
愛媛県の宿泊市場は、2025年の延べ宿泊者数が434万人泊(前年比−0.7%)と横ばいの中で外国人が58.0万人泊(+28.3%)へ伸び、客室稼働率は56.9%(+1.7pt)まで戻した(観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年速報値・四国運輸局集計)。その需要の上に、2026年は松山市に3軒684室が加わった。本稿は市町別の推定成約ADR、業態別の推定稼働、シルバーウィーク9月20日泊の完売状況、松山市駅1km圏の客室ストック推移、国土交通省の用途地域・洪水浸水想定を重ね、愛媛で開発余地が残る価格帯と立地を特定する。
本記事のデータについて
• ADR(平均客室単価)=各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。
• エリア(都道府県・市区町村)単位のADRは、対象施設の推定成約単価の中央値(エリアの標準的な施設の水準)です。
• 掲載価格に言及する箇所は、2名1室利用時の1室あたり料金(税込)です。
• OCC(稼働率)=エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。
• 出典:メトロエンジンリサーチ(国内約168,000施設のOTA公開価格を継続追跡、うち稼働確認済み約27,000施設)
本稿の推定OCC・ブッキングカーブの対象は「愛媛県 対象141施設/客室7,986室(主要予約サイト掲載ベース・2026年9月)」であり、業態別は本文の各所に併記する。OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なります。リードタイム(LT)はチェックイン日までの日数で、カーブはLT45〜LT1の観測のみを用いる。本記事の客室ストックは、松山市駅から半径1,000m圏内にある客室数10室以上の宿泊施設(レジャーホテルを除く)を対象とし、「稼働中」は直近3か月(2026年8月〜2026年10月)に主要予約サイトで販売価格が確認できた施設を指す(2026年10月28日時点、メトロエンジンリサーチ集計)。
松山市 推定成約ADR
¥10,122
2026年9月・前年同月比+3.1%・N=90
今治市 推定成約ADR
¥6,899
2026年9月・−0.2%・N=32
県 推定OCC(9月)
82.8%
旅館91.3%/シティ85.6%/ビジネス79.7%
松山 2026年開業
684室
3軒・うち純増439室(2軒)
松山市駅1km圏 稼働客室
4,904
34軒・ストック推移は2017年比+20.5%
結論を先に述べる。愛媛の価格階層は松山市(推定成約ADR約10,100円)を頂点に、大洲・今治(6,900〜7,400円)、東予・南予の各市(5,200〜6,300円)の3層で構成される。推定稼働は旅館が9割超、ビジネスホテルが8割弱と業態差が大きく、9月20日泊では掲載在庫で判定できた211施設のうち条件を満たす85施設がすべて完売し、35施設は宿泊日の45日以上前から完売していた。推定成約ADR15,000〜25,000円帯は観測施設6軒・321室と薄く、その4軒が45日以上前に完売しており、この帯が県内で最も供給の薄い価格帯になる。一方で松山中心部の新築は建設費の水準から成約ADR3万円前後が採算ラインとなり、新築で空白を埋めるより既存建物の承継・改装が合理的という構図が浮かぶ。
Key Takeaways
— 松山市の推定成約ADRは10,122円(2026年9月・前年同月比+3.1%・N=90)。大洲・今治が6,900〜7,400円、東予・南予の各市が5,200〜6,300円で、県内は3層の価格階層になる。
— 業態別の推定稼働は旅館91.3%・ビジネスホテル79.7%(2026年9月・愛媛県141施設)。9月20日泊は条件を満たす85施設がすべて完売し、35施設は45日以上前に完売していた。
— 推定成約ADR15,000〜25,000円帯は6施設・321室と県内で最も薄く、うち4軒が45日以上前に完売。立地は道後と松山中心部に限られる。
— 松山の2026年開業684室のうち純増は2軒439室。日和ホテル松山245室は旧松山東急REIホテルの承継・改装で、松山市駅1km圏のストックは2017年比+20.5%。
— 新築アッパーミドル60室は成約ADR20,000円でGOP利回り4.0%、6%には30,000円が要る(簡易試算)。空白帯への現実的な入口は既存建物の承継・改装になる。
県全体 — 2025年は外国人+28.3%、推定成約ADRは2026年9月に前年比+4.5%
