マフィン氏の矛先は、トランプ大統領に投票していないと抗弁し、恥ずかしさや身の危険からカナダ人を装うリベラル派や進歩派の米国人にさえ向かう。

「理解はする。多くの人は街頭に出て、より良いものを求めて戦っている。単に税関で怒鳴られずに旅行したいだけの人もいるだろう。理解はしている」(マフィン氏)。

だがマフィン氏は、カナダ国旗は盾でも透明マントでもないと続ける。「自分をカナダ人と呼ぶのは安全策ではなく、パフォーマンスアートにすぎない」

トランプ氏が大統領に返り咲いた2024年の選挙後に広まった、トランプ氏のスローガンである「MAGA(米国を再び偉大に)」を支持していない隣人に対する「心の支えとなるカナダ人」というネット上のトレンドの時代はすでに終わりを迎えたようだ。

トランプ氏による断続的な関税戦争や、カナダを「51番目の州」として併合するといった脅し、さらには前首相のジャスティン・トルドー氏を執拗(しつよう)にこき下ろす言動は、隣国に対するカナダ人の感情を硬化させ、数十年ぶりのナショナリズムを呼び覚ましている。

トロント大学のロバート・シャーツァー准教授(政治学)は「外部からの脅威こそがナショナリストの反応を刺激する。社会学者が『集団的沸騰』と呼ぶ、感情が自然に噴き出す現象だ」と説明する。

カナダではこうした集団的な熱狂は、スポーツイベントでの米国歌へのブーイングや、米国旅行や米国製品のボイコット、カナダ国旗の掲揚といった形で表れている。これらは、米国人にとってもカナダ人にとっても不快な真実ともいえるメッセージをさらに突き付ける形となっている。

「カナダのナショナリズムの根底には反米感情の要素がある」とシャーツァー氏は語り、ナショナリズムに結びついた感情は宗教と同じくらい強力になり得ると指摘する。「だから、米国人がカナダ人を装えば、外からの脅威によって国民的な誇りを持ち、外部からの脅威に刺激されている人が感情的に反応するのは理解できる」

関税とナショナリズムの復活は、カナダ製品の購入を促すキャンペーンを後押ししている/Jennifer Gauthier/Reuters
関税とナショナリズムの復活は、カナダ製品の購入を促すキャンペーンを後押ししている/Jennifer Gauthier/Reuters

今年初め、カナダのトルドー首相(当時)は、カナダの国民的アイデンティティーを「何ではないか」という点から定義した。

トルドー氏はCNNの取材に対し、「カナダ人はカナダ人であることを非常に誇りに思っている。我々が自分たちを最も簡単に定義する方法の一つは『まあ、私たちは米国人ではない』ということだ」と語っていた。

だからこそ、カナダ人は米国人がカナダ国旗を勝手に利用し、自らのものだと主張することに強い憤りを覚える。ネット上の議論では、カナダ人が、この行為について「旅行の裏ワザ」や「無害ないたずら」と笑い飛ばす米国人に対し、なぜそれが不快で傲慢(ごうまん)なのかを長々と列挙している。そこでは、コスプレであり、文化の盗用であり、カナダ国旗を嘲笑するものであり、カナダの善意や国際的な評判を台無しにするものであり、詐欺的で、傲慢で、臆病で、尊大な行為だと指摘されている。

米国の例外主義を考えれば皮肉でもある。もし米国が地球上で最も偉大な国なのであれば、なぜ米国人は自らの国籍を隠し、別の旗の陰に隠れようとするのか、とカナダ人はネット上で問いかける。

マフィン氏はCNNに「米国で事態が悪化し続ける中、多くの米国人が海外旅行について話しているのを目にし、カナダ人のコスプレをするというアイデアが頻繁に浮上した」と語った。「私は多くのカナダ人が何世代にもわたって思ってきたことを声に出して伝えようとした。私たちは、特定の国から来たことをごまかすために羽織るマントではない。カナダは一つの国であり、コスチューム店ではないのだ」

1990年代から2000年代にかけて欧州をバックパックで旅した人の多くは、若い米国人がカナダ人を装うという現象を目の当たりにしてきた。こうした現象は、米国の外交政策が不評で、アフガニスタンやイラクに侵攻した00年代によく見られた。

05年に放送された米人気アニメ「ザ・シンプソンズ」のイタリア編でも、リサ・シンプソンが自分のリュックにカナダ国旗を縫い付ける場面がある。「欧州の人たちの中には、米国が過去、この5年くらいの間に愚かな選択をしたと考える人がいるから。だから、これから1週間、私はカナダ人なの」

Share.