将棋界の最高位を争う第37期竜王戦七番勝負(読売新聞社主催、特別協賛・野村ホールディングス)が福井県内で初めて、あわら市のあわら温泉で開催される。10月19、20日の第2局で、会場となる旅館「美松」が2年かけて誘致した。藤井聡太竜王(21)(名人、王位、叡王、王座、棋王、王将、棋聖)の4連覇に全国から注目が集まるだけに、あわら対局の実現に向け協力したあわら市や県、将棋関係者からも喜びの声が上がる。(荒田憲助)竜王戦を誘致した前田健吾さん(左)と健二さん(福井県あわら市で)竜王戦を誘致した前田健吾さん(左)と健二さん(福井県あわら市で)あわら温泉の中心部にある足湯施設「芦湯」(福井県あわら市で)あわら温泉の中心部にある足湯施設「芦湯」(福井県あわら市で) 美松が誘致を始めたきっかけは、コロナ禍で休館中の2020年4月、取締役で営業総括部長の前田健吾さん(34)が偶然目にした将棋タイトル戦のインターネット中継だった。

 画面には視聴者が投稿した応援コメントが次々と表示され、大いに盛り上がっている。当時は将棋のルールがわかる程度で、ネット中継を見るのは初めてだったが、これだけの人々を引きつける力があることに驚き、魅了された。会場が美松と同じ温泉旅館だったことも、強く印象に残った。 「これなら、うちでもできるのではないか。観光客が激減したあわら温泉や県内を元気づけたい」 健吾さんはまず将棋について詳しく学んでから、22年1月に日本将棋連盟に連絡。タイトル戦の会場がどのように選ばれるか問い合わせ、竜王戦の開催地が公募されていると知った。社長で父親の健二さん(62)も「仮にうまくいかなかったとしても、挑戦することに意義がある」と賛同し同年春、竜王戦事務局に応募した。 対局室には、スイートルームにあたる別邸「美悠」の1室を使おうと考えていた。だが、部屋の広さや間取りが条件に合わないことが判明し、候補から外れた。 すると、健二さんは「竜王戦で全国から注目されれば、福井の魅力に気付いてもらえる。地域貢献だと思って腹をくくろう」と決意。本館の宴会場3室のうち、比較的使用頻度が低い2階の1室を対局室に造り替えることにした。改装費は約2000万円を見込む。 こうした親子の熱意は、行政をも動かした。 24年3月に北陸新幹線の芦原温泉駅開業と、あわら市制20周年が重なることから、市は竜王戦を「冠事業」に位置づけて事務局業務を引き受け、前夜祭や大盤解説会などの関連イベントを企画。県も新幹線の県内延伸を機に観光振興を図るため、誘致の関連経費として3900万円を24年度当初予算で確保した。 あわら対局の実現を受け、「前夜祭や大盤解説会で将棋ファンが集まる。ワクワクして10月を迎えてもらいたい」と健二さん。健吾さんは「県民のみなさんに『竜王戦が来てよかった』と思ってもらえるよう、責任を持っておもてなしの準備を整えたい」と意気込む。◇ 竜王戦あわら対局に合わせ、10月18日に同市の旅館「グランディア芳泉」で前夜祭、20日には「清風荘」で大盤解説会がそれぞれ開催される。詳細は後日発表予定。問い合わせは市観光振興課(0776・73・8006)。宴会場改装静けさ追求  美松は1969年に創業した。約6000平方メートルの敷地には、82年築の5階建ての本館(延べ床面積約9200平方メートル)や、対局者が宿泊する予定の別邸「美悠」(同約810平方メートル)が並び、自家源泉から湯を引いた二つの大浴場や全69室の客室を備える。 対局室となる宴会場の改装工事は、6月上旬に着工する。広さは約30畳で、日本将棋連盟などの助言を取り入れて作った計画では、盤面を真上から撮影するため、カメラを天井に取り付けられる構造を採用。対局者双方の表情などを捉えるカメラや関連の機材を置くため、広めの造りにする。長考を妨げないように音を抑えた空調設備に交換し、静けさを追求する。 7月中旬頃の完成を目指しており、健吾さんは「北陸で最も将棋対局に適した環境を用意したい」と語る。竜王戦後は貴賓室として利用するほか、子どもやアマチュアの将棋大会の決勝戦に提供することも検討する。賞金将棋界最高4400万円 八大タイトルでも別格  竜王戦は、前身の「十段戦」を発展的に解消し、1987年に創設されたタイトル戦。全棋士が参加するトーナメントを制した挑戦者が竜王と七番勝負を戦い、先に4勝した方が栄冠に輝く。優勝賞金は将棋界で最高額の4400万円で、八大タイトルの中でも別格だ。竜王3連覇を果たし、記者会見で撮影に応じる藤井聡太竜王(2023年11月11日、北海道小樽市で)竜王3連覇を果たし、記者会見で撮影に応じる藤井聡太竜王(2023年11月11日、北海道小樽市で) 実力があれば若手棋士にも竜王獲得のチャンスがあり、「竜王戦ドリーム」とも評される。史上最多となる通算99期のタイトル獲得を誇る羽生善治九段(53)が、19歳だった89年につかんだ初タイトルも竜王だった。 昨年は、同4月まで五段だった伊藤匠七段(21)が勝ち進んで藤井竜王に挑戦。タイトル戦史上最年少の同学年対決が実現し、話題となった。

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