まずは県全体の水準を押さえる。メトロエンジンリサーチの推定成約ADRは2026年9月で7,100円(N=210)と、前年同月の6,800円から+4.5%だった。年間の形は1月と5月、8月、11月に山を持ち、6月が谷になる。業態別では旅館が10,600円(N=77、前年同月比+11.4%)、シティホテルが7,700円(N=23、−1.8%)、ビジネスホテルが6,100円(N=101、+3.5%)で、単価の伸びは旅館が牽引している。
背景にあるのは需要構成の変化である。観光庁「宿泊旅行統計調査」の2025年速報値(四国運輸局集計)では、愛媛県の延べ宿泊者数434.1万人泊のうち外国人は58.0万人泊で前年比+28.3%、日本人は376.1万人泊で−4.1%だった。客室稼働率は56.9%と前年から+1.7ptで、四国4県の平均54.9%を上回る。松山市の推計では2025年の観光客数は約636万人と2019年を超え、外国人の構成比は韓国56%・台湾22%が中心で、松山空港の国際線は2025年3月時点で週23便(ソウル14・釜山6・台北3)と過去最多に達した。旅館の単価上昇はこの外国人需要と道後温泉本館の全館営業再開(2024年7月)が重なった結果と読める。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(愛媛県・推定成約ADR・確定月のみ、各月N=204〜213)
市町別の価格階層 — 松山10,100円を頂点に、大洲・今治、東予・南予の3層
次に市町ごとの水準を並べる。2026年9月の推定成約ADRを対象施設4軒以上の市町で比較すると、松山市が10,100円(N=90、前年同月比+3.1%)で突出し、2番手の大洲市7,400円(N=8)、今治市6,900円(N=32、−0.2%)がこれに続く。宇和島市6,200円(N=8)、八幡浜市6,300円(N=5)、新居浜市6,000円(N=10)、西予市6,000円(N=4)、西条市5,800円(N=20、+7.5%)、伊予市5,600円(N=4)、四国中央市5,400円(N=12、+6.4%)、愛南町5,200円(N=4)は5,000〜6,300円の帯に収まる。東温市は15,900円と高いが対象4施設のうち高単価の宿が水準を押し上げており、参考値として扱う。
この3層構造は業態構成の違いでもある。松山市の内訳はビジネスホテル7,600円(N=36、+11.2%)、シティホテル9,300円(N=14、+1.0%)、旅館18,900円(N=36、+7.8%)で、道後の旅館群が市全体の中央値を押し上げる。今治市はビジネスホテル6,200円(N=12)、旅館9,200円(N=17、+12.8%)で、しまなみ海道の宿が伸びる一方、ビジネス帯は前年を下回る水準にあり、価格面の成長余地が残る。東予(新居浜・西条・四国中央)は製造業の出張需要が中心で、西条市・四国中央市は前年比+6〜8%と底堅い。道後・松山・しまなみという階層の骨格は7月時点の愛媛県ホテル投資マップ — 道後温泉・松山・しまなみ海道を推定成約ADRで階層分析でも確認しており、本稿はその上に2026年の供給と立地条件を重ねる。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年9月・推定成約ADR・推定成約ベース対象4施設以上の市町)
市町別の推定成約ADR(2026年9月・推定成約ベース対象4施設以上の市町)市町推定成約ADR(2026年9月)前年同月比対象施設数掲載価格(全プラン平均・税込)
東温市(参考値)¥15,887-8.0%N=4¥32,501
松山市¥10,122+3.1%N=90¥22,724
大洲市¥7,423+0.7%N=8¥17,976
今治市¥6,899-0.2%N=32¥22,337
八幡浜市¥6,254-5.9%N=5¥15,864
宇和島市¥6,200+3.4%N=8¥13,963
西予市¥6,023+8.7%N=4¥23,608
新居浜市¥6,021+0.3%N=10¥11,780
西条市¥5,801+7.5%N=20¥14,434
伊予市¥5,604+9.0%N=4¥17,526
四国中央市¥5,392+6.4%N=12¥13,219
愛南町¥5,162+11.3%N=4¥11,588
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(推定成約ADRは税抜相当の推定値、掲載価格は2名1室利用時の1室あたり料金・税込)
業態別の推定稼働とブッキングカーブ — 旅館は9割、ビジネスは8割弱で推移
