ロシア深部へのドローン攻撃を準備するウクライナ兵(8月6日、写真:AP/アフロ)
ウクライナ長距離無人機攻撃成功の現状
ロシアは、各種防空システムに加え、弾道ミサイル早期警戒用のVoronezh系列、超水平線(OTH)レーダーのContainer、航空目標監視用のNebo系列など、用途の異なる多数のレーダーを配備している。
これらにより、2022年2月24日のロシアによる全面侵攻以降、ウクライナは有人航空機の作戦に大きな制約を受けてきた。ロシアの防空は、この点では成功している。
だが、ウクライナは自爆型長距離無人機で、ロシア国内やクリミア半島とその周辺を攻撃し、ロシアに多大な損害を与えている。
特筆すべきは、防空兵器を濃密に配置しているはずのモスクワ、サンクトペテルブルクといった主要な都市周辺を攻撃していることだ。
さらに、2000キロ以上飛行しなければならない遠方の主要石油関連施設をも攻撃している。
それには、飛行経路上にある防空兵器をすり抜けなければならないが、ウクライナ軍は目標に命中させ大きな損害を与えている。それも狙った施設の心臓部に命中させているのである。
図1 ウクライナによるロシア深部攻撃概要
出典:各種情報に基づき筆者作成
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さらに、ウクライナ軍は、ロシア自慢の防空監視レーダーや防空ミサイルなどの防空システムを無人機などで攻撃し破壊している。無人機を撃墜する手段となっているロシア防空システムが、逆に攻撃され破壊されているのだ。
ウクライナ参謀本部の推計では、ロシア軍が失った防空関連装備は2026年8月11日時点で1560基に上る。
だが、これについての詳細なデータは公表されていないので、写真や映像で視覚的に確認できた損失を、破壊・損傷などに分類して掲載しているオランダのウエブサイト「Oryx」の数値が参考になる。
今回は、ロシア国内深部に対するウクライナ長距離無人機の攻撃とロシアの防空を主体に考察する。
ウクライナ無人機攻撃成功の理由
(1)ウクライナ長距離無人機の進化
ウクライナ軍は、長距離無人機をロシア領内の奥深くまで長距離飛行させ、その深部を攻撃している。さらに、撃墜されにくい機体を開発し、改良してきた。その概要は、概ね図2のとおりである。
図2 ロシア領内深部を攻撃できる主な無人機(イメージ図)と進歩
出典:各種情報に基づき筆者作成(各機の大きさは概ね同一縮尺)
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具体的には、ウクライナ軍は、2023年5月に中型の「ビーバー」(Beaver、飛行可能距離約1000キロ)でモスクワを攻撃した。
この機の搭載爆薬は約20キロと少なく破壊力は限定的だが、小型で探知されにくい特性を生かして、1000キロ以内の目標には現在も使用されている。
2024年4月、軽飛行機を無人機に改造したもので、100~300キロの爆薬を搭載可能な「Aeroprakt A-22 Foxbat」と「Skyranger Nynja」は、ウクライナ国境から1200~1300キロ離れた石油関連施設や軍事工場を攻撃し成功した。
とはいえ、この2機種は搭載爆薬量が100~300キロと破壊力は大きいものの、小型無人機と比べレーダー反射面積やエンジンが比較的大きいため、ロシアに発見され、赤外線誘導方式の防空ミサイルに撃墜される可能性がある。
最近の映像では確認できていないことから、今はほとんど使用されていないようだ。
ウクライナ軍は、ロシア領内に深く入り込んで攻撃する際、飛行中の被探知・被撃墜リスクを下げるため、無人機のレーダー反射面積を小さくし、さらにステルス性能を有する素材で製造する必要があった。
そこで登場したのが、搭載爆薬を比較的少なくして長距離を飛行できる「FP-1」(搭載爆薬は約60キロ)と飛行距離を犠牲にして、搭載爆薬を増量した「FP-2」(最新型では同200キロ級)である。
ウクライナ国境から遠く離れたロシア領内の製油所・軍事工場・ネット通販倉庫などを攻撃しているのは、主にこのFP-1である。
(2)長距離監視・早期警戒レーダーにも攻撃を拡大
ロシア軍は冒頭で述べたような用途の異なるレーダーを組み合わせ、航空機やミサイルなどの動向を広域で監視してきた。
ウクライナ軍は2024年、これらのうち弾道ミサイル早期警戒用のVoronezh系列やOTHレーダー、航空監視用レーダーなどにも攻撃対象を広げた。
この監視レーダーを破壊するために、一つの目標に複数の無人機を突入させたこともある。レーダー破壊の重要性を認識していたことが分かる。
