2026年5月末にインドネシアで開催されたアニメイベントMMAJを現地取材を行った。インドネシア財閥のCTコーポ、そこに総合商社としての三井物産が結束して、イベントが開催される。並行してインドネシアには「クレヨンしんちゃん」が展開され、同じ商社の住友商事が展開をサポートする。現地Infia社は海外としては最高峰のレベルといえる「ONE PIECE」カフェを展開し、TBSグループはゼノトゥーン社と提携して“第二の新海誠”と呼び声高い安田現象アニメを展開する。こうした「インドネシアにおける日系IPの今」を特集した。
■日本人駐在員が自力でつくったアニメイベント、ついに国境を渡ってインドネシアへ
2026年5月30・31日に「Merah! Merah! Anime Japan!!(MMAJ メラメラアニメジャパン) の初インドネシアイベントが開催された。これはインドで2024、2025年 と2年にわたって開催されたイベントで、インドのメーカー・商社の2人の日本人駐在員が「ボランティア」で立ち上げた世にも稀なイベントである。4.7万人(2024)→6万人(2025)と実績を残したこのインドの日系アニメイベントが、またまた世にも稀なことに「インド」→「インドネシア」という別の場所で開催されている、とのことで取材に向かった。
場所は南ジャカルタ、Ganadaria City Mallを使って開催され、5.1万人を動員する上々の結果を残した。都心のオフィスエリアと南部の住宅地(ブロックMなど日本人駐在員も多いエリアの近く)の間に位置するモールで、アッパーミドル~エグゼクティブが多くくるモールである。
インドでも出展/協賛社は40社強だったが、今回も初年度にしてそれ以上の座組に出来上がっていた。テレビ局(TBS、テレビ東京)、出版社(Vizmedia、HERO’S、No.9)、アニメ・映像制作会社(Pie in the sky、XENOTOON)、音楽レーベル(Avex Live Creative、SonyMusic)、映画会社(東宝エンターテイメントアジア)、MD・ライセンス・広告代理店(バンダイ、Pokemon、円谷、ADK)から現地ライセンシー(Miniso、Hobby Shop Kyou、Multi Toys、Phoenix)まで。それ以外もIPコラボを実現するメーカー(JVC、明治、ホンダ、Toyota Gazoo Racing、Panasonic Homes、KOSE)、飲食(Coco壱番屋、行政他、商社(三井物産)、コンサル(ABEAM)に冠スポンサーの金融(Jenius:SMBCインドネシア)までもが参加するAll Japanの座組のイベントだった。
冒頭に挨拶をしたのが今回インドのMMAJチーム10名と共同で主催したBuzznesia社、そのグループ総帥であるプトリ・タンジュン(CTグループ総帥ハイラル・タンジュンの娘、1996年生まれのZ世代事業家)である。いわずとしれたインドネシア財閥グループの一つである。日本の総合商社三井物産が2018年に同グループの330億円の社債を引き受けたところから始まり、1000億円規模の資本提携と取締役を派遣する深い関係性にある財閥だ。

トランスTV・トランスヴィジョンなどのテレビ局・ケーブルTVを擁する「金融・資源・メディアを3本柱とする財閥グループ」である。少々古いデータだが、下記の図5000億円規模の資産を擁する企業である。ファッション・旅行の会社ももっており、有名どころでは「ヴァスキンロビンス」「ウェンディーズ」などの外資飲食チェーンも経営している。インドネシアではこの巨大財閥がバックアップしてのアニメイベント実現となった。

▲『ASEAN企業地図』翔泳社2015より
50社近くのメディアがオープニングセレモニーに集まるが、10時スタートに20社ほど。むしろその最中にパラパラと増え始め、終盤には会場を埋め尽くすという集まり方も含めて非常に“インドネシアらしい”スタートだった。


インドでもTOYOTA×『進撃の巨人』自動車、SUZUKI×『NARUTO』バイクが象徴的だったが、今回も新興国開拓のトップブランドである自動車メーカーコラボが出現していた。TOYOTA Gazoo RacingのトヨタGT×『頭文字D』である。

後編で詳述するが、こちらはインドネシアに3台しかないといわれる「藤原豆腐店のハチロク(トヨタ・スプリンタートレノGT-APEX)」のコレクターを運営が探し出し、そことTOYOTAのコラボを仕掛けるという荒業によって実現した“奇跡のコラボ”だ。一般の人々に晒したくないという『頭文字D』好きの富豪コレクターを口説き落とし、なんとか披露することができた、ということだ。

