美術館はときに瞑想の空間を提供する。直島新美術館に新たに加わったサニタス・プラディッタスニーの《The Sound of Naoshima》はこの美術館を訪れる体験を一層特別なものにしてくれるだろう。

開館1周年「直島新美術館」に新たにできた“瞑想の空間”とはSanitas Pradittasnee, The Sound of Naoshima (2026) Photos by Takeru Koroda 
coutesy of Fukutake Foundation

「音なき音」を感じ取る

世界が注目する現代アートの島、香川県直島のベネッセアートサイト直島に1年前に開館した直島新美術館に新しい展開があった。この夏の展示替えによって、岡﨑乾二郎とタイ出身のアーティスト、サニタス・プラディッタスニーによる新展示がスタート。また、下道基行による瀬戸内「緑川洋一」資料館のサテライト展示も公開されている。

そもそもこの美術館はアジア地域出身の著名アーティストから新進気鋭の作家の代表作や新作を展示する場としてオープンした。そしてこれは近年の美術館の世界的な傾向なのだが、美術館内部にとどまらず、サイトスペシフィック的な展開を見せてくれている。もともと直島は当初からそういう活動をしてきたが、また一つそんな潮流にも沿った展示で魅力を加えている。

サニタス・プラディッタスニーの《The Sound of Naoshima》Sanitas Pradittasnee, The Sound of Naoshima (2026) Photos by Takeru Koroda 
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それは今回公開されたサニタス・プラディッタスニーの《The Sound of Naoshima》だ。禅宗の修行者が悟りを開くための課題、またはその問答のことを「公案」というがその一つに「隻手の声―片手で鳴らす音を心耳をもって聞く」というのがある。これは、両手を打ち合わせれば音が鳴るが、片手(隻手)だけではそうはいかない。どのような音がするのか、理屈や思考を超えて「音なき音」を感じ取れという指示なのだが、そこから着想した作品が公開されている。

彼女は2024年7月に初めて直島を訪れた。島内の聖なる森や神社、直島⼋⼗⼋箇所の遍路道を歩いた体験は、自身がタイの森で経験した瞑想を思い起こさせ、仏教思想における「無常」「苦」をここでも理解するきっかけとなった。

作品は美術館にアクセスする階段の脇の自然が残された森の斜面に設置されている。来館者は美術館に入る前にこちらの動線で歩みを緩め、立ち止まって自然を感じ、ときに変化に気づき、自身と向き合う静かな時間を持つためのアプローチとしてつくられている。

サニタス・プラディッタスニーの《The Sound of Naoshima》Sanitas Pradittasnee, The Sound of Naoshima (2026) Photos by Takeru Koroda 
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アーティスト、サニタス・プラディッタスニーは1980年、タイのバンコク生まれ。同地を拠点に活動している。現代アート制作のほか、ランドスケープ・アーキテクチャー・デザインも手がける。信仰や宗教に関連する建築の中の形、質感、空虚な空間に興味を持ち、鑑賞者との相互作用を促すような建築・彫刻作品を手掛けてきた。

アーティストのサニタス・プラディッタスニー。6月7日、アーティストトークマラソンにて。アーティストのサニタス・プラディッタスニー。6月7日、アーティストトークマラソンにて。

彼女はこう語っている。

「ここで作品を作るにあたり、私の強い希望として、タイの伝統的な技法を直島に融合させたいと考えました。具体的にはタイの伝統的な鏡、漆、そして古代から伝わる鋳造技法を用いて制作しています。このプロジェクトのため、調査を進め、伝統素材を使った鏡を復元することができました」

最初、小道を歩き進めると、鳴らないベルで構成されているオブジェ《Echo of the SILENCE》があり、さらに奥に進むと表面が鏡の仏塔が設置されている。

アーティストのサニタス・プラディッタスニーの作品Sanitas Pradittasnee, The Sound of Naoshima (2026) Photos by Takeru Koroda 
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サニタス・プラディッタスニーの《The Sound of Naoshima》Sanitas Pradittasnee, The Sound of Naoshima (2026) Photos by Takeru Koroda 
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「タイの寺院に用いられる伝統的な鏡です。およそ200年前のラーマ三世の時代に遡る寺院でも使われていたものです。その伝統素材の製法を参照して製作されました。手仕事で作られているため、表面にはわずかなゆらぎがあります。また、時間経過とともに変化していくのも特徴です」

確かに建築素材としてはやや脆そうな感じの鏡なのだが、手仕事ゆえのわずかな表面のゆらぎがあり、裏面のコーティングにより映り込みが赤みを帯びる。ガラスが非常に薄いため、時間経過とともに自然に入っていく細かなヒビ(クラッキング・ミラー)が「無常」を象徴する重要な要素となり、威圧感を与えないところなどが成功しているように感じられる。

サニタス・プラディッタスニーの《The Sound of Naoshima》Sanitas Pradittasnee, The Sound of Naoshima (2026) Photos by Takeru Koroda 
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仏塔の内部に入ると、落ち着く空間が現れ、その中でしばらく座り、心静かになるまで過ごす。さて、「音なき音」を感じ取ることはできたのだろうか。

直島新美術館
開館時間: 10:00 ~ 16:30( 最終入館16:00 )
休館日: 月曜 ※ ただし、祝日・休日の場合開館、翌日休館
鑑賞料金: オンライン購入 ¥1,500/窓口購入 ¥1,700 ※15歳以下無料

Yoshio Suzuki
編集者/美術ジャーナリスト。雑誌、書籍、ウェブへの美術関連記事の執筆や編集、展覧会の企画や広報を手がける。また、美術を軸にした企業戦略のコンサルティングなども。前職はマガジンハウスにて、ポパイ、アンアン、リラックス編集部勤務ののち、ブルータス副編集長を10年間務めた。国内外、多くの美術館を取材。アーティストインタビュー多数。明治学院大学、愛知県立芸術大学非常勤講師。

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