おつかれさまです。
そういえば、岸恵子さんがお亡くなりになったというニュースをネットで読みました。
今から何年前でしょうか?
フランスにおける日本大使をやっておられた斎藤大使に招かれ、日本大使公邸で当時のフランスの文化大臣と食事をするという会がありまして、こう書くとものものしい感じがしますが、斎藤大使が個人的に付き合いのある人を招いた文化サロンのようなざっくばらんな会でした。
基本ぼくはパーティとかに顔を出しませんので、その時は、尊敬する斎藤さんだったからこそ、行ったというのはあります。震災の時に、日本のことを一生懸命フランス国民に伝え続けた大使でした。
あれは、いつだったかなぁ。
ぼくが50歳くらいの頃じゃなかったか、と記憶していますが、実は、その昼食会に、岸恵子さんが同席されていたんです。
「わ、岸さんだ」
と心の中で思いました。ぼくの母の世代を代表するいわばセレブの走りのような方で、フランス人の映画監督さんと結婚されていたので・・・、もちろん、フランス人のみなさんもご存じでした。
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控え目ですが、あの通りの印象の方で、初対面でしたが、母よりも2歳も年上なのに、凛とされて、実に絵になる貴婦人でしたよ。
岸恵子さんがフランスのサンルイ島で暮らしているというのは、当時の在仏日本人ならだいたいみなさん知っていました。岸さんが、サンルイのセーヌ河畔のベンチで、暮れなずむ空をいつも眺めているというのは、在仏日本人会の人々のあいだで語り継がれていたんです。
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つまり、岸さんと言えば、サンルイ島でして、あそこに行くと、なんとなく、岸さんが歩いていないか、気になったたものです。セーヌ川の中ほどに位置するサンルイ島は三四郎も大好きで、よく今も遊びに行きます。友だちもいます。
中ほどに、ベルティヨンという美味しいアイスクリーム屋さんがあるんですよ。
在仏日本人はとにかく、お隣のシテ島の警察で滞在許可証の更新をしないとなりませんでしたからね、警察署で何時間も並び、疲れたら、そのついでに足をのばして、ベルティヨンのアイスを舐めに橋を渡ったものです。笑。
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下の写真はサンルイ島の写真です。


話しがそれましたが、大使公邸でお会いした岸さんとは、何の話をしたのか、ちょっともう覚えてないんですが、でも、文化全般のお話だったと思います。笑顔の斎藤大使が、場を盛り上げておられました。
はっきりとした意見をお持ちで、しかし、穏やかで、気遣いもあって、岸さんと、居心地のいい時間を持つことが出来たのでした。
そして、帰り際、持っていた本を渡したのです。「ダリア」という作家生活20周年を記念してだした本でした。文芸誌「新潮」で連載をした連作短編のような作品集ですが、自分にとっては作家生活20年の節目に、精一杯書かせてもらった作品でもありました。
一瞬、手渡そうとしたその時、岸さんが受け取るべきか、悩まれたような印象がありました。小説を読ませるというのも、失礼か、と思って引き下げようとしたとき、読みますね、と言って、それを受け取ってくださったのです。
記憶が曖昧で、なぜ、「ダリア」を持っていたのか、よく覚えてないですし、どうして渡そうと思ったのか、それも、よく覚えてません。もしかしたら、岸さんが来ることを斎藤大使から聞かされて、サンルイ島の貴婦人がいらっしゃるなら、ここで渡さねば、と思って、あらかじめ用意していたのかもしれませんね。きっと、そうでしょう。サンルイ島の貴婦人ですからね・・・。
自分の作品の中では、どこに出しても恥ずかしくない、と思っているものの、数少ない、実に希少な一冊なんですが、だからこそ、岸さんにお渡ししたんでしょうね~。笑。ああ、やってしまった、と後悔をしたぼくの手から、岸さんがスッとその本を引き取ってくれた時は、ほっといたしました。
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そしたら、翌月、なんと、岸さんからお手紙が事務所に届くことになるんです。
丁寧な、そして、少し長い文面で、書評のようでした。こういう作品をもっともっと書いてほしいです、と締めくくられていたんです。
みなさんご存じのように、ぼくはだいたい、誰かに褒められるということの少ない人間、ですからね、・・・。
岸恵子さんに「こういうのをもっと書いてほしい」と言われたことは、大きな励みとなりました。
でも、「ダリア」のような作品はその後、生まれていません。
しかし、今年、春ごろに、この「ダリア」のスペインでの出版が決まったのです。小説というのは、実に気の長い仕事なんですよね。岸さんとお会いしてから、16年以上もの歳月が流れているんですから・・・。
岸さんと同じように思ってくださった方がスペインにもいた、ということで、出版化が決まったのだと思いますが、その時、ふと、「そう言えば・・・」と、岸さんのことを思い出したという次第です。あ、まだ、書いてない・・・。
ああ、書かなきゃ、と思ったところだったのに、一昨日、岸さんの訃報をネットニュースで読んで、驚いたのです。人のご縁というのは、不思議ですが、午後のひと時、大使公邸でのささやかな邂逅であったのに、今でも、岸さんの印象が、深いところで大切に記憶されているのです。
岸恵子さんのご冥福をお祈りしたいと思います。

父ちゃんの独り言、&、近況のようなもの。
そうそう、思い出しましたが、「パリ情景、動かぬ時の扉」という画集の中に、「動かぬ時の扉」という小説が入っていますが、それがサンルイ島を舞台にした唯一の作品となります。なんで、あの画集を岸さんに送らなかったのか、そこですね、そのことすっかり忘れておりました。絵も、見て貰いたかったですが、人生というものはなかなか慌ただしく、そして、叶わないものです。
さて、本日、土曜日、日本時間の19時から、インスタのサブスク「となりのヒトナリ」開始します。ちょっと前に、20時から、と言っていたのですが、自分お昼ご飯を作りながら、おしゃべりをしたい、と思いつきまして、19時スタートにさせてください。笑。
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9月4日、新刊小説「泡」、集英社から発売となります。
10月22日から25日までパリ、コンコルド広場で行われるモダンアートフェアで6メートルの壁がぼくに用意されます。ぜひ、パリにお立ち寄りなされる皆さま、立ち寄ってください。時期が近づきましたら、簡単に中へと入れるQRコードをここにアップします。それがなくても入場は出来ます。ただ、手早く、関係者のように、すっと入れるらしいです。笑。
11月5日より、リヨンで、個展もします。



Posted by 辻 仁成
Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。
