欧州投資家からの疑問 「人口が減る国になぜ投資するのか」に答える 野村證券・岡崎康平のイメージ

撮影/タナカヨシトモ(人物)

野村證券チーフ・マーケット・エコノミストの岡崎康平は2026年4月下旬、海外投資家に日本株の魅力を伝える日本株キャラバンの一環として、欧州に拠点を持つ30社前後の機関投資家を訪問しました。席上、「人口が減る国になぜ投資できるのか」など、さまざまな質問を受けました。海外の機関投資家は具体的に日本株のどういった点に注目し、評価しているのでしょうか。詳しく解説します。

欧州投資家からの疑問 「人口が減る国になぜ投資するのか」に答える 野村證券・岡崎康平のイメージ

なぜ人口減少が続く国に投資できるのか

4月下旬に訪問した機関投資家の多くは日本株のパフォーマンスを高く評価しており、日本株への配分比率を「アンダーウェート」から引き上げようとする意欲も見て取れました。しかし、彼らは年金基金などさまざまなアセット・オーナー(資金の出し手)を抱え、受託者として説明責任を果たす必要があります。そのため、長期的な視点で日本株を投資し続けるに当たり「不安要素をなくしたい」という思いがあるのか、さまざまな声が寄せられました。最も印象的だったのが「日本は人口減少が続いている。人口減少が続く国になぜ投資できるのか」という質問でした。

資産運用立国に向けた一連の施策など、日本経済・日本株市場には様々な追い風があります。日本経済のインフレ転換も、幅広い投資家が理解を示すようになりました。しかし、長い目で投資先を評価する投資家は、やはり人口動態のような長期トレンド指標に目が向くのでしょう。実際、今回訪問した機関投資家の多くは、人口が増え、若年層の消費が拡大するなどして長期的な経済成長が見込める新興国市場(台湾や韓国を含む点に注意)やフロンティア市場(新興国市場よりも経済規模が小さい市場)を「オーバーウェート」にしている様子でした。

人口減少に関する質問に対し、私は、需要側の変化として(1)人手不足を背景とした賃上げで一人当たりの賃金が増加するため、高級品志向が進むことで経済が拡大すること、供給側の変化として(2)AIを通じた業務効率化や人的資本の蓄積が進むことで生産性が上がること、資産面の変化として(3)相続税収が年々増加していることに反映されるように、上の世代から現役世代が引き継ぐ資産も増加していること、などを挙げました。

確かに人口減少は経済成長にとって逆風です。しかし、需要・供給・資産のそれぞれの面をよく見てみると、経済成長にプラスになる要素も存在するのです。人口減少という構造的な要因を上手く生かすことができれば、人口減少下でも経済成長を維持・加速することは可能でしょう。

欧州投資家は防衛政策に関心

高市早苗政権についての質問も多く受けました。欧州投資家の間でも、高市政権の認知度は高いです。女性初の首相であることに加え、内閣支持率が高水準を維持している点が政治の安定性として評価されていると言えます。

高市政権の政策の中でも、防衛政策への関心が高い印象でした。訪問期間中に防衛装備移転「5類型」撤廃が閣議決定されたことも背景の一つですが、欧州株式市場で防衛株が高リターンを実現してきたことも手伝ったのでしょう。次期「戦略3文書」(次期防衛予算を規定する文書)での予算規模や、「5類型」撤廃に伴う装備品の販売先、(装備品の海外移転を念頭にした)日本の防衛産業の強みなどが議論になりました。

特に強みに関しては、4月18日に豪州汎用フリゲートに係る契約が行われたことを踏まえ、日本の省力化技術が評価された点などを紹介しました。「欧州でも防衛政策が強化されているが、日本企業が参入する余地はあるか」との質問もありましたが、30ヶ国のNATO(北大西洋条約機構)駐在大使が4月に日本を訪問したことを例示しつつ、日欧の防衛協力が進むだろうと回答しました。

なお、北欧諸国では「人を直接傷つける兵器の会社には投資しない」というスタンスの投資家が複数見られました。ESG(環境・社会・ガバナンス)の観点で投資を避けるのみならず、自身のファンドの哲学としてそうした方針を自主的に持つ向きもあるようです。ただ、グローバルに防衛能力は多様化しており、衛星など直接的な殺傷能力のない関連技術も存在しています。ESGや投資哲学の観点からは、こうした防衛装備の周辺分野が注目される可能性があります。

高市首相が重点投資対象と位置付ける「戦略17分野」では、「政府がどの分野を優先しているか教えてほしい」との要望が複数ありました。分野が広いこともあり、投資家としては焦点を絞りたいのでしょう。

私からは、各分野の優先順位は示されていない点を述べつつ、ほぼすべての政府文書において最初に「AI・半導体」が示されてきた点を伝えました。AI・半導体分野への政府支援はまだ全貌が見えていませんが、AIロボティクスが目玉であろうこと、供給側・需要側の両面で支援が行われる見込みであることを伝えました。「日本はAIについてどのような強みがあるのか」との質問も出たため、政府が説明する「勝ち筋」を紹介しました。

経済・金利・為替の「変身」プロセスは続く

金融政策への注目度も高い印象でした。今回訪問したほぼすべての投資家と日銀の金融政策について議論しました。政策金利水準が高まってきたこと、2026年1月に超長期金利が大きく上昇したことなどを踏まえ、金利の「落ち着きどころ」が関心事でした。日本の金利の落ち着きどころは、日米金利差の行方に影響しますし、ひいてはそれが外国為替相場にも含意を持ちます。やや中長期的な視点で日本への投資を考える投資家にとって、外国為替相場の変動が株式投資のリターンに与える影響は無視できません。目先の金利・為替動向のみならず、政策金利が中立水準に「到達した後」の政策運営と為替相場への含意を問題意識に持つ投資家が多かったように思われます。

この論点は、「日本国債の金利はどこまで上がるのか」「金利上昇で企業業績や倒産件数はどれだけ影響されるか」との質問とも深く関係しています。デフレ均衡からの正常化が進むなかで、まだ日本経済の新たな落ち着きどころ(どのくらいの金利上昇ならば日本経済が耐えられるのか)を探り切れていない、と言い換えても良いでしょう。日々の暮らしへの影響という観点のみならず、海外投資家による成長投資の促進という観点でも金利や為替レートの安定がいかに重要か、改めて意識させられる投資家訪問になりました。経済・金利・為替レートの落ち着きどころを探る「変身」のプロセスは、まだしばらく続きそうです。

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野村證券 市場戦略リサーチ部 チーフ・マーケット・エコノミスト
岡崎 康平
2009年に野村證券入社。シカゴ大学ハリス公共政策大学院に留学し、Master of Public Policyの学位を取得(2016年)。日本経済担当エコノミスト、内閣府出向、日本経済調査グループ・グループリーダーなどを経て、2024年8月から、市場戦略リサーチ部マクロ・ストラテジーグループにて、チーフ・マーケット・エコノミスト(現職)を務める。日本株投資への含意を念頭に置きながら、日本経済・世界経済の分析を幅広く担当。共著書に『EBPM エビデンスに基づく政策形成の導入と実践』(日本経済新聞社)がある。

※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

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