ドイツ政府は今年3月、野心的な計画を打ち出した。2030年までに国内のデータセンターの規模を倍増させ、人工知能(AI)モデルに使える計算能力を4倍に引き上げるというものだ。狙いは、欧州全体で懸念されているAI分野での米国依存を減らし、低迷する国内経済を活性化させることにある。

しかし、ドイツではAI産業の振興と気候変動対策の目標が衝突している。欧州連合(EU)加盟国は、2030年までに温室効果ガスの排出量を(1990年比で少なくとも)55%削減することを約束している。だが、その目標の達成を目指す政策が、データセンターの建設ラッシュを促そうとする取り組みの足かせになっているのだ。

より広範な気候変動対策の一環として、ドイツの前政権(2021〜25年)は23年9月にエネルギー効率法を成立させた。この法律は、新設されるすべてのデータセンターに対し、コンピューター機器から発生する排熱の一部を再利用し、できれば近隣の地域熱供給網に回すことなどを義務づけている。

排熱の再利用を義務づけるのは当然の措置に思えたと、当時ドイツ連邦経済・気候保護省の高官を務めていたパトリック・グライヒェンは語る。グライヒェンは23年5月、縁故主義を巡る疑惑を受けて退任している。「わたしたちにはクリーンな熱が必要です。そして、データセンターはクリーンな熱の供給源になります」とグライヒェンは『WIRED』に話す。

ところが、規制の施行を目前に控えた6月、ドイツ連邦政府は規制を緩和する改正案を閣議決定した。データセンター事業者からは、要件を満たしながら国内に施設を建設するのはほぼ不可能だとの不満が上がっていた。ドイツ・データセンター協会は当初の法案を「データセンター阻止法」と呼んでいたほどだ。

9月にドイツ連邦議会に提出されたエネルギー効率法の改正法案では、近隣に適切な熱供給網がある場合に限って、データセンター事業者に排熱の再利用を義務づける。

グライヒェンらは、AIの波に乗ろうとするあまり、ドイツ政府が気候変動対策の目標を犠牲にしたと批判している。しかし、欧州各国も同じジレンマに直面している。エネルギーを大量に消費するAI産業の急成長を取り込み、米国への依存を抑えたい。一方で、気候も守らなければならない。

ドイツ連邦経済・エネルギー省は、コメントの要請に応じなかった。

排熱の再利用義務にデータセンター業界が反発

データセンター開発事業者が当初のエネルギー効率法に強く反発した最大の理由は、自社では対応しきれない義務を課される恐れがあったことだ。地域熱供給網であれ、温室栽培のような産業であれ、排熱の引き取り手が見つからなくても、その再利用を義務づけられる可能性があった。

「事業者に課された要件のなかには、自分たちではどうにもできないものもありました」と、コンサルティング会社Cundallで重要設備を担当するアソシエイトディレクターのバーバラ・スミッテンは話す。「(負担が)すべてデータセンター側に押しつけられているように感じられたのです」

過去18カ月の間に、ドイツでは複数のデータセンター建設計画が頓挫している。Stack Infrastructureはヘッセン州で計画していた30億ユーロ(約5,280億円)規模の施設の建設を中止した。公営ITサービス事業者のKomm.ONEが参画していたバーデン=ヴュルテンベルク州でのデータセンター建設計画も中止され、見直しに入った。

データセンターの開発計画が頓挫する正確な理由が明らかになることはほとんどないが、共同事業者のBITBWは、エネルギー効率法が定める電力使用効率の基準を満たすことが困難だったと明確に指摘している。

Share.