蔦屋書店・佐藤のオススメ広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.378『10までかぞえられるこやぎ』 アルフ プリョイセン (著) 林 明子 (イラスト) 山内 清子 (翻訳) 福音館書店

絵本『10までかぞえられるこやぎ』のあらすじをご紹介しようとすると、何だか意味が分かるようなよく分からないような、支離滅裂な感じになってしまうのは、きっと私の文章力が足りないせいだけでなく、この本が、大人にとってのあたりまえが通用しない、子どもの視点から語られたお話であるからだと思います。

登場するのは、自分で10まで数えられるようになったことが嬉しくてたまらないこやぎです。本作は、主人公のこやぎの姿を通して、幼い子どもの生き生きとした夢や心のありようを描き出したお話であると言えるでしょう。

 

まずはじめに、水たまりに映った自分の姿を見て「ひとつ」と数えたこやぎのところに、子牛が通りかかります。「なにしてるの?」「かずを かぞえてるの。きみも かぞえてあげようか」…「だめ、やめて。かあさんにきいてからにするよ」と断る子牛をさえぎって、こやぎは「ぼくで ひとつ、きみで ふたつ、1、2」と数えます。「こやぎが ぼくのこと、かぞえちゃった」と泣き出す子牛。こやぎは、そのあとも出会った動物たちを順番に数えていくのですが、数を数えるとはどういうことなのかよく知らない動物たちは、横から子牛が「あっ、〇〇さんも かぞえられちゃったよ」と嘆くたび皆そろって怒り出し、おいコラこやぎ、お前ことわりもなくいきなり数えるなんて何てことしてくれるんだよ、よくも勝手に数えたな、このチビいい度胸してんな思いしらせてやるぞと、カンカンに腹を立てながら後を追いかけてきます。

 

逃げまわってたどり着いた川岸で、こやぎは停泊していた船に飛び乗りますが、追いかけてきた牛や馬たちも次々とそれに続いたため、船は大揺れ、たちまち乗員と乗客でいっぱいになってしまいました。このままでは沈んでしまうぞと大混乱に陥るなか、船長のおんどりが、「このふねは 10にんのりなんだ!」「だれか、かずをかぞえられるものは、いないか!」と叫びます。こやぎは、みんなが固唾を飲んで見守る中、一から順に立派に数を数えあげ、乗っている動物の数がちょうど10匹であることが無事分かりました。こんどはみんな「こやぎ、よくやった!」「えらいぞ!」と大喜びして、めでたしめでたし。こやぎはそのあとも船に残って、数を数える係になりました。…

 

原作は、ノルウェーの作家アルフ・ブリョイセン。山内清子さん訳の本書が、国内の他の多くの翻訳絵本と異なる点として、海外の作家さんのお話に、日本人の作家による絵を組み合わせて作られたものであることが挙げられるでしょう。『10までかぞえられるこやぎ』は、『こんとあき』や『はじめてのおつかい』など多数のロングセラー絵本の作者である林明子さんが、その絵を手掛けている作品です。

 

林明子さんの描くこやぎが駆け抜けるのは、アルプスの少女ハイジの世界を思わせる美しい自然の風景です。動物たちの毛並みや肌の質感、漂う空気の清々しさまで伝わってくるような抜群の画力や、すこやかであたたかみのある対象の描き方で、林明子さんの絵はいつも私たちの目を楽しませ心を満たしてくれますが、この『10までかぞえられるこやぎ』は、さらにまたひと味違った驚きと感動を私たちに与えてくれるように思います。それは、「 林明子さんって、こんなに面白い方だったの!?」という、驚きと感動です。

 

この絵本をご覧になる際、ぜひ少し想像してみていただければと思うのが、もし仮に、この愉快なお話のテキストだけが目の前にあったなら、それに対してどのような絵を合わせるだろうかという見方です。そう考えてみることで本書の林明子さんの絵の創造性、お話を咀嚼し表現する力の素晴らしさが、よりいっそう明らかになるのではないかと思います。

 

絶妙な訳で日本語に置き換えられた、おおらかでユーモアにあふれたお話が、さらなるユーモアを上乗せした絵とともに語られるミラクルな絵本。とにかく、真面目で誠実なイメージの林明子さんの素敵な絵で、すっとぼけた冗談がいくつも連発されるそのギャップが面白くて参ってしまいます。テキストの世界観を豊かに拡張する、林明子さんのいたずら心に毎回笑わされるこの絵本を、まだ読んだことのない方にぜひおすすめしたいです。そして、この翻訳絵本の挿絵を手掛けるお仕事を、林明子さんその人に依頼された当時の編集の方の慧眼にも深く感謝いたします。どうもありがとうございました。

 

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