アメリカの出版業界では、SNSでの話題性やフォロワー数が本の売れ行きを左右する時代になっている。そんななか、ネット上で感じる不安や葛藤そのものを、小説の題材へと昇華する作家たちが現れている。

【画像】G PLANTSが語る舐達麻、逮捕、留置所

先に来るのはどれなのか。原稿か、出版契約か、それとも本を売るために必要な巨大なSNSフォロワー数か。

25歳のマラヴィカ・カナンは、初の一般向け小説『Unprecedented Times』を発表したばかりだ。主人公は大学1年生のリシ。若者による社会運動から距離を置き、セックスやパーティー、リベラルアーツ教育といった“現実の大学生活”を味わおうと決意する。しかし、その計画は新型コロナウイルスのパンデミックによって突然断ち切られる。リシと友人たちは、ネット上で築き上げてきた人格と、大人として直面する現実との食い違いに向き合うことになる。

「リシの自己認識のかなりの部分は、インターネット上で形作られています」とカナンは話す。「この作品を通してひとつのジョークになっているのは、自分の置かれた状況を説明する“言葉”を持っているだけで、彼女がときどき、自分には世界をコントロールする力や主体性が実際以上にあると思い込んでしまうことなんです」

カナンの小説では、インターネットそのものがひとりの登場人物のような役割を担っている。一方で彼女は、刊行までの数カ月を経験するなかで、出版業界とSNSの関係が作家に常に見えない緊張をもたらしていることを痛感したという。そして、それを感じているのは彼女だけではない。

生活のあらゆる部分に入り込んだSNSは、人々の消費行動を不可逆的に変えてきた。当然、そのなかには本の買い方も含まれる。SNS上での認知度と書籍売上の間に直接的な関係が生まれたことで、作家を取り巻く環境も難しいものになった。かつては便利な宣伝ツールだったSNSが、徐々に“必須条件”へと変わりつつあるのだ。

もちろん、SNS上での成功によって人生が変わる業界は出版だけではない。それでも、出版社側の要求と作家自身の期待がぶつかり合うなか、一部の作家たちは「オンラインで自分自身を演じ続けなければならない」というプレッシャーを逆手に取り、デジタル上の自分を受け入れ、そこから新たな創作の着想を得ている。

もともと大きなフォロワーを持っていなくてもヒットする本は数多くある。だが近年の売上を見ると、新たなベストセラーの一部とSNSコンテンツとの間には明確なつながりがある。『Publishers Weekly』によれば、2024年には米国で販売された紙の書籍のうち5900万冊が、TikTok上の読書コミュニティ「BookTok」のコンテンツに直接結びついていた。2025年も紙の本の売上は同様に安定した傾向を示した。

数本の動画が投稿されただけで、一冊の本が一夜にしてベストセラーへと変わることさえある。そうした環境が、今年もっとも野心的な小説のいくつかに影響を及ぼしているとしても、不思議ではない。

42歳のハリー・エリザベス・ニュートンは、2013年からInstagramを使い続けてきた。

「自分がすでに知っていることばかりを、絶妙な形で選び取って見せてくれる魅力がありますよね」と彼女は言う。「だから、とても心地よく感じることがある。必ずしも健康的ではないけれど、間違いなく心地いいんです」

そんなSNSへの愛着は、6月に刊行されたデビュー小説『Agnes Lives!』にもはっきり表れている。主人公はニューヨークに暮らす30代のアグネス。彼女は自分を殺してくれる友人を探しながら、次第に混沌を増していく24時間を過ごす。

本作は、一般的な小説とは少し異なる実験的な構成を取っている。SNS上のコメントと、アグネス自身の心の声を交互に重ねることで、他人から見えている彼女と、実際の彼女とのズレを浮かび上がらせていく。そこには、SNS上で作られる「見せたい自分」と、本当の自分との距離に対するニュートン自身の感覚も反映されている。

「アグネスの実際の生活と、彼女がネット上で見せている姿には大きな隔たりがあります。SNSによって自分のイメージがどう作られ、それが自分自身やアイデンティティの捉え方にどう影響するのかを描いているんです」とニュートンは話す。

「もうインターネットは、私たちが当たり前のように生きている環境そのものなんです。文学をネットから逃れるための場所だと思いたい気持ちはあるけれど、実際には両者は深く絡み合っています」

そうカナンは言う。

ニュートンも、本の発売日が決まると同じ問題に直面した。作品を宣伝したい。しかし、そのためには非公開にしていたInstagramのアカウントを公開する必要があった。最初は、そのこと自体が怖かったという。

