青葉 やまと

フリーライター・翻訳者

中国の不動産大手・恒大集団は、約1兆9100億円を投じて南シナ海の人工島「海花島」を開発した。20万人のリゾートを目指したが、習近平政権の不動産規制で開発は頓挫。マンション39棟は撤去命令を受けた。建物は廃墟となり、富豪の別荘と謳われた島はいまや出稼ぎ労働者の住処になっているという。この人工島に、海外メディアが注目している――。


人工群島「海花島(オーシャン・フラワー・アイランド)」、2020年5月6日
人工群島「海花島(オーシャン・フラワー・アイランド)」、2020年5月6日(写真=NASA地球観測所/Lauren Dauphin/PD NASA/Wikimedia Commons)



「富豪の夢のヴィラ」の変わり果てた姿

南シナ海の沖合に建つ、豪華なヴィラ。かつて、ロシアのオリガルヒ(新興財閥)のような富豪にふさわしい別荘だと宣伝されていた。


しかし現在、割れた窓からは風が音を立てて吹き込んでくる。家具もない部屋の床では、勝手に入り込んだ出稼ぎ労働者たちが寝起きしている。


問題のこの地は、「海花島」と呼ばれる人工島だ。英語名オーシャン・フラワー・アイランドとも言われ、北京から約2000キロ南に浮かぶ熱帯の島、海南島の儋州(たんしゅう)市沖に位置する。2010年代、観光客の誘致と不動産開発を目的に海を埋め立てて造られた。


UAE英字紙のナショナルは、世界最大とされる人工島として紹介。ロイターは、「世界最大の人口リゾート島」だと報じた。堤道で結ばれた3つの人工島を合わせた広さは、ドバイのヤシの木型の人工島であるパーム・ジュメイラの1.5倍に達するという。中国の不動産大手、恒大集団(エバーグランデ)は開発に約120億ドル(約1兆9100億円)を注ぎ込んだ。


だが、その大半は借金である。しかも、目標とする20万人が滞在可能な住宅・宿泊施設を建てるには、230億ドル(約3兆6600億円)が必要だと恒大自身が認めていた。資金は必要額に届かず、開発は夢半ばで止まった。


未完成のまま放置された島の現状を、ニューヨーク・タイムズが今年1月に報じた。基礎工事の最中に建設が止まった場所には雨水がたまり、いまでは誰も意図しなかった釣り場になっている。


今や残骸と化したこのリゾート島に投じられた資金と、計画を信じて住宅を購入した人々の無念はあまりに大きい。終わりの見えない中国の不動産危機を象徴する光景の一つとして、海花島は半ば朽ちた姿を南シナ海に晒している。


「一戸も売れない」39棟のマンション

発端は2011年だった。休暇で滞在していたシンガポールの部屋に、男は一人こもっていた。


机の上で描き上げたのは、熱帯に咲くブーゲンビリアの花を優美な曲線で象った人工島の設計図だった。その男こそ、集団の創業者、許家印(きょ・かいん)氏である。


海花島の計画は、この一枚の図面から始まった。ニューヨーク・タイムズが取り上げた恒大自身の説明によると、許氏はその後時間をかけ、「細部のすべてを綿密に監督した」という。ナショナルは、建設に10年以上を要し、2020年に開業を迎えたと伝えている。


島の多くを占める計画だったのは、最大20万人分が滞在できる宿泊施設だ。加えて、遊園地、オペラハウス、水族館、免税ショッピングモールも並ぶはずだった。


公式の英語版プロモーション映像は、「中国がまたやってのけた。この地球上に、海花島を上回るエンターテインメント施設は存在しない」と高らかにうたっている。


だが、計画通りの華やかな島が完成することはなかった。


ニューヨーク・タイムズによると、ほぼ完成しながら一戸も販売できず、高層マンション39棟は現在、瓦礫の散らばる荒れ地に虚しく佇む。押し寄せる観光客を見込んで建てられた5100室のホテル「ザ・キャッスル」では、2つの屋外プールは水が抜かれ、年間の大半はほぼ空室のままだ。


商店街には各国の様式をまねた建物が並ぶが、訪れる者はほとんどおらず、まるで人けのない映画セットのように静まり返っている。


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