▲ホンダ×Sanrioクロミのコラボバイク
メインホールの門をくぐるとサクラの木を中心にぐるりと360度、解放感のある5階層の吹き抜けに出る。ここを中心としながら、今回は7ヵ所に展示スペースが存在しており、通常のショッピングモール客も混在して日本IPコラボの展示などに立ち寄る形になっていた。



アニメは『クレヨンしんちゃん』『ドラえもん』というインドネシアでもマスに普及しているテレビ朝日が展開するキャラクターのみならず、『ちびまる子ちゃん』や最新作『氷の城壁』『ハサウェイ』『ニワトリファイター』『ハイキュー』などの大人アニメ、現地の「Hello PANDA!」や『ウルトラマン』『PhantomBaby』VRコラボとしての『ポンコツクエスト』まである。
インドMMAJもそうだったように商業施設の複数個所を貸し切り、普通の買い物客も境目なく招きこむ無料型のイベントである。インドのものよりも導線の難しさもあって(Gandaria City Mallでは、四方八方から入場できるモールであった)今回は紙リストバンドなどの配布もなしに、管理しない形でのイベントとなった。



▲VTuberも手掛ける現地ライセンシーPhoenix Granmedia Indonesia


▲ガンダム立像の隣には現地ライセンシーであるMulti Toysがプラモを販売しており、買ったものをそのまま組み立てるKIT体験会が併設されている


▲イベントには参加していないがPOPMART、Minisoも一等地に常設店舗を構えている

▲同様に吉野家もイベントあわせではないがONE PIECEとコラボ中


▲『ハイキュー!!』×Hello Panda(明治製菓がもっている1987年に上野動物園トントン誕生を記念したパンダキャラクター、インドネシアにはチョコクリーム入りビスケットとして流通)

▲スパイダーマンのコスプレーヤーが『ちびまる子ちゃん』の重ね着

▲中央ステージで歌唱する西沢幸奏。ほかに石田燿子や私立恵比寿中学などがゲストとして招待された


▲マンガコーナーは充実。ネシア語版(700円)、日本語版・英語版(2200円)くらいで3倍ほどの価格差がある

▲とにかく写真好き。街中で家族向けプリクラ機のようなものが点在している

▲Tencent『Honor of Kings王者栄耀』とのコラボで、インドネシアの商店街のアーケード入口にまで広がっていた『進撃の巨人』。中国ゲームのすそ野の広さを実感する


▲道端でバイオリン弾きがいたり、雑魚寝(身なりはキレイ)で一泊をしている家族がいたりとネシアらしいゆるい風土が垣間見える
■海外テーマカフェの最高峰-ONE PIECE CAFÉ事業と住友商事
住友商事の横田氏に話をきいた。デジタル関連組織を経て、約2年前にインドネシア住友商事へ赴任した同氏は、当初はヘルスケアやカーボンクレジットといった既存領域の新規開拓なども並行して行う中、自身の関心を起点としつつ、現地市場の可能性を見込み、エンタメ領域の事業開発を推進し、2026年4月からはエンタメ領域の事業開発を専任で担当することになった。同社のエンタメ事業はJ:COMやアスミックエースなどの映像事業を手掛けるメディアSBUが推進しており、過去取材してきたようにCrunchyroll社との協業案件・ゲーム事業まで手掛けてきた部門でもある。

