台湾の漁船は数十年前から中国大陸の沿岸海域を航行するのが一般的だったと漁師のチェン・ジーロンさんは言う。だが、中国が違反行為があったとし17年ぶりに台湾の漁船を拿捕(だほ)し、その乗組員を拘束したことで、全てが変わった。

  中国の海上法執行機関、海警局は今、台湾海峡の中間線東側で「常時」巡視活動をしていると話すチェンさんによれば、「近い将来、漁船は金門(Kinmen)や中国沿岸に多分近づかなくなる。誰もが拘束されることを心配している」。

Taiwan closely monitors China's 'law enforcement' drill in east of Taiwan

中国人民解放軍が演習を実施する中で中国の船舶を監視する台湾軍(5月23日)

Source: Taiwan’s Military News Agency/Anadolu/Getty Images

  台湾の漁師たちに広がる恐怖は、中国が台湾に圧力をかけるため、新たな戦術に転じていることを示唆している。米政府は軍事的および経済的、政治的に民主主義の台湾を支援しているが、台湾の離島に関する態度は曖昧だ。

  米国は中国の侵略から台湾を守るとバイデン米大統領は繰り返し述べているものの、台湾を構成する130以上の島々が危機にひんした場合、米国がどう対応するかは分からない。

  中国は自国領土の一部だと主張する台湾を巡り、台湾本島以外を標的とする新たな手法で攻勢を仕掛けようとしているようで、その中心的役割を担っているのが海警局だ。

  標的の多くは台湾本島から遠く離れている離島だ。そのため、台湾にとっては物資の供給継続やインターネットのようなサービス提供の維持といった点で課題が残る。

金門島

  中国側の変化は、1月の台湾総統選を制した頼清徳氏が5月に新政権を発足させたタイミングと重なる。

  中国は頼氏の総統就任直後に台湾本島周辺で大規模な軍事演習を行い、台湾と外交関係があった太平洋の島国ナウルと国交を結び、「台湾独立派」を罰することを目的とした法律を強化した。

中国、「台湾独立派」に対し死刑含む処罰指針-頼政権に一段と圧力

  中国海警局は7月に入り中国本土から3キロ圏内にある金門島の周辺海域で、台湾の漁船を拿捕。乗り組んでいた台湾人2人とインドネシア人3人は漁船と共に中国に連れて行かれ、中国当局は夏の禁漁期違反だったため必要な措置だと主張した。金門島は台湾が実効支配している。

  海警局は2月には金門島付近の海域を航行していた台湾の観光船を制止し、臨検を実施。同月先に台湾当局による違法操業の取り締まり中に中国籍の漁船1隻が転覆し2人が死亡しており、中台の対立が一段とエスカレートした。

  中国はまた、海警局の船舶を何度も金門島に接近させている。中国人民解放軍が頼政権発足直後に大規模な演習を実施している間、海警局は別の島付近で訓練を実施した。

  台北にある中央研究院法律学研究所の助研究員、陳玉潔氏は「台湾への圧力を強めるため、中国は台湾の離島を一段と狙うようになっている。今月初めの漁船拿捕のような事件は、個別の事例ではない」と指摘し、「法律戦という広い文脈」で見なければならないと述べた。法律戦とは中国が台湾を弱体化させるために用いる戦術の一つだ。

  中国国防省はコメントの要請に応じなかった。海警局は連絡先を公開していない。

  台湾の海洋委員会海巡署(海上保安庁に相当)報道官は中国の活動について質問された際、「今年から台湾離島の海域に30回以上、嫌がらせ目的で意図的に侵入している」と答え、台湾は状況を注視し、漁民の安全を確保すると述べた。

  新たな緊張の段階に直結する重要な日付は2月14日だ。台湾海巡署が、違法操業を取り締まり中に逃走した中国船を追跡したと発表した日で、追跡されていた中国船は転覆。乗っていた4人のうち2人の漁師は救助されたが、他の2人は死亡した。

  台湾はこの事件に遺憾の意を表明したが、海巡署の行動は合法で適切だったと説明。中国は死亡事故について台湾を非難し、その直後、海警局が金門島周辺で法執行検査を実施すると発表した。

  台湾海巡署は2月、金門島周辺の「制限水域」を航行する中国船の増加を指摘し始めた。台湾は1992年にこの海域の禁止・制限水域を設けたが、その後数十年間、中国船が立ち入ることはほとんどなかった。

  台湾側によると、2月に金門島周辺の「制限水域」に5回の侵入があり、3月と4月にも同じ程度の侵入があった。そして頼政権が始動した5月、その数は12件に急増した。

連動

  中国人民解放軍は5月23日、台湾周辺で過去1年で最も大規模な演習を行い、中国が頼政権を敵視していることをあらためて示した。

  この演習は、蔡英文政権時代にペロシ米下院議長(当時)が台湾を訪問した後の2022年8月に人民解放軍が行った演習とは、ある重要な点で異なっていた。

  海警局が初めて、大規模な軍事演習中に台湾の離島である烏丘嶼(Wuqiu)と東引島(Dongyin)の「制限水域」に入ったのだ。

  その直後、中国国営の中央テレビ(CCTV)はソーシャルメディアを通じ、烏丘嶼と東引島への接近は新たな「金門モデル」拡大の兆候だと報じた。金門モデルとはつまり、巡視活動の常態化だ。

  また、人民解放軍と海警局は軍事演習中にそれぞれの行動を調整したとも伝えた。

relates to 中国、台湾離島で米国試す-海峡で常時監視の新たな戦術

台湾海巡署の船舶(金門島、5月24日)

Photographer: I-Hwa Cheng/AFP/Getty Images

  台湾の離島周辺での中国の新たな活動は、フィリピンに対する中国の一段と攻撃的なアプローチを連想させる。

  フィリピンと中国は南シナ海で領有権を巡り対立。フィリピン軍によれば、海警局の船舶が南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島付近でフィリピン海軍の補給船と6月に衝突した際、海警局の職員が銃器を「略奪」するとともに、作業ボートを破壊した。親指切断の重傷を負ったフィリピン兵士も1人いた。

  両国は最近、緊張を和らげようと「暫定的」な取り決めに合意したが、具体的な内容については意見が対立しているようだ。

  台湾国家安全局の蔡明彦局長は、中国が政治的な動機で漁船を停船させた可能性があると述べ、台湾の漁民に警戒するよう促した。

  台北にある東呉大学の陳方隅助教(政治学)は、中国による台湾漁船の拿捕で米国が試されている可能性もあると分析。

  中台の非公式な境界線である中間線の海域に関する以前の理解はもはや存在しないとの考えを示し、「台湾の反応を探るため、中国が漁船や観光船に嫌がらせをすることはますます増える」と予想した。

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原題:China Squeezes Taiwan by Targeting Islands and Fishing Sites (抜粋)

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