価格の次は在庫の消化である。2026年9月の推定OCC(稼働率、OTA掲載在庫ベース・推定)は県全体で82.8%(対象141施設/客室7,986室)だった。業態別では旅館が91.3%(対象36施設/客室993室)、シティホテルが85.6%(10施設/1,304室)、ビジネスホテルが79.7%(50施設/5,232室)と、旅館とビジネスの差は11.6ptに達する。8月は全体85.0%(149施設/8,072室)、旅館93.6%、ビジネス82.0%で、2か月続けて旅館が先に埋まる構図になっている。日別に見ると9月19日(土)が98.3%、9月20日(日)・21日(月・祝)が100%と5連休の前半に集中し、連休明けの23日は71.1%へ戻る。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(愛媛県・2026年9月・推定OCC日別、対象施設数は業態ごとに本文併記)
ブッキングカーブの形も宿泊日で大きく違う。9月20日泊(対象183施設/客室8,724室)はLT45時点で推定稼働83.4%、LT30で93.7%、LT21で99.9%と、宿泊日の3週間前にはほぼ売り切れていた。平日の9月9日泊はLT45で53.5%から始まりLT14で73.0%、LT1で89.4%に達する。3連休初日の10月10日泊はLT45で81.6%、LT14で93.5%と、シルバーウィークほどではないが平日より20pt以上高い位置から始まる。連休の需要が宿泊日の45日以上前に形成されている点は、県内のレベニューマネジメントにとって早期の価格設定で単価を取りにいける機会といえる。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(愛媛県・全業態・LT45〜LT1、推定稼働率=OTA掲載在庫ベース)
推定成約ADR×早期完売のポジショニング — 15,000〜25,000円帯が最も薄い
ここからが本稿の中心である。9月20日泊について、OTA公開枠が総客室の30%以上ある施設に絞った在庫ランキングでは、掲載在庫データのある211施設のうち条件を満たす85施設が同日に完売し、そのうち35施設は宿泊日の45日以上前から完売していた(業態別ではビジネスホテル11・旅館9・ゲストハウス6・民宿3・シティホテル2ほか)。この85施設のうち推定成約ADRが算出できる検証済み業態66施設について、横軸に2026年9月の推定成約ADR、縦軸に早期完売LT(残室が初めて0になったリードタイム、45日以上は45で表示)、円の大きさに客室数を取ったのが下図である。施設名は示さず、エリア×業態の集計として読む。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(愛媛県・2026年9月20日泊・N=66施設、OTA公開枠が総客室の30%以上の施設のみ)
推定成約ADR帯別の施設数と早期完売(愛媛県・2026年9月20日泊)推定成約ADR帯(2026年9月)施設数客室数45日以上前から完売早期完売LT中央値
〜6,000円261,6708軒(31%)LT33
6,000〜8,000円181,7356軒(33%)LT33
8,000〜10,000円75292軒(29%)LT31
10,000〜15,000円91,1583軒(33%)LT31
15,000〜25,000円63214軒(67%)45日以上
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(N=66施設、早期完売LT=残室が初めて0室に到達したリードタイム)
表が示すのは、価格帯が上がるほど施設数が減り、早期完売の比率が上がる関係である。6,000円未満は26施設1,670室で45日以上前の完売が8軒(31%)、6,000〜8,000円は18施設1,735室で6軒(33%)にとどまるのに対し、15,000〜25,000円帯は6施設321室しかなく、そのうち4軒(67%)が45日以上前に完売した。25,000円以上で完売を観測した施設はゼロである。つまり愛媛では「1万5,000円を超える宿」が数の上でも客室の上でも薄く、しかも最も早く埋まる。業態別の中央値はビジネスホテル6,100円(47施設)、シティホテル9,400円(7施設)、旅館11,400円(11施設)で、旅館は中央値の早期完売LTが45日以上と群を抜く。
密集帯 — 〜8,000円
44施設3,405室。東予・南予のビジネスホテルと松山の宿泊特化型が集まる。連休でも完売は宿泊日の約1か月前で、差別化の軸は朝食・駐車場・大浴場といった機能面になる。
空白帯① — 15,000〜25,000円
6施設321室。道後の旅館と松山のアッパーミドル帯が該当し、4軒が45日以上前に完売。需要が供給を先に埋める帯で、既存施設の改装による単価引き上げが最も効く。