※余談だが、横田氏はOLMベンチャーズで活躍する横田秀和氏(みずほ銀行、ソフトバンク出向を経て、2017年より同社社長。カバー、リトプラ、plott、MyDearest、HEARTBEATSなどにも投資をしてきたVC業界の有名人)の息子
2025年開催のジャカルタジャパン祭りでは、『クレヨンしんちゃん』をインドネシア住友商事が現地でのライセンス展開を支援するブース出展も行った。本IPは前述のように東アジアのライセンス企業がインドネシア含めて展開してきたが、なぜ既存のライセンス体制に加えて、住友商事のような商社が関与する余地があるのかという背景を聞くと、「商社のもつ現地ネットワーク・展開力」が強く影響している、という。三井物産がCTコープと連携しているように、インドネシア住友商事もまたインドネシアの大手財閥と強いパイプを持っており、それは現ライセンシーだけに任せている以上の広がりを提供できる。
これまでMUSEやMedialinkといった台湾・香港のライセンスマネジメント企業に映像・商品化権ともに託して、東南アジア全域をカバーしてもらう取引が一般的であった。だが逆に日本IPの映像を普及させたり、商品化を画策している現地企業からすると「日本本社ではなく、ライセンスを委託された会社独自の判断」によって監修が通らなかったりという課題もある。現地での展開余地をより広げる取り組みとして、既存のライセンス体制だけでは十分に開拓しきれていない領域について、現地の消費者接点を活性化させる手段として商社と部分的にライセンス契約を締結する新しい座組が出来上がってきている。
インドネシアは世界最大級のイスラム教徒人口を抱える国でもあり、日本アニメの露出の多さやちょっとアダルトなジョークが問題になることも多い。カルチャライズの必要はある。また、映画市場においてもローカル作品保護の観点から一定の枠組みが存在しており、日本作品が自由に参入できる環境とは言い切れない。実際にはハリウッド作品や韓国作品との競争も激しく、日本コンテンツは限られた機会の中で存在感を高めていく必要がある。こうした市場環境を踏まえると、現地パートナーとの連携に加え、時には韓国企業などとの協業も有効な選択肢となり得る。
面白いのは、商社のグローバルなネットワークの広さゆえに思わぬケミストリーが生まれるケースだ。横田氏の元上司が現在アフリカに赴任しており、「現地で教育コンテンツとして活用できないか」「日本IPを展開できる余地があるのではないか」といった相談が寄せられることもあるという。また、中南米においても日本IPの展開可能性を模索する動きが出始めている。IPホルダーの立場からすると、当初想定していなかった国や業界へと事業機会が広がっていくこともあり、商社ならではのネットワークが新たなビジネスの可能性を生み出している。
誰も手を付けていない市場へ先行参入し、政府や現地パートナーとともに新たな産業の立ち上げを進めてきた商社ならではの経験値も重要な強みだろう。インフラ、エネルギーなどの分野では、新興国において制度変更や市場環境の変化、契約条件の見直しなどに直面しながらも、長年にわたり事業を推進してきた実績がある。こうした不確実性の高い市場で培われた知見やリスクマネジメント能力は、海外におけるエンターテインメント産業の展開においても大きな価値を持つ。制度や商習慣が成熟途上にある市場で事業を立ち上げ、パートナーとともに新たな市場を育てていくという意味では、商社がこれまで様々な国・産業で蓄積してきた経験は、まさに貴重な経営資源となるだろう。

▲ONE PIECE CAFÉ(Senayan Park)は海外とは思えぬクオリティのコラボカフェ




▲驚くのは2026年秋にコラボカフェに併設したモール内湖で「ゴーイングメリー号」を模した物販「船」が開設予定。かなり力の入ったONE PIECE展開がなされている
■このままではアニメでも「家電敗戦」が起こる。中韓に対抗できうる迅速なアジア展開を
インドネシア住友商事が協業している会社でInfiaグループというインドネシアベンチャーがある。すでに300人を擁するこの企業はIP・ライセンスとともに、IPコラボカフェ事業なども展開している。約1.5年続いているONE PIECEカフェは、もっと歴史の深い東アジアのコラボカフェと比べてもそん色ないどころか、中山がかつてみてきた海外のテーマカフェのなかでは最高水準に近いレベルで「仕上げてきている」印象だ。

