兵庫県西宮市に本社を置くセレンディクス株式会社(以下、セレンディクス)は、大分県内の水力発電所において、建設用3Dプリンターを活用した詰所を建設した。発電所施設の建屋に建設用3Dプリンターによる構造物を採用した事例は、同社によると世界初となる。今回の実績をもとに、住宅分野に加えて公共インフラや産業施設などへの事業展開を進める方針だ。

屋根まで3Dプリンターで製作した約20平方メートルの詰所

今回建設されたのは、水力発電所で設備管理を行う作業員向けの詰所である。延床面積は約20平方メートルで、休憩スペース、倉庫、トイレを備える平屋建ての鉄筋コンクリート造となっている。

建物の構造設計は株式会社KAPが担当し、セレンディクスは3Dプリンターによる部材製作から輸送、現地施工までを受け持った。ただし、内装工事は同社の担当範囲に含まれていない。

この建物の特徴は、外壁だけでなく屋根部分にも3Dプリンターで製作した部材を使用している点にある。

建設にあたっては、建屋を十数個の部材に分割して製作し、現地で組み立てる方法を採用した。各部材は熊本県水俣市にある協力工場で出力され、完成後に大分県の建設現場へ運び込まれた。

あらかじめ工場で部材を製作することで、現地で必要となる作業を減らし、人員の削減と工期の短縮につなげている。また、3Dプリンターによる造形では型枠を必要としないため、従来のコンクリート施工では製作が難しい曲面形状や複雑なデザインにも対応しやすい。

建設時の様子(出典:セレンディクス)建設時の様子(出典:セレンディクス)

山間部のインフラ施設が抱える建設課題に対応

水力発電所などの電力関連施設は、山間部や人口の少ない地域に設置されていることも多い。こうした場所では、建設資材の輸送や作業員の確保が難しく、建設コストや施工期間の増加につながりやすい。

さらに、建設業界全体で人手不足や資材価格の上昇が続くなか、限られた人員で効率的に工事を進めることが求められている。発電事業者にとっては、脱炭素化や環境負荷の低減も重要な課題となっている。

セレンディクスが採用する工場製作と現地組立を組み合わせた施工方法は、こうした課題への対応を想定したものだ。

建設現場での作業工程を減らすことで、省人化と施工期間の短縮を図るとともに、建設工程全体の効率化による環境負荷の低減も目指している。

今回の水力発電所における詰所建設は、こうした3Dプリンター工法が実際のインフラ施設に適用できることを検証する取り組みとして位置づけられている。

建設用3Dプリンターをロボット施工技術として展開

セレンディクスは、建設用3Dプリンターの用途を住宅建設だけに限定していない。

同社の共同創業者兼CTOである飯田國大氏は、建設用3Dプリンターを建設現場の自動化を実現するロボティクスの基盤技術として捉えている。

その構想では、3Dプリンターによる造形技術に加え、ロボット制御、材料供給、設計情報、施工データなどを組み合わせる。これにより、従来は熟練作業員の経験や技術に依存していた建設工程を、一定の品質で繰り返し実行できるロボット施工へ移行させる考えだ。

また、同社はコンクリート構造物の従来工法を代替する技術として、建設用3Dプリンターの活用領域を広げようとしている。

対象として挙げているのは、3Dプリンター住宅、公共インフラ、商業施設、橋梁、災害対応施設、防衛用途の防爆シェルターという6つの分野である。

今回の水力発電所の詰所は、このうち公共インフラ分野における具体的な施工実績となった。

老朽化する社会インフラの更新需要を視野に

日本では高度経済成長期に整備された建築物や社会インフラの老朽化が進んでいる。建設から50年以上が経過した施設も多く、今後は更新や建て替えの需要が一段と増えると見込まれる。

