Europe Trends
2026.04.28
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ルーマニアでもEUに懐疑的な政権が誕生か?
~東欧諸国で相次ぐ政権交代、東欧でいま何が起きている~
田中 理
要旨
ルーマニアでは最大議席を持つ中道左派政党が政府の緊縮措置に反発して連立を離脱。極右政党とともに親EU政権に対して内閣不信任案を提出することを示唆している。両党の合計議席は議会の過半数に僅かに届かないが、その他野党勢の協力で不信任案が可決し、政権は辞任に追い込まれる可能性が高い。
総選挙となれば、極右政党と連立を離脱した中道左派政党が議会の過半数の議席を確保する可能性が高い。先日のブルガリアに続き、ルーマニアでもEUに懐疑的な政権が誕生する恐れがある。次期政権が緊縮的な財政運営を放棄すれば、EUの制裁発動、格下げ、国債利回りの急騰、通貨レフの暴落に見舞われる恐れがある。
内閣不信任案が可決した場合も、議会の前倒し総選挙を実施するハードルは高い。①このまま議会選挙が前倒しされ、極右が主導する政権が誕生するか、②早期解散を回避し、新たな連立政権が誕生するか、③非多数派政権や短命政権が続くか、④政治混乱を回避するため、非政治家によるテクノクラート政権が誕生するか、今後の政局展開に注目が集まる。
EU加盟国のルーマニアは、低い徴税能力など長年の構造問題、パンデミックやエネルギー危機対応での財政拡張、近年の選挙対策でのバラマキが重なり、財政悪化が著しい。2024年の財政赤字の対GDP比率は9%を超え、EU内で突出して悪い(図表1)。EUの財政規律違反の是正措置である「過剰赤字手続き(EDP)」の対象国で、EUの監視下で段階的な財政赤字の削減を進めている。ボロジャン首相が率いる連立政権は、VATの引き上げ、エネルギー価格の上限撤廃、政府歳出の凍結など、厳しい財政再建に取り組んでいる。政府債務の膨張と金利上昇による利払い負担の増加、緊縮財政とインフレによる経済成長の減速、欧州復興基金からの資金拠出の終了など、財政を取り巻く環境は厳しい。ルーマニアの国債格付けは「BBB-」と投資適格級の最低ランクに位置し、格付け見通しも「ネガティブ」で投機的水準への転落寸前の状況にある。経常赤字国で、国内の資金不足を海外資金に依存している。財政運営に対する信認低下は、通貨レウの下落圧力を強める。政治環境の不安定化が財政運営にも影を落としている。


ロシアによる選挙介入やソーシャルメディアの不正操作でやり直しとなった2025年5月のルーマニア大統領選挙では、中道系独立候補でブカレスト市長のダン氏が、極右政党「ルーマニア人統一同盟(AUR)」のシミオン党首を僅差で破り、第七代のルーマニア大統領に就任した(図表2)。大統領選の結果を受け、中道左派の最大与党「社会民主党(PSD)」出身のチョラク首相が辞任し、同年6月に中道右派政党「国民自由党(PNL)」のボロジャン党首が新たな首相に就任し、PSD、PNL、中道右派政党「ルーマニア救出同盟(USR)」、中道右派政党「ルーマニア・ハンガリー人民主同盟(UDMR)」の4党による連立政権を率いてきた。政府の緊縮措置に反発し、4月25日に最大勢力のPSDが連立を離脱したことで、現在はボロジャン首相が残る3党による非多数派政権を率いている。


連立を離脱したPSDのグリンデアヌ党首と、2025年5月の大統領選挙で敗れたAURのシミオン党首は27日に合同記者会見を開き、両党が近くボロジャン政権に対する内閣不信任案を提出することを明らかにした。両党の保有議席の合計は、定数134の元老院(上院)で64、定数330の代議院(下院)で155と、過半数(上院で68、下院で166)に届かない(図表3)。通常の立法行為では各院が別々に審議するが、内閣不信任案については両院合同で審議する。上下両院の合計議席でも、両党の保有議席の合計は219で過半数に15議席足らない。もっとも、来週にも予定される内閣不信任投票は、別の野党の協力で可決する見通しで、ボロジャン首相が率いる親EU政権が倒れる可能性が高い。


PSDとPNLの間には、当初の2年間をPNLが連立を率いた後、2027年にPSDに首相の座を明け渡すとの合意があった。このことが、これまでPSDが連立離脱を思いとどまる理由となってきた。党勢低迷が続くPSDは、反緊縮を掲げて連立を離脱し、極右と連携する禁じ手に打って出た。各種の世論調査では、AURが与党勢を大きく引き離してリードしている(図表4)。前倒しの総選挙が行われ、世論調査通りの結果となれば、AURとPSDは議会の過半数の議席を確保することになる。先日の選挙で親ロシア派の新興政党が圧勝したブルガリアに続き、ルーマニアでもEUに懐疑的な政権が誕生する可能性がある。ルーマニアはEU内で6番目に人口が多く、ウクライナと国境を接し、北大西洋条約機構(NATO)の最大規模の基地がある。次の選挙で勝利した場合の有力な首相候補であるシミオン氏は、EUの財政干渉、ウクライナ支援、移民政策などに反対している。緊縮的な財政運営を放棄すれば、EUの制裁発動や格下げ、国債利回りの急騰や通貨レフの暴落に見舞われる恐れがある。


内閣不信任案が可決した場合も、総選挙が前倒しされるかどうかは定かでない。議会の解散手順は憲法89条に定められており、①現職の首相が辞任または内閣不信任案の可決で総辞職した場合、大統領が新たな首相候補を指名する、②大統領が指名した首相候補を議会が2回連続で否決し、最初の首相候補の否決から60日以内に政権が樹立できない場合、解散の形式的な条件が整う、③その場合、大統領は両院の議長および各党の代表者と協議したうえで、議会を解散するかどうかを決断する。形式的な条件を満たしたうえで、最終的な議会を解散するかの決断は親EU派のダン大統領が握っており、前倒し選挙のハードルは高い。ただ、大統領も民主的なプロセスを軽視することはできず、EUに懐疑的な政権が誕生する可能性があることを理由に解散を拒否すれば、かえって極右政党の支持を高めることにもつながりかねない。
現在の議会構成を考えれば、PSDの協力なしに政権を発足することは難しい。①このまま議会選挙が前倒しされ、極右が主導する政権が誕生するか、②早期解散を回避し、PSDが主導する新たな連立政権が誕生するか、③非多数派政権や短命政権が続くか、④政治混乱を回避するため、非政治家によるテクノクラート政権(2015~17年のチョロシュ政権の前例がある)が誕生するか、今後の政局展開に注目が集まる。
以 上
田中 理