▲600万人のフォロワーを擁する現地IPのTahilalatsとのコラボ効果などはまさに現地に根付いたInfiaグループでなくては実現しなかったものだろう
Infiaグループにとって現在の最優先事項は、「日本のIPホルダーと共に事業を創出すること」にある。近年、視聴メディアがテレビ中心からデジタル・SNS中心へと急速に移行するなか、海外コンテンツ企業がインドネシア市場への展開を加速させており、豊富なコンテンツ供給力とスピード感を武器に存在感を高めている。さらに、デジタルメディアに加えてリテールチャネルも効果的に活用しながら、ユーザーとの接点を増やし、継続的なエンゲージメントを構築している。こうした競争環境の中で、INFIAグループとしては日本IPとの連携を通じて独自のポジションを確立したいという強い意向を持っている。
ここに強い危機感があると、横田氏はあくまで私見と前置きした上で次のように語る。「このままいくと、10~20年前の家電市場と同じように、日本IPが現地で継続的に接点を作れなければ、他国コンテンツに市場の主導権を取られる可能性があると感じています。」実際、中国発のコンテンツやサービスの浸透は非常に速い。
一方で、中国に次いで存在感を高めているのが韓国のK-POPや韓国ドラマなどのエンターテインメントだ。若年層を中心に韓国に対するイメージ向上にも大きく寄与しており、エンタメが持つ影響力の大きさを感じるという。出版ではGramediaなどもあるが、オランダ植民地は(英国植民地と違って)流通などのインフラ整備が欠けている傾向がある。ここらへんは英国~南ア~インドなど世界中に書籍流通網をつくってきたイギリスとはずいぶん差を感じた。
■ゼノトゥーン安田現象スタジオの奇作『メイクアガール』の上映はチケット即完売の大盛況!
ゼノトゥーン社の川瀬好一氏(ナムコ、ウォルト・ディズニー・ジャパン、マーベル・エンターテイメント、ポケモン等を経て、2019年にアニメ制作会社ゼノトゥーン設立)は現在3つのアニメスタジオを統括している。1つは『ダンダダン』『メダリスト』『あかね噺』などのグロス制作をメインに、元請制作も開始した2D作画スタジオ(第2スタジオ)、もう1つが2D・3D・VFXなど幅広い領域の様々なクリエイターが集結する分散型ネットワークスタジオ(第3スタジオ)で、MV、PV、WEB CMなどショートアニメに特化している。更に目玉となるのが“第二の新海誠”とも呼び声のある安田現象スタジオ(第1スタジオ)※である。2020年に安田氏をバックアップすると、最初から長編アニメ映画の製作を見据えてスタジオを設立した。最初の資金拠出からずっと安田氏を支え、プロデューサーとしてこのプロジェクトを実現に導いてきたのが川瀬氏であった。こうした海外展開の延長として今回2026年6月にMMAJインドネシアでの上映は、ASEAN地域では初の上映となった。
※安田現象:日本のアニメーション作家・監督。TikTok290万、YouTube220万など、SNS総フォロワー数は640万人。日本大学芸術学部出身、ニトロプラスで3DCGクリエイターをしていた最中に自主制作でライトノベルを書きはじめ、2020年にCGアニメコンテストで入賞した「メイクラブ」を自身のYouTubeチャンネルに公開。ZUTOMAYO「正しくなれない」MVも大反響を呼び6000万回再生。2021年6月にゼノトゥーン内に開設した「安田現象スタジオ」を率いる。

今回のMMAJインドネシアで公開されていた、安田現象初の長編オリジナルアニメーション『メイクアガール』を私も視聴した。天才高校生・水溜明が、人造人間の少女「0号」を作り出す。人間らしさを学んでいく彼女に、明の心は次第に解きほぐされていくが、それは母親が紡がれてきた「秘密」も隠されている。切ない近未来SFアニメだが、個人的には「ロボット三原則(ロボットは1.人間に危害を加えず、危険を看過しない。、2.命令に服従する(第一条に反する場合を除く)、3.第一・第二条に反しない限り、自己防衛する)」への挑戦という強いメッセージ性にインパクトを受けた。ロボットが人に逆らい、人を攻撃するケースを想定するなら、確かにこんな世界になるのでは、というものだ。
恋人でも家族でも、人間は常に期待されるコンフォートゾーンを越えて、驚きや恐れを与え、だからこそそこに愛情やリスペクトが生まれる。ロボットがロボットを超えて「人称」や「人格」を得るには、たしかにこうしたリミッターをはずす荒療治が必要だろうという安田氏の強いメッセージがアニメに載っており、自分で美少女ロボットを作ろうという“よくある設定”だと思っていた安心しきったアニメ世界に思わぬ裏切りを受けて、個人的にはとてもインパクトがある作品だった。