一方で、こうした工事を担う建設業界では人材不足が課題となっており、従来の施工方法だけでは増加する更新需要への対応が難しくなる可能性がある。

セレンディクスは、建設用3Dプリンターとロボット技術を組み合わせることで、施工に必要な人員の削減、工期短縮、品質の安定化、環境負荷の低減を同時に実現することを目指している。

今後は今回の発電所施設での施工経験を生かし、発電所や鉄道施設、公共施設、商業施設、橋梁などへの導入を進める。また、災害対応や防衛関連施設も対象に含め、企業や公共分野を顧客とするBtoB事業を本格的に拡大する計画だ。

住宅から駅舎、海外復興支援へと広がる施工実績

セレンディクスは、日本初の3Dプリンター住宅メーカーとして、住宅分野を中心に建設用3Dプリンターの実用化を進めてきた。

2022年3月には、日本初となる3Dプリンター住宅「serendix10」を23時間で完成させた。

その後、住宅の大型化や実用化を進め、2024年9月には2人世帯向け住宅「serendix50」の販売第1号棟を石川県珠洲市に建設した。この建物は、能登半島地震からの復興を見据えた住宅モデルとして位置づけられている。

2025年には技術開発を中心とした段階から販売拡大へと軸足を移し、全国各地で建築実績を積み重ねている。

住宅以外の分野でも事業を進めており、2024年5月にはJR西日本グループと資本業務提携を締結した。これにより、駅舎などの建設プロジェクトにも取り組んでいる。

海外では、ウクライナの復興住宅として「serendix70」を活用する計画を進めており、国際連合工業開発機関(UNIDO)の支援を受けている。

住宅建設で培った3Dプリンター施工技術を社会インフラ分野へと展開する同社にとって、今回の水力発電所における詰所建設は、事業領域をさらに広げるための実績の一つとなる。

屋根部分の施工(出典:セレンディクス)屋根部分の施工(出典:セレンディクス)

室内(出典:セレンディクス)室内(出典:セレンディクス)

製造時の様子(出典:セレンディクス)製造時の様子(出典:セレンディクス)

輸送(出典:セレンディクス)輸送(出典:セレンディクス)

シェアラボ編集部コメント

今回の事例で注目したいのは、3Dプリンターを住宅建設だけでなく、発電所という産業インフラの施設に活用した点だ。特に、壁だけでなく屋根も造形し、工場で製作した部材を現地で組み立てる方式は、作業員や資材の確保が難しい山間部での建設に適している可能性がある。

一方、実際の施工日数や従来工法とのコスト比較、環境負荷の削減効果については具体的な数値が示されていない。今後、こうしたデータが蓄積されれば、建設用3Dプリンターの導入効果をより客観的に評価できるだろう。国内の社会インフラ更新需要を背景に、住宅以外の用途でどこまで実績を広げられるか注目したい。

用語解説

建設用3Dプリンター

建築物や土木構造物の部材を、材料を積層することで製作する装置。モルタルなどの材料をノズルから押し出して造形する方式が代表的で、型枠の削減や複雑な形状の製作、施工の省人化などが期待されている。

プレキャスト工法

建築物や構造物に使用するコンクリート部材を、あらかじめ工場などで製作し、建設現場に運んで組み立てる施工方法。現場での作業量を減らし、品質の安定化や工期短縮につなげられる。今回のように3Dプリンターで部材を製作する方法にも共通する考え方である。

建設ロボティクス

ロボット技術や自動制御技術を建設工程に導入し、施工の自動化や省人化を図る技術分野。建設用3Dプリンターのほか、自動施工ロボットや資材搬送ロボットなどが含まれる。人手不足への対応や施工品質の安定化を目的として開発が進められている。

鉄筋コンクリート造(RC造)

コンクリートと鉄筋を組み合わせた建築構造。圧縮力に強いコンクリートと、引張力に強い鉄筋の特性を生かし、建物の強度や耐久性を確保する。住宅や公共施設、インフラ構造物などに広く採用されている。

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