空白帯② — 25,000円超
完売観測ゼロ。道後の上位旅館と東温の高単価宿が散在するが、施設数が少なく市場として形成途上。小規模・高付加価値の宿泊特化型に機会が残る。
松山2026年の684室 — 純増は2軒439室、1km圏ストックは9年で+20.5%
供給側に目を移す。2026年に松山市で開業した30室以上のホテルは3軒684室で、メトロエンジンリサーチが把握する範囲では愛媛県内の2026年開業はこの3軒に集中する。ただし3軒を同じ「新規供給」として扱うと純増を過大に見積もる。各社の発表で確認すると、アパホテル〈松山市駅前〉(213室、7月28日開業)は四国初の新築アパホテルで、伊予鉄道・松山市駅から徒歩3分の新築11階建てである。ホテルルートイン松山北(226室、7月13日開業)は松山市東長戸の新築8階建てで、JR伊予和気駅から車で約7分と中心部の外側に立つ。日和ホテル松山(245室、4月16日開業)は1991年から34年間営業した松山東急REIホテル(一番町3-3-1)が2026年3月末で営業を終了したのを受け、同じ建物をサンフロンティアホテルマネジメントが承継して営業しながらフロア単位で改装する案件で、客室数は245室と変わらない。したがって純増は2軒439室、看板替えが1軒245室になる。
松山市の2026年開業ホテル3軒(684室)施設客室数開業日区分所在・立地推定成約ADR(9月)日和ホテル松山2452026年4月16日承継・改装(旧 松山東急REIホテル)一番町3-3-1・大街道電停徒歩1分¥11,038ホテルルートイン松山北2262026年7月13日新築(純増)東長戸4丁目・第2種住居地域¥10,826アパホテル〈松山市駅前〉2132026年7月28日新築(純増)松山市駅徒歩3分・商業地域¥8,909
出典:各社報道発表、メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(推定成約ADRは2026年9月・各施設の最安プラン水準×業態別係数による推定値)
3軒の初期実績は上々である。9月の推定成約ADRはアパホテル〈松山市駅前〉が8,900円、ホテルルートイン松山北が10,800円で、いずれも松山市ビジネスホテルの中央値7,600円を上回る。日和ホテル松山は開業月の8,500円から9月には11,000円へ上がり、シティホテル中央値9,300円を超えた。松山市のビジネスホテルADRが前年同月比+11.2%と2桁で伸びた月に、684室が市場に入っても単価が下がらなかった点は、現時点の需要が供給増を吸収していることを示す。
吸収力を客室ストックの推移で確かめる。松山市駅から半径1km圏の客室ストックは2017年の29軒4,086室から2026年の34軒4,924室へ+20.5%で、2020〜2022年(コンフォートホテル松山・レフ松山市駅・ホテルルートイン松山中央)と2026年(アパホテル〈松山市駅前〉)の2つの山がある。2026年10月時点の稼働中は34軒4,904室で、ビジネスホテルが20軒2,820室、シティホテルが9軒1,956室を占め、201室以上の大型が10軒2,519室と過半を担う。開業年代別では2000年代が9軒1,369室、2020年代が9軒1,256室で、1970〜80年代の11軒1,268室のうち稼働中は7軒994室にとどまる。半径2kmに広げると稼働45軒5,702室で、2017年比+16.3%になる(開業年が確認できない2軒70室は年次推移に含めない)。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年10月時点)(松山市駅・半径1km・客室10室以上・開業年が確認できる施設)
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成、国土交通省 不動産情報ライブラリ(用途地域)。円の大きさ=客室数、青=ビジネスホテル、紺=シティホテル、灰=その他、太枠=2026年開業。薄い青の面は商業地域・近隣商業地域
松山市駅1km圏の客室数上位10施設施設(松山市駅1km圏・客室数上位10)客室数業態開業年駅からの距離
ANAクラウンプラザホテル松山330シティホテル1979426m
ホテルNo.1松山315シティホテル2006655m
ダイワロイネットホテル松山307ビジネスホテル2016686m
チェックイン松山264シティホテル2001533m
日和ホテル松山245シティホテル2026762m
東横INN松山一番町216シティホテル2003865m
カンデオホテルズ 松山大街道215シティホテル2015590m
