泉屋博古館(京都市左京区)で「寛永行幸四百年記念 特別展 寛永行幸と花の都の文化びと」が9月5日から開催されます。
江戸時代初期にあたる寛永3年(1626)9月、大御所徳川秀忠・将軍徳川家光の招きにより後水尾天皇が京都・二条城に行幸されました。初日の9月5日には、天皇一家と公家、将軍と全国の大名がそろう天下の大行列に、京の街は空前の活況を呈します。寛永行幸は泰平の世の到来を告げ、新たな文化の胎動をうながしたともいえるのです。
本展では、行幸行列を活写する泉屋博古館所蔵《二条城行幸図屏風》(京都市指定文化財)を中心にこの歴史的盛事を振り返ります。そしてその前後から17世紀後半にわたり展開した寛永文化について東福門院(徳川和子)という一人の女性を起点に見つめていきます。将軍の娘にして天皇の后となった彼女の周辺では、後水尾天皇、千宗旦、松花堂昭乗、小堀遠州、野々村仁清など、きら星の如き文化人たちが身分を越えた交流を通じ、それぞれの美の形を結びました。会場では公・武・民の架け橋となった東福門院ゆかりの品々をまじえ、その美と交流の足跡をたどります。
泉屋博古館の近隣には東福門院菩提寺の光雲寺をはじめ、江戸初期復興のゆかりの社寺が点在しています。往時の雅人の息づかいを今に伝えるこの地で寛永文化に思いを馳せる一時を過ごしてみてはいかがでしょうか。
《東福門院》江戸時代・文政10年(1827)(光雲寺) 京都市指定文化財
寛永行幸四百年記念 特別展 寛永行幸と花の都の文化びと
会場:泉屋博古館(京都市左京区鹿ヶ谷下宮ノ前町24)
会期:2026年9月5日(土)~10月18日(日)
開館時間:10時~17時 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(9/21、10/12は開館)、9/24(木)、10/13(火)
入館料:一般 1,200円、学生 800円、18歳以下 無料
※学生・18歳以下は証明書を要提示
※障がい者手帳等ご呈示のかたはご本人および同伴者1名まで無料
※本料金で青銅器館(ブロンズギャラリー)も観覧可能
アクセス:
京都市バス「東天王町」下車、東へ200メートル(5、93、203、204系統)
京都市バス「宮ノ前町」下車すぐ(32、105系統)
地下鉄東西線「蹴上駅」から徒歩約20分
詳細は、泉屋博古館公式サイトまで。
本展のみどころ
1.徹底解剖!《二条城行幸図屏風》
史実を踏まえた確かな記録性、熱気あふれる風俗描写の臨場感、驚異的な描き込み。類品中でも随一とされ、寛永行幸四百年祭のキービジュアルともなっている泉屋博古館所蔵の《二条城行幸図屏風》(京都市指定文化財)がいよいよ登場します。実物のもつ迫力を体感できるまたとない機会です。さらにガラス越しでは確認できない細部の見どころも、高精細画像で紹介されます。
《二条城行幸図屏風》(左隻)江戸時代・17世紀 京都市指定文化財 泉屋博古館
2.最高級!徳川家出身の皇后さまの衣裳調度
日本史上、唯一、将軍家に生まれ天皇に嫁した東福門院・徳川和子。幕府と朝廷のはざまにありながら、しなやかに生きた彼女の生涯を象徴する貴重な品々が並びます。現存最古の十二単はじめ、江戸時代を通じ最も存在感のあった皇后の最高級の衣裳調度です。
3.東福門院の創作品、押絵に注目
東福門院が自ら創作に携わった押絵が集合します。美麗な端切れをはりあわせて描く押絵は、こののち宮廷の女性からひろがり、羽子板などの押絵や雛人形のルーツになったとも言われます。東福門院が大切な人々に贈ったこれらの作品からは、教養や美的感性、さらに贈った相手へのこまやかな情愛がしのばれます。
東福門院《押絵「楊貴妃」》江戸時代・17世紀 泉屋博古館
4.名品でたどる寛永文化のスターの交流
後水尾天皇、徳川家光、近衛信尋、小堀遠州… 行幸に参加した面々は多く芸術方面にも高い関心をもち、優れたセンスで収集し、またプロデュースして茶の湯の道具としました。行幸がもたらした古典復興、公武融合といった文化の潮流のもと寛永の美術工芸が到達した粋と、背景にある交流の物語を読み解きます。
《鶏撮丸香炉》野々村仁清 江戸時代・17世紀 泉屋博古館東京
展覧会構成
第一章 寛永行幸―新時代をつげる文化の饗宴
今を遡ること400年、寛永3年(1626)9月、大御所徳川秀忠・将軍徳川家光の招きにより、後水尾天皇が京都・二条城に行幸されました。武家のもとへの天皇の行幸は歴史上も数えるほど。幕府は威信をかけ、東西の智者を動員して、戦乱で途絶えた伝統をひひも解き復興、また武家文化の要素も盛り込み、贅と趣向を凝らしたもてなしを5日間にわたり繰り広げました。
初日の9月5日には、二条城へ向かう天皇一家と公家、そして彼らを迎え先導する将軍と全国の大名の行列がそろって民衆の目前を進みました。それを一目見ようと全国から人びとが集まったと伝えられています。その様子を活写するのが《二条城行幸図屏風》です。史実に即した高い記録性、そして沿道の最先端の風俗や悲喜こもごもの人間模様まで、他に類をみない驚異の細密表現で近年注目が高まる泉屋本《二条城行幸図屏風》。高精細画像も交えて余すところなく紹介されます。
