2026年7月10日、株式会社アイネット(以下、アイネット)は、AI・衛星データ利活用広域監視システム「宙の目」を活用した取り組みが、神奈川県の「衛星データ利活用プロジェクト」に採択されたと発表した。
本記事では、「宙の目」の仕組みやプロジェクトの内容、自治体の山間部監視に衛星データを活用する狙いについて解説する。
▶︎株式会社アイネットの詳細はこちら
アイネット「宙の目」が神奈川県のプロジェクトに採択
神奈川県は、衛星データを活用した新たなビジネスモデルの創出を目的に、県内企業などから2026年度の「衛星データ利活用プロジェクト」を募集した。
25件の応募から8件が採択され、その一つが、アイネットと株式会社GLODAL(以下、GLODAL)が取り組む「『宙の目』が拓く、神奈川の新たな山間部監視DXプロジェクト」である。
本プロジェクトでは、衛星画像とAIを活用し、山間部における土砂災害リスクや、投棄・伐採などの異常を把握する仕組みを、神奈川県内の自治体と連携して実証する。
県は、プロジェクトの実施費用を1件当たり最大1,000万円支援するほか、事業上の課題や知的財産権の確保、実用化に向けた戦略について専門家による助言や伴走支援を行う。
なぜ山間部の監視に衛星データを使うのか
広範囲に分散する監視対象が課題
神奈川県では、県土の約4割を森林が占め、土砂災害に関連する区域は約1万7,000カ所にのぼる。
これらの区域では自治体職員による日常的な見回りが行われているが、広範囲に及ぶ監視対象を、限られた人員で継続的に確認することが課題となっている。
また、航空写真などを用いた従来の監視手法では、小さな地表の変化を把握することが難しい。これまで国が実施してきた衛星データ活用も、大規模災害の発生時を想定した実証が中心であり、自治体の日常的な見回り業務を想定した事例は限られていた。
衛星データで現地確認の優先度が高い場所を抽出
「宙の目」では、山間部における土砂災害リスクや、不法投棄、違法伐採が疑われる地表の変化を、衛星データによる検知対象としている。
衛星画像から異常の可能性がある場所を抽出することで、自治体は監視区域を一律に巡回するのではなく、現地確認の優先度が高い場所を絞り込むことができる。
衛星データだけで異常を確定するのではなく、広範囲の中から確認すべき場所を抽出し、自治体職員による現地調査につなげる仕組みである。神奈川県が公表した構成図では、ドローンによる現地調査や精密観測で衛星データを補完する構想も示されている。
これにより、巡回業務の効率化に加え、異常を早期に把握できる可能性も高まる。
[PR]
「宙の目」は衛星画像とAIで変化を検知
光学衛星とレーダー衛星のデータを解析
「宙の目」は、衛星画像、AI、クラウド基盤を組み合わせて広域を監視する。
衛星データには、国内外の光学衛星とSAR衛星が取得した画像を利用。新しい衛星データと、過去に取得されたアーカイブデータをAIで比較し、以前には存在しなかった変化を抽出する。
衛星データを活用した異常検知の流れの説明図 ©︎Space Connect
光学衛星は、人の目で見る写真に近い画像から地表の状態を確認できる。一方、SAR衛星は電波を利用して観測するため、雲や天候の影響を受けにくく、夜間にも観測できる特徴がある。
複数の観測手段を利用することで、土砂災害につながる地表変化や、投棄、伐採などの異常を継続的かつ網羅的に把握する考えである。
データ解析・AI×クラウド・システム構築で実用化へ
「宙の目」は、衛星データ解析や変化検知AIエンジンの開発を手がけるGLODALと、衛星データの取得やクラウド基盤の提供、自治体との調整などを手がけるアイネットが連携して開発を進めてきた。
両社は2025年10月にも、「宙の目」を活用した取り組みが、神奈川県のオープンイノベーション支援事業「ビジネスアクセラレーターかながわ」に採択されている。
当時の実証では、GLODALが変化検知AIエンジンの開発と衛星データ解析を担当。一方、アイネットは衛星データの取得やクラウド基盤の提供、自治体との調整、実証運営を担った。
GLODALのAIエンジンで衛星画像から地表の変化を抽出し、取得したデータや解析結果をアイネットのクラウド上で処理して、自治体職員らへ分かりやすく通知する。両社の連携により、専門的な衛星データ解析を、自治体の日常的な監視業務へ組み込むことを目指している。
今回のプロジェクトにおける詳しい役割分担は公表されていない。ただし、衛星データ解析とAI、データ取得、クラウド基盤、自治体との調整を一体化できる点が、両社連携の特徴といえる。
▶︎GLODALの詳細はこちら
インフラや林業への展開も想定
「宙の目」の活用先は、自治体による山間部監視に限らない。
神奈川県が公表したプロジェクト概要では、違法な盛土や土砂災害、不法投棄、違法伐採の監視に加え、鉄道設備、電力・通信インフラ、林業・森林組合など、民間分野での利用も想定されている。
鉄道や電力・通信設備、森林は広い地域に点在しており、人による巡回だけですべての変化を継続的に把握することは難しい。衛星データとAIによって異常の可能性がある場所を絞り込めれば、設備の周辺環境の変化や、伐採・倒木などを効率的に確認できる可能性がある。
今回の実証を通じて山間部監視における有効性が確認されれば、広範囲に土地や設備を保有する民間事業者への展開も期待される。
さいごに
今回のプロジェクトで注目されるのは、衛星データを大規模災害時の状況把握だけでなく、自治体の日常的な見回り業務へ組み込もうとしている点である。
衛星画像とAIによって異常の可能性がある場所を抽出できれば、すべての区域を同じ頻度で巡回するのではなく、限られた人員を確認の必要性が高い場所へ重点的に配置しやすくなる。
一方で、自治体業務への実装には、異常検知の精度だけでなく、衛星画像の取得頻度や費用、通知を受けてから現地を確認するまでの業務設計も重要となる。
「宙の目」が今回の実証を通じて自治体の実務にどこまで組み込まれ、継続的に利用できる監視サービスへ発展するかが注目される。
宇宙業界では現在、様々な企業が人材を募集している。興味のある方は、業界特化型の転職プラットフォーム「スペジョブ」をチェックしていただきたい。

参考
AI・衛星データ利活用広域監視システム『宙の目』を活用した山間部の異常検知プロジェクトが令和8年度神奈川県「衛星データ利活用プロジェクト」に採択されました(2026-07-19閲覧)
「衛星データ利活用プロジェクト」を採択しました(神奈川県, 2026-07-19閲覧)