2025年の日本の映画上映は決して「大成功だった」とはいえない(2025年1月に角川アニメーション配給、初動3日間で1.8万人動員)。だがコアなファン人気に後押しされて、上映館数はしり上がりに伸びていき、最終的には100館を超える上映館数となった。それ以上に本アニメに喝采をくれたのは海外ファンだった。北米、欧州、南米など世界各国で上映のすそ野を広げて「安田現象」というブランドを浸透させたい、と川瀬氏は語った。
その中でも特に人気が強いのはロシアやフランスで(独特のSF・ロボットテーマだからだろうか?)、特にロシアでは日本、アメリカに次ぐ30万人ものフォロワーがいる。この2か国に加え、インドでも反響が大きかった。中国では上海国際映画祭の長編アニメーション部門でノミネートもされた。その延長で中国にも人気が火がついており、上映の手はずを整えていたが近年の日中関係のなかで未だ上映に至っていないことが悔やまれる。
内容も驚きだが、むしろその制作工数に驚いた。この90分アニメはたった8人で2年半で作られている。「本作に全くAIは使っていないんです、皆さん、信じられますか?」と視聴後に感嘆さめやらぬインドネシアのユーザーたちに向けて川瀬氏が語り掛ける。こうしたセルルックの長編アニメ映画は、通常は100名サイズを数年拘束して創るものだ。それを少ないリソースで完成させた安田現象氏のアニメ制作手腕は確かなものだろう。「安田現象はクリエイターでありながら、手を抜くところは抜き圧倒的なスピードを出しながら最終的に映像クオリティを最高レベルに仕上げる、類稀なる資質があるんです」と川瀬氏はいう。まだ30代という年齢ながらすごい才能があり、川瀬氏としてはショートアニメに加えて劇場版2作目・3作目というなかで成長していけるクリエイターだという確信があった。
この座組に反応したのがTBSである。アニメ・IP事業会社「SAND B」を通じて2026年5月に発表されたのが「ゼノトゥーンの株式51%を取得する資本提携によるTBSグループイン」であった。資本戦略・提携にむけていま最も勢いがあるといえるTV局グループの後押しも得て、今後ゼノトゥーンはTBSにとっても海外展開の旗手になりえる、とTBSホールディングス執行役員 アニメ事業統括の吉田裕二氏は締めている。
■インドネシア産メディアミックスの限界点、『ジャンボ』の「いつかはジブリ」は本当か
MMAJインドネシアと2つのインドネシア展開事例を見てきた。最後に、今回の出張ではもう一つ確認したかったポイントがあった。それは『ジャンボ(Jumbo)』の市場である。「いつかはジブリインドネシア国産アニメ「ジャンボ」、1000万人動員の実力」として日経新聞にも取り上げられた2025年最大の国産ヒット作である。同作は2025年3月の公開後わずか7日で1000万人を動員しており、「インドネシア初の国民的ヒットIP」であった。日本回線では見れなかった同作も、現地においてはNETFLIXで配信されており、その一部始終を視聴することができた。

率直に言えば「映像としてよくできたCGアニメ」である。だがキャラクター設定に課題があり(1人1人の造形があまりにネシアローカルで髪型など含めても、ちょっと入り込みにくい)、会話やテンポ、途中にさしはさまれるジョークなどもとっつきにくい。主人公をとりまくストーリー展開ではさまざまな突っ込みどころもあるし、致命的に思えたのは「主人公が好きになれない」(友達よりも自分自身の欲求を優先してしまったり、後半でそろそろ共感とカタルシスが欲しい場面で主人公が友人を裏切ってしまったり)という点だった。いわゆる自己中心的で子供らしい子供だが、あらゆるアニメがそうであったようにキャラクターとは現実をみせるものではなく、こうだったらよいという理想に無理のない範囲で共感を収斂させていく高度なストーリーテリング技術だ。
『哪吒2』がそうだったように、本国以外の市場に広がったという話も聞かない。日本では知名度はゼロに等しいだろう。本作が現地でどう受け止められ、1年経った現在でどう展開がされているかを現地の人々に聞いてみた。ひとまずMDやゲーム、コラボなども含めてJUMBOをみる機会はほとんどない。結果的に総評すると「ストーリーとしては一時的人気を誇ったが、キャラクターが商品化したところで売れず、1年もたつと認知度はあってもほとんど経済には火がつかなかった。」ということだった。
国民的ヒットとはいっても映画は最初の発火にすぎない。それを受け取り、作品のエッセンスに創作性を加えた二次映像展開、プロモーションにコラボ、話題の渦のなかで商品化にまで落とし込むという「メディアミックスのIPトリクルダウン」は日本においても半世紀をかけて構築してきたビジネスシステムである。各隣接産業の大手企業が協調しあうことで実現できるこの現象は、一発モノのヒット作品だけでは到底自然発生するものではない。まだまだ先は長い中で、ベトナムやタイなど国産IP展開の秀作も幾つか出てきてはいる。そうした長い長い産業プロセス構築の道のりに、今回はインドネシアもようやく足をかけた、というタイミングであり、今回のCTコーポ×MMAJによる日本IPを主軸としたアニメイベントもまた、その一つだった、といえるだろう。