《二条城行幸図屏風》江戸時代・17世紀 京都市指定文化財 泉屋博古館
天皇の鳳輦(左隻部分)
《二条城行幸図屏風》部分:後水尾天皇の鳳輦(左隻)江戸時代・17世紀 京都市指定文化財 泉屋博古館
大勢の賀輿丁に奉じられ行幸する後水尾天皇。方形造の屋根に鳳凰の飾をつけ、四周には綾か錦のような幕が。鳳輦は平安時代以降、神輿の原型となった乗り物。鳥兜を被った楽人が雅楽を演奏し天皇の進む道を清めています。
将軍家光の牛車(右隻部分)
《二条城行幸図屏風》部分:徳川家光将軍の牛車(右隻)江戸時代・17世紀 京都市指定文化財 泉屋博古館
葵のご紋に飾られた将軍の牛車は、皇親や摂関のみに許される唐庇車からひさしのくるま。牛車のあとに続く黒毛の馬はたてがみの拵えも美しく、特別な位にしか許されない紫色の房飾りをつけて歩いています。
東福門院 中宮和子の牛車(右隻部分)
《二条城行幸図屏風》部分:東福門院和子の牛車(右隻)江戸時代・17世紀 京都市指定文化財 泉屋博古館
将軍と同じ二頭立ての牛車は天皇家では唯ひとり、中宮・和子のもの。散りばめられた葵紋は中宮が徳川家出身であることを暗示しています。
第二章 東福門院―文化の架け橋として
寛永行幸の実現に大きな役割を果たしたのが徳川和子、のちの東福門院(1607~1678)でしょう。二代将軍・徳川秀忠の五女で、家康の宿願により元和6年、十四歳で後水尾天皇のもとへ入内しました。江戸開幕以来、幕府は圧倒的な武力と財力を背景に朝廷に対する統制を強め、両者の軋轢が深まるなかでの政略結婚でしたが、二人は仲むつまじく行幸の際には二人の姫宮に続き懐妊中で、幕府・朝廷の融和ムードに拍車がかかりました。「将軍の娘」という前代未聞の出自をもつ后に反感を抱く者も少なくないなか、温順な人柄と心配りで天皇との愛情を深め、周囲の信頼を集めていったといいます。
東福門院を通じ幕府からもたらされた莫大な資金は、法皇となり長らく院政をしいた後水尾院と東福門院による社寺再興や文化活動を支えました。世紀のロイヤルウエディングともいえる東福門院入内は、寛永行幸とならび後世に語り継がれ、しばしば絵画化されたことは、京の町における東福門院の存在感の大きさを物語っています。本章ではまず、彼女の入内とその生涯を象徴する品々から、「菊」と「葵」の狭間で真摯にしなやかに生きた東福門院を偲びます。
《東福門院》江戸時代・文政10年(1827)(光雲寺) 京都市指定文化財
東福門院《和歌懐紙》江戸時代・17世紀 京都市指定文化財 光雲寺
《東福門院御料 唐衣表着》江戸時代・17世紀 京都府指定文化財 霊鑑寺【展示期間:9月5日~27日】
第三章 寛永文化の人びと―公・武・民のミックスカルチャー
歴史的な盛事、寛永行幸の主客となった公武の貴人たちは、また多く芸術文化に親しみ、寛永文化形成に大きく寄与しました。後水尾天皇、徳川秀忠、徳川家光、近衛信尋、小堀遠州…、それぞれに和歌を詠み書をしたため、時に絵筆を揮い茶道具の制作にも携わっています。職人や画家などの鍛錬された作とは別趣の、その人の品性や趣味を映すかのような手跡は、一流文化人の証ともなりました。また、千宗旦や野々村仁清など民間の茶人や芸術家と交流し相互に刺激しあうことで、個性豊かで斬新な作品が生まれ、またその文化が広く民間に浸透していくことともなりました。本章では、彼らの作品や愛蔵の茶道具を通じ、公・武・民が響き合いながら形成され、今日に至る文化芸術の礎にもなった寛永文化の豊かな世界に思いを馳せます。
《百椿図巻》部分 江戸時代・17世紀 根津美術館/寛永の椿ブームのなか、当代の文化人が身分階層をこえて和漢の賛を寄せ書き
後水尾天皇《和歌懐紙 詠寝覚月》江戸時代・17世紀 泉屋博古館
《青磁福寿香炉》元時代・14世紀 泉屋博古館東京/徳川家光の下賜品
《唐物文琳茶入 銘 若草》南宋~元時代・13~14世紀 泉屋博古館東京/行幸の仕掛人のひとり、金地院崇伝旧蔵
《小井戸茶碗 銘 六地蔵》朝鮮時代・16世紀 泉屋博古館東京/小堀遠州遺愛の品
野々村仁清《信楽写兎耳付水指》 江戸時代・17世紀 三井記念美術館
いまからちょうど400年前の京都を熱狂させた、世紀のロイヤルパレード「寛永行幸」。本展は、そのきらびやかな歴史の瞬間を驚異の細密表現で活写した《二条城行幸図屏風》を実物の圧倒的な迫力で体感できるだけでなく、高精細画像によってガラス越しには見られない細部まで徹底的に堪能できる絶好の機会です。さらに、公武の軋轢のなかでしなやかに生き、豊かな文化の架け橋となった東福門院ゆかりの現存最古の十二単や最高級の衣裳調度、そして彼女自身が手がけた極めて華奢で愛すべき「押絵」の小品群からは、その深い教養と贈る相手へのこまやかな情愛が静かに浮かび上がります。この秋、華麗なる寛永文化の豊かな世界に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。(美術展ナビ)
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