アパホテル〈松山市駅前〉213ビジネスホテル2026466m
レフ松山市駅 by ベッセルホテルズ208ビジネスホテル2021420m
ホテルルートイン松山中央-勝山通り-206ビジネスホテル2022998m
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年10月時点・稼働中の施設)
次の供給は今のところ見えていない。国土交通省「建築物動態統計調査」の確認申請ベースで愛媛県の計画中ホテルはゼロ件で(調査時点での確認申請ベース。今後の申請追加で件数は増加する見込み)、e-Stat「建築着工統計」の宿泊業用建築物は2019年の17棟・34,159㎡を直近の山として、2024年は5棟・13,073㎡にとどまる。2026年の3軒はこの2021〜2023年の着工(各12〜14棟)が形になったもので、2024年着工の少なさを踏まえると2027〜2028年の松山は供給が一服する公算が高い。建設費の高止まりは新築の採算ハードルを上げる一方、既存ストックの希少性を高めるアップサイド要因でもある。
出典:e-Stat「建築着工統計調査」(統計ID 0003114490・愛媛県・宿泊業用建築物)よりホテルバンク編集部作成
道後・しまなみ(今治)の上位帯 — 旅館の単価は+7.8%/+12.8%、ストックは横ばい
上位帯の中身を地域別に見る。道後温泉から半径1kmの客室ストックは稼働33軒1,572室で、旅館が24軒1,233室と8割を占める。年次推移は2022年以降1,873室で横ばいが続き、51〜100室の中規模施設が13軒990室と中核になる。松山市の旅館ADRは18,900円(N=36、+7.8%)で、2026年9月の推定OCC91.3%・8月93.6%と合わせると、道後は「供給が増えず単価と稼働が同時に上がる」局面にある。稼働33軒のうち11軒は1970年代以前の開業で、改装投資で15,000〜25,000円帯へ移る余地が大きい。
今治は様相が異なる。今治駅から半径1kmの稼働客室は12軒1,133室で、年次推移では2017年の868室から2026年の1,163室へ+34%と、JRクレメントイン今治(121室・2021年)としまなみプライムホテル今治(152室・2024年)の2軒が駅前の供給を押し上げた。今治市のビジネスホテルADRは6,200円(N=12)で前年同月を下回る水準にあり、駅前は供給増の消化局面と読める。一方、旅館は9,200円(N=17、+12.8%)と2桁の伸びで、しまなみ海道のサイクリング需要と島しょ部の小規模宿が単価を押し上げている。今治で投資機会があるとすれば、駅前の宿泊特化型よりも、しまなみ側の小規模・高単価帯である(駅前2km圏の供給推移と地価の動きは今治駅2km圏の客室は9年で929→1,524室 — 地価が下がる駅前、今治市ADRは7,233円で詳しく分析している)。
松山中心部の用途地域・浸水想定・地価 — 商業地域400〜600%、石手川の想定浸水0.5〜3m
立地条件を国土交通省 不動産情報ライブラリで確認する。松山市駅1km圏で稼働中の34軒を用途地域に当てると、30軒4,615室が商業地域(容積率400〜600%・建蔽率80%)、4軒289室が近隣商業地域(同300%)に立ち、住居系の用途地域に立つ施設はない。ホテルルートイン松山北の所在地(東長戸)は第2種住居地域(容積率200%)で、中心部とは異なる郊外型の立地である。洪水浸水想定区域(想定最大規模・石手川)を重ねると、34軒のうち31軒4,517室が浸水深0.5〜3.0m未満の区域に含まれ、区域外は松山城の北側に立つ3軒387室にとどまる。中心部の大半が1階浸水の想定区域に入るため、新築・改装のいずれでも電気設備の上階配置と地下階の用途は設計段階で織り込むべき条件になる。道後温泉駅周辺の地点は商業地域で、取得した範囲では洪水浸水想定区域の指定は確認されなかった。
松山市駅1km圏 稼働中34軒の用途地域・洪水浸水想定区分(松山市駅1km圏・稼働中34軒)施設数客室数備考商業地域(容積率400〜600%)304,615大街道・千舟町・一番町〜三番町近隣商業地域(容積率300%)4289松山城北側・湊町周辺洪水浸水想定 0.5〜3.0m未満(石手川)314,517想定最大規模浸水想定区域外3387松山城の北側
出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(用途地域・洪水浸水想定区域)、メトロエンジンリサーチよりホテルバンク編集部作成
