・加藤嘉一客員研究員(以下、加藤):多くの日本メディアは、日本の防衛力の強化や、高市早苗首相の台湾有事に関する答弁をきっかけに、中国が警戒を強めたと報じています。
表象に対する理解としては正しいのですが、中国の行動原理をひもとくには、もう少し歴史的な視点が必要だと考えています。
高市政権発足以降の中国の圧力強化
日時
出来事
2025年11月7日
高市首相が台湾有事を「存立危機事態になり得る」と国会で答弁し、中国が抗議。日本への渡航や留学の自粛を呼びかけ。
2026年1月6日
中国商務省が、日本への軍民両用(デュアルユース)品目の輸出管理強化を決定したと発表。
2月24日
日本の企業や大学などそれぞれ20団体を「輸出規制管理リスト」
および「監視リスト」に追加
5月下旬~6月上旬
中国の大連で輸出入に関する罪で日本人2人が逮捕されたことが判明
6月上旬
沖縄県・与那国島南方の日本の排他的経済水域(EEZ)で中国が「管轄権」を主張
6月29日
「輸出規制管理リスト」および「監視リスト」に各20社を追加
まず、中国共産党が中華人民共和国を建国する(1949年10月1日)に至るまでのナラティブ(物語)において、「日本に(第二次世界大戦で)勝利したこと」は非常に重要なピースです。
彼らの論理では、日本は「悪者」でなくてはならない。悪役としての日本の存在がなければ、「日本を倒し、国民党を追い出し、そして中華人民共和国を建国した」という中国共産党の「建国ストーリー」は成立しません。
愛国主義教育の現場や、中国の主権や国益が脅かされるような局面では、日本を常に「悪者」として仕立て上げ、プロパガンダを行うという政治的な要請が多かれ少なかれ働きます。高市政権の動きを「新型軍国主義」と呼称するのも、国内政治的にそう宣伝する必要があるからです。
もう一つ、最近の中国による圧力強化の理由として大きいのは、「日米同盟」への警戒の高まりです。中国は、東シナ海、南シナ海、台湾海峡における動きを米国に妨害されるのではということを強く警戒しています。
日本には在日米軍基地がありますし、日本は米国にとってアジアにおける最大の同盟国でもあります。その日本が防衛力を強化するとなれば、警戒を強めざるを得ないというのが中国側のロジックです。
2.「期待値の高さ」が不信感に直結
トウシル:なるほど。そうした政治的背景があるのですね。それにしても、今回の台湾海峡を巡る問題でもそうですが、両国のコミュニケーションはすれ違うことが多い印象ですね。
加藤:日中に限らず、例えば、インドとパキスタンのように隣国との関係がうまくいっていないケースは珍しくありません。加えて、日中関係においては、お互いに対する「期待値」が高すぎるという側面もあります。
歴史的経緯から、中国人は往々にして「日本は謝罪し続けるべきだ」と考え、主張していますが、そんな中国からすると日本や日本人の一部反応や姿勢は「不誠実」に映るようです。
一方、少なくない日本人は「中国は礼儀(孔子や孟子の教え)の国なのだから、もっと礼儀正しく振る舞うべきではないか」という考えを持っているでしょう。高市首相の台湾有事を巡る答弁以降、中国政府は日本への強烈な批判を繰り返しています。
相手への期待値が高すぎるが故に、それがかなわなかった時の失望が、そのまま相互不信の火種となっているように私には見受けられます。
3.中国外交を象徴する「サラミ戦術」
トウシル:6月29日、中国は輸出規制の対象を拡大しました。2025年11月の高市首相の発言以降、中国が断続的に圧力を強めているのはなぜでしょうか。
加藤:これは中国の行動パターンそのものです。私はこれをよく「太極拳」に例えて考察するようにしています。直線的に一気にたたくのではなく、曲線を描きながら、時に緩め、時に強めるようなイメージです。そこには一種の不規則性、変則性という「パターン」が垣間見られるのです。
南シナ海でも、中国は一気に広大な海域を支配下に置くのではなく、小規模な軍事行動や建設物の構築を積み重ねていく「サラミ戦術(サラミスライス)」を取っていますよね。
日本に対しても、「禁輸リスト」と「監視リスト」を20社ずつ、小刻みに増やしてきています。これは「日本側の反応を見ている」からです。圧力が効いていなければ、さらに次を出す。逆に、政権の方針が変われば引っ込める余地も残しています。
中国は、こうした「様子見」と「時間差」を駆使した「持久戦」を得意としています。巨大な国力を背景に、長期戦になれば自国が有利だと確信しているからです。孫子の兵法を重んじる彼らは、「戦わずして勝つ」ことを究極の目標としています。
気がついた時には日本経済が疲弊しきっている、防衛力の強化につながる体力も財力も残されていない、という事態こそ、彼らが描くベストシナリオなのです。国力を賭けた競争とも言えるでしょう。
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