具体的には、以下の通りである。
2023年末から2024年10月頃まで、次の目標に対する攻撃を実施した。
①自爆型無人機にロシア国内を飛行させ、弾道ミサイル早期警戒網を構成するVoronezh系列のレーダー基地2か所(クラスノダール州アルマビルとオレンブルク州オルスク)。
②モルドビア共和国コヴィルキノの1か所のOTHレーダー(同2000~3000キロ)基地。
③ウクライナに隣接するブリャンスク州やクルスク州に移動展開していた移動式監視レーダー「Nebo」(同数百キロ)2基。
(3)ウクライナはロシアの短・中・長距離防空兵器の順で破壊
Oryxのロシア防空兵器損失データ(兵器破壊の映像と破壊年月日)をグラフにすると、短距離防空兵器の損失のピークは2022~2023年、中距離防空兵器は2023年~2024年、長距離防空兵器は2024年~2025年であった。
ここから読み取れるのは、ウクライナ軍はロシア軍の短・中・長距離防空兵器の順で破壊する意図があったのではないか、ということだ。私がそう考える理由は二つある。
一つは、ウクライナが短距離から次第に長距離を飛行できる無人機を開発したこと。
もう一つは、ロシアの深部に存在する主要インフラを叩くために、目標に到達するまでの途中経路の防空兵器、つまりウクライナに近い位置に配置されている兵器から破壊する必要があったことである。
グラフ1 ロシア各種防空兵器(短・中・長距離区分)損失の推移
出典:Oryxのデータをグラフ化し、筆者がコメントを入れたもの
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ウクライナ参謀本部が発表している日々のリポートによると、ロシア軍の長・中・短距離防空ミサイル、監視・射撃管制レーダーなど各種防空関連装備の損失数は、2026年8月11日時点で約1560基だったという。
その推移を見ると、ロシアの防空兵器システムは2022年~2024年の間に多数破壊され、その後2025年と2026年には、損失数が減少している(グラフ1)。
減少と同時に、ウクライナ軍の無人機がロシア国内の重要施設の破壊に成功し始めている。ここから考えられる一つの仮説は、防空装備の継続的な損耗がロシアの防空能力を圧迫している可能性だ。
防空兵器、特に監視レーダーや射撃システムはいったん破壊されると、その修理や製造には1年から数年の期間が必要になるため、早急に補充することは難しい。
その結果、ロシア深部の石油関連施設や重要インフラ破壊を許しているのではないだろうか。
もちろん、損失数の減少だけから防空兵器の保有数減少を直接推定することはできない。ただ、継続的な装備損耗が広大な国土をカバーするロシアの防空態勢に負担を与えている可能性はある。
(4)前線から離れたS-300/S-400長距離防空兵器までも破壊
ロシアの主力長距離防空システムであるS-300/S-400系列は、航空機や巡航・弾道ミサイルへの対処を重視している。
数百キロ規模の捜索・追尾能力を持ち、使用するミサイルによっては数百キロ先の航空目標への対処も可能とされる。
また、長距離レーダーの盲点である低高度を監視するレーダーも保有している。このため、侵攻前には欧州からはこのシステムは鉄壁の防空とみられていた。
加えて、この防空システムは、敵の砲弾やFPV(First-Person View、一人称視点)ドローンが飛来しにくい前線から遠く離れた場所に配置される。そのため、敵から攻撃を受ける可能性は比較的低かった。
だが、この防空システムは、小型でレーダーの反射面積が小さく、数百メートルの低空を飛行して接近してくるウクライナ軍の中・小型無人機に対しては弱点を露呈した。
小型・低速・低高度の無人機への対処は費用対効果や探知・交戦条件の面で不利になりやすいのだ。
この防空兵器は、戦闘機の接近を抑止できる。しかし、無人機はロシア防空網の穴を突いて攻撃してくる(図3参照)。
Oryxの視覚確認データを筆者が集計したところ、この無人機による攻撃で防空システム(ミサイルや各種レーダーなど)が年間に10~20基破壊されている。
防空兵器が破壊され続けると、各地の防空カバーに穴が開く。こうしてできたレーダー監視や迎撃態勢が手薄になった空域に、ウクライナ軍は無人機を飛行させることができるようになる。
さらに、ロシア軍の防空ミサイルはウクライナに供与された「ストームシャドウ」巡航ミサイルを十分撃墜できていない。
実戦では、公表された最大性能を発揮できない条件も多いとはいえ、ロシア製防空システムが実戦環境でどこまで能力を発揮できるかは、今回の戦争における重要な検証対象となっている。