地価は緩やかな上昇が続く。2026年の地価公示(1月1日時点)では大街道2丁目4-13が870,000円/㎡(前年比+1.2%)、千舟町4丁目2-2が382,000円/㎡(+1.6%)、三番町4丁目11-12が375,000円/㎡(+2.5%)、道後湯之町甲1570が363,000円/㎡(+4.6%)で、道後の伸びが中心部を上回る。2025年の都道府県地価調査(7月1日時点)でも一番町4丁目1-1が399,000円/㎡(+2.6%)、湊町3丁目5-17が432,000円/㎡(横ばい)と、松山市駅周辺は30万〜43万円/㎡の帯で安定している。ホテル用地としては地方中核市の中で取得しやすい水準にあり、後述の試算では38万円/㎡を置く。
大街道2丁目4-13(公示)
¥870,000/㎡
前年比+1.2%
千舟町4丁目2-2(公示)
¥382,000/㎡
前年比+1.6%
三番町4丁目11-12(公示)
¥375,000/㎡
前年比+2.5%
道後湯之町甲1570(公示)
¥363,000/㎡
前年比+4.6%
出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(地価公示 2026年)よりホテルバンク編集部作成
開発余地の価格帯 — 新築アッパーミドルの採算ラインは成約ADR3万円、承継・改装が現実解
ここまでを整理すると、愛媛で供給が薄く需要が先に埋まる帯は推定成約ADR15,000〜25,000円で、立地は道後と松山中心部に限られる。この帯を新築で埋められるかを簡易試算で確かめる。建設費はS造ホテルの坪単価240.5万円(2025年水準の想定値)を第1段階に置き、第2段階として建設期間中の上昇(Turner & Townsend予測:2026年+5.3%、2027年+5.0%)を2027年着工・2028年開業の中間時点まで複利で織り込む。GOP率は宿泊特化型50%、アッパーミドル35%とし、インヴィンシブル投資法人が開示する運営91物件のGOP実績38.9%(2024年12月期)より保守的な値を採る。
新築3ケースの簡易事業性試算(松山中心部)項目A. 宿泊特化型 新築80室B. アッパーミドル 新築60室B′. 同・ADR30,000円客室面積/客室部分比率18㎡/68%35㎡/60%35㎡/60%延床面積約2,120㎡(641坪)約3,500㎡(1,059坪)約3,500㎡(1,059坪)建設費(想定 240.5万円/坪)15.4億円25.5億円25.5億円土地(容積率400%・38万円/㎡)2.0億円3.3億円3.3億円総投資額17.4億円28.8億円28.8億円想定ADR(成約ベース)/OCC8,500円/82%20,000円/75%30,000円/75%年間売上2.04億円3.29億円4.93億円GOP(50%/35%)1.02億円1.15億円1.73億円GOP利回り5.9%4.0%6.0%建設費(2027年中間時点・+10.6%)17.0億円28.2億円28.2億円総投資額(インフレ後)/GOP利回り19.0億円/5.4%31.5億円/3.7%31.5億円/5.5%
出典:Turner & Townsend建設コスト予測、インヴィンシブル投資法人 決算説明資料、メトロエンジンリサーチよりホテルバンク編集部作成。簡易試算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です
結果は明快である。宿泊特化型80室は松山市ビジネスホテル中央値をやや上回る8,500円・稼働82%でGOP利回り5.9%(インフレ後5.4%)に乗るが、アッパーミドル60室は空白帯の中心である20,000円でも4.0%にとどまり、6%に届かせるには成約ADR30,000円が必要になる。愛媛で25,000円超の完売観測がゼロである以上、新築でこの帯を狙うのは時期尚早で、松山東急REIホテルを承継した日和ホテル松山のように既存建物を取得し、営業しながら改装で単価を1万円台前半から引き上げる手法のほうが、建設費を回避しつつ空白帯に近づける。道後の1970年代以前開業の旅館群も同じ理屈で、客室露天や和洋室化など1室数百万円の改装で15,000円以上の帯へ移る余地がある。看板替え案件で改装が単価差をどこまで埋め、何年で回収できるかは、同じ運営会社の事例を扱った日和ホテルFlex博多157室の看板替え — 旧ADR1.1万円は博多区の77%、改装で埋める単価差と回収4.5年が参考になる。
前提の振れ幅も確かめておく。アッパーミドル60室(総投資額28.8億円・GOP率35%)の条件を据え置き、成約ADRと通年の稼働率を動かしたときのGOP利回りが下表である。25,000円では通年85%まで稼働を上げても5.7%にとどまり、6%に届くのは成約ADR30,000円・通年75%以上か、35,000円・通年65%以上の組み合わせに限られる。空白帯の中心で新築の採算が合わないという結論は、稼働の前提を楽観側に振っても変わらない。