「SNSをやれと誰かから圧力を受けているというより、自分の本を宣伝しなきゃ、と私自身がプレッシャーをかけているんだと思います。もし昔の人たちがチラシを貼ったり雑誌に広告を出したりしていたのなら、きっと私はそれについても同じようにプレッシャーを感じていたでしょうね」

31歳のイマン・ハリリ=キアは、これまでに3冊の本を出版し、現代人が抱える仕事上の不安をカルト的人気を持つ現代ロマンスへと変換してきた。しかし、新作ロマンス『Once in a Timeline』の着想は、彼女自身がネット上で経験した出来事から直接生まれた。

ニューヨークの地下鉄に乗っていたある日、ハリリ=キアの車両が地下で立ち往生した。通信もほとんどつながらないなか、およそ20分間、彼女のスマートフォンでなぜか唯一見ることができたのが、あるインフルエンサーの「一日のルーティン」動画だった。

「まるで時空連続体に穴が開いて、そこに存在するのが私とそのクリエイターだけになったような感覚でした」と彼女は振り返る。「一刻も早くメモアプリを開かなきゃ、と思いました」

その体験から生まれた小説は、あるライフスタイル系インフルエンサーが、自分自身の「一日のルーティン」Vlogを無限のタイムループのなかで何度も繰り返すという物語だ。

作品では、自己決定、アイデンティティ、オンライン上で他者からどう見られるかといった問題が描かれる。そして物語の中心を支えているのは、デジタル社会における“成功”についてのハリリ=キア自身の考えだ。

その核心には、ひとつの問いがある。

「SNS上で常に自分を見ている人たちを満足させるために、心をすり減らしてまで努力し続ける価値があるのか?」

それは、ハリリ=キア自身が人生のなかで向き合わなければならなかった問題でもある。

「デビュー小説を出す前は、最初の本が『ニューヨーク・タイムズ』のベストセラーにならなかったら失敗だ、というような声が頭のなかにたくさんありました。でも実際に、そうした“成功の基準”をひとつずつ達成しても、自分のなかでは何も変わらなかったんです」

彼女はそう話す。

「今では、成功をそんなふうに考えることはものすごく非生産的だと気づきました。最終的には頭のなかにあまりにも多くの声が増えて、自分自身の声が聞こえなくなってしまうからです」

ベネディクト・グエンの2026年の小説『Hot Girls With Balls』も、SNSが現実の人間関係や政治的立場にまで深く入り込んだ世界を描いている。舞台は架空のプロバレーボール界。主人公のシックスとグリーンは、アジア系アメリカ人のトランス女性で、男子バレーボール界の人気選手であると同時に、SNS上では“パワーカップル”として注目を集めている。

そんななか、3人のアジア系トランス女性が殺害された事件が全米で報じられる。ふたりは、スポンサーやファンの目を意識した「公の顔」と、自分たちが本当に感じている怒りや悲しみ、政治的な信念との間で揺れることになる。

本作が描くのは、SNS上で悲しみや怒りをどう表現するのかという問題や、スポーツにおけるトランスジェンダー選手をめぐる議論だ。同時に、個人のアイデンティティそのものが、オンライン上で政治的な立場やブランドイメージとして消費されていく状況を風刺している。

特徴的なのは、作中で「現実世界」と「SNS上の世界」がほとんど切り離されていないことだ。選手たちが現実で経験する出来事はすぐにオンライン上で拡散され、匿名のユーザーによる反応や批判が、そのまま彼女たちの現実に影響を与えていく。

「SNSによって誰もが公に発言できるようになった一方で、匿名のユーザーが実際以上に大きな影響力を持つこともあります」とグエンは話す。

こうしたデジタル世界との緊張関係は、作家にとって今後も避けられないものになりそうだ。それでも彼らは、SNSに振り回されるだけではなく、そこで感じる違和感やプレッシャーそのものを創作へと変えている。

カナンは、いまの若いクリエイターが置かれた状況を、少し皮肉を込めてこう表現する。

「多くの若いアーティストが、ひどい状況に置かれています。『飼い猫を養うためにも、お願いだから私の曲を聴いて』とか、『お願いだから私の本を買って』とかね」

ネット上では、無数のクリエイターが人々の注意を奪い合っている。だがカナンは、ある時からSNSとの距離を置いて考えるようになったという。

「インターネットは、私が存在していてもいい場所ではある。でも、そこは私のステージでも、私の表現手段でもない。自分のエネルギーを本当に注ぎたい場所ではないんです」

from Rolling Stone US

Share.