ドローン戦争を支える衛星通信網「スターリンク」に、突然の利用制限が課された。作戦の中止を余儀なくされたウクライナ軍にとって、通信網への依存は新たな弱点となっている。制限の背後には、トランプ政権の対ウクライナ政策の変化があるのか
Is Washington Restricting Starlink?
2026年10月29日(木)12時16分
アンソニー・キング
(英エクセター大学教授[戦争研究]、同大学戦略・安全保障研究所所長)
ドローンはロシア・ウクライナ戦争を象徴する兵器となった。ウクライナでは毎日、何万機ものドローンが戦場を飛び回る。標的は敵兵1人や車両から、補給拠点、司令部、橋、発電所といった大規模施設まで多岐にわたっている。
このドローン戦争を背後で支えているのが、イーロン・マスク率いるスペースXの衛星通信網「スターリンク」だ。安全性の高いデジタル通信を提供し、ウクライナの政府と軍は今や全面的に依存している。
2022年2月、ロシアからの侵攻が始まると、当時のウクライナ副首相兼デジタル変革相ミハイロ・フェドロフは、マスクに通信サービスの提供を要請。2日後には端末500台がウクライナに到着した。
マスクは当初、端末2000台を無償提供し、300台を割引価格で販売。さらに約5500台の月額利用料を免除した。22年だけで支援総額は8000万ドルに達した。その後は契約に基づき、割引料金で提供を続けた。両者の戦略的・商業的協力は4年以上、ウクライナの戦争遂行を支えてきた。
スターリンクは、軍事用語で「C4ISR」と呼ばれる指揮・統制・通信・コンピューター・情報・監視・偵察機能を統合した重要なシステムの中核を担い、政府と軍の安全な通信を可能にした。
これがなければウクライナの防衛は極めて困難で、不可能だったかもしれない。22年、あるウクライナ軍の小隊長は米ウォール・ストリート・ジャーナル紙に「スターリンクがなければ、われわれはとっくに戦争に負けていただろう」と語った。
ウクライナはスターリンク、およびその軍事用システムであるスターシールドに大きく依存しているが、その利用には条件が伴っていた。
22年9月、ロシア軍による当初の攻撃を撃退したウクライナ軍は、クリミア半島の港湾都市セバストポリへの初攻撃を計画した。当時ロシア黒海艦隊の拠点だったこの港へ、爆発物を積んだ遠隔操作の小型艇を送り込み、艦隊に大打撃を与える作戦だった。ロシアが14年から支配し、ウクライナが自国領と見なすクリミアを攻撃する初の試みでもあった。
この大胆な計画は物議を醸した。当時の駐米ロシア大使アナトリー・アントノフはマスク本人に、クリミアへの攻撃は越えてはならない一線で、核戦争につながりかねないと警告していた。
戦争の激化を懸念したマスクはフェドロフに「ロシアが総動員態勢に入れば、ウクライナ全土のインフラを破壊するだろう」と忠告。「優位に立っているうちに和平を模索すべきだ」と述べ、第3次大戦を回避するよう促した。
マスクはクリミア周辺でスターシールドを作動させてほしいというウクライナ側の要請を拒否した。そしてXに「もし私が要請に応じていたら、スペースXは重大な戦争行為と紛争の激化に明確に加担することになっていただろう」と投稿した。
ただ、この危機の後、マスクとウクライナ指導部の関係は安定した。スターシールドはその後もウクライナ軍のデジタル通信を支える基幹システムとして、あらゆる作戦を可能にする不可欠な役割を果たし続けている。
だが10月中旬の1週間、ウクライナ軍はスターリンク依存の危うさに再び直面することとなった。
通信網が厳しい冬を左右する
10月13日夜から14日にかけて、スペースXは事前の警告なくスターリンクの一部サービスに時速約160キロの速度制限を課した。ウクライナのドローンやミサイルがスターリンクとの通信を維持したまま飛行できる最高速度が時速約160キロに制限され、スターシールド端末を搭載する機体が特に影響を受けた。
ドローンが戦争遂行の中核を担うウクライナにとって影響は深刻だった。ウクライナ軍は複数の作戦の中止を余儀なくされた。キルゾーン(敵の攻撃にさらされる危険地帯)上空での作戦能力が低下し、ロシア軍のドローン攻撃に対する防空能力にも支障が出た。時速160キロでは迎撃には遅すぎるためだ。
ロシアはエネルギーインフラへの戦略爆撃を主な戦争手段としており、冬に向けて攻撃はさらに激しくなると予想される。制限が続けば深刻な危機を招きかねない。
しかも今回は22年9月の時のようなマスク個人の気まぐれな判断ではなく、アメリカの対ウクライナ政策の変化を反映している可能性がある。
ドナルド・トランプ米大統領は10月9日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との間でロシア産ディーゼル燃料への制裁を一時解除し、国際市場への供給を認めることで合意したと発表した。燃料価格の引き下げにつなげることがその狙いだ。
さらにトランプは10月10日にウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の退陣を要求。翌11日にはロシアとウクライナが互いのエネルギー施設への攻撃を停止する「エネルギー停戦」の発効を一方的に発表した。
ただ、今回のスターリンクの利用制限が、ウクライナによるロシアのエネルギー施設への長距離攻撃を直接止めるわけではない。スターリンクはロシア国内では機能せず、ロシア深部への攻撃には別の通信システムが使われているためだ。
マスクはスターシールドの速度制限について、責任はアメリカ政府にあるとしてXに次のように投稿した。「スターシールドのシステムはアメリカ政府が所有・管理している。速度や利用に関するあらゆる制限はアメリカ軍、最終的には大統領が決定することだ」
22年9月に、マスクはバイデン米政権(当時)の意向に反してスターリンクの利用を止めたが、今回はアメリカ政府がスターリンクを制限しているのだと主張している。だが結果は同じだ。しわ寄せを受けるのはウクライナである。
その後、トランプは「通信状態は回復した」と主張しているが、ウクライナ側は完全復旧には至らず速度制限が残っているとしている。
この冬がウクライナにとって厳しいものになることは、以前から予想されていた。スターリンクをめぐる今回の混乱は、その戦いが戦場だけでなく、通信網を誰が、どの条件で握るのかにも左右されることを改めて浮き彫りにした。
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Anthony King, Professor of War Studies, Director of the Strategy and Security Institute., University of Exeter
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
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