感度分析:成約ADR×通年稼働率のGOP利回り(アッパーミドル新築60室)通年稼働率\成約ADR15,000円20,000円25,000円30,000円35,000円65%2.6%3.5%4.3%5.2%6.1%70%2.8%3.7%4.7%5.6%6.5%75%3.0%4.0%(B)5.0%6.0%(B′)7.0%80%3.2%4.3%5.3%6.4%7.5%85%3.4%4.5%5.7%6.8%7.9%
ホテルバンク編集部試算。GOP利回り=ADR×稼働率×365日×60室×GOP率35%÷総投資額28.8億円(客室売上のみ、インフレ前)。インフレ後の総投資額31.5億円では各セルが約1割低い(6.0%→5.5%)。太字は6%以上
まとめ — 愛媛の投資機会は「既存の上位化」にある
愛媛県の2026年は、外国人需要の伸びと道後温泉本館の全館再開を追い風に、松山市の推定成約ADRが10,100円(+3.1%)、旅館が18,900円(+7.8%)へ上がり、684室の新規開業を単価を落とさずに吸収した年になった。純増は439室で、1km圏のストックは9年で+20.5%、次の供給は確認申請ベースで見えていない。価格階層は松山・大洲/今治・その他の3層、業態では旅館が稼働9割で先に埋まり、推定成約ADR15,000〜25,000円帯は6施設321室と薄いまま4軒が45日以上前に完売した。運営者にとっては連休需要が45日以上前に形成される特性を活かした早期の段階的プライシングが、投資家にとっては新築より既存建物の承継・改装による上位帯への移行が、それぞれ愛媛で最も確度の高い機会といえる。
本稿の集計範囲:推定成約ADRはメトロエンジンリサーチの推定値(REIT開示実績との照合で誤差中央値約7%・税抜相当)で、各施設の実際の成約価格とは異なる。客室ストックの半径圏集計は客室10室以上の宿泊施設を対象に名寄せして集計し、「稼働中」は直近3か月に主要予約サイトで販売価格が確認できた施設を指す。9月20日泊の完売判定は室ベースの残室推移のみを用い、OTA公開枠が総客室の30%以上の施設に限った(掲載在庫データのある211施設のうち条件を満たした85施設)。メトロエンジンリサーチは国内約168,000施設を追跡し、うちOTA上で稼働が確認できる約27,000施設・約126万室を分析対象としている。
参考資料・出典一覧
■ データソース
メトロエンジンリサーチの推定成約ADR(愛媛県・市町別・業態別、2026年9月 N=210)、推定稼働率・ブッキングカーブ(対象141施設/7,986室、LT45〜LT1)、2026年9月20日泊の残室推移(掲載在庫データ211施設のうち条件を満たす85施設)、松山市駅・道後温泉・今治駅の半径圏客室ストック(客室10室以上)。公的データは観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年速報値(四国運輸局集計)、国土交通省 不動産情報ライブラリ(用途地域・洪水浸水想定区域・地価)、e-Stat「建築着工統計調査」。
■ 試算前提
建設費はS造ホテルの坪単価240.5万円(2025年水準の想定値)に Turner & Townsend の上昇予測(2026年+5.3%、2027年+5.0%)を2027年着工・2028年開業の中間時点まで複利で加算。土地は容積率400%・38万円/㎡、GOP率は宿泊特化型50%・アッパーミドル35%(インヴィンシブル投資法人の運営91物件実績38.9%より保守的)。年間売上は客室売上のみ(ADR×稼働率×365日×客室数)、GOP利回り=GOP÷総投資額。
■ 限界・留意点
推定成約ADR・推定稼働はOTA公開価格・販売在庫に基づく推定値で、各施設の実際の成約価格・実稼働率とは異なる(REIT開示実績との照合で誤差中央値約7%)。2026年9月はシルバーウィークを含む単月で、通年水準とは異なる。事業性試算は運営委託料・FF&E積立・公租公課・金利を含まない簡易試算であり、投資判断には個別のフィージビリティ・スタディが必要。
■ 市場データ
メトロエンジンリサーチ — 推定成約ADR(愛媛県・市町別・業態別、2026年9月 N=210)、推定OCC・ブッキングカーブ(対象141施設/7,986室)、9月20日泊 在庫ランキング(掲載在庫データ211施設)、松山市駅・道後温泉・今治駅の半径圏客室ストック
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