曖昧な停戦覚書が生んだ新たな火種、マラッカ海峡の共同管理モデルは使えるのか

樋口 譲次

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2026.8.14(金)

中東地域に展開している米空母「ジョージ・H・W・ブッシュ」から発艦する戦闘機(7月29日、米中央軍のサイトより)

曖昧な停戦合意「覚書」が問題を複雑に

 2026年2月28日に始まった米国とイスラエルによるイランへの軍事作戦は、イランの執拗な反撃を招き、ホルムズ海峡を経由する商船に対する脅迫や攻撃を通じて世界のエネルギー需給を混乱させ、世界経済に深刻な打撃を及ぼしている。

 4月7日の米国とイランの停戦が発効し、主要な作戦・戦闘はいったん停止した。

 しかしイランは、海峡の支配を対米戦略の切り札と位置付け、それを維持しようとこれまでの航路ではない自国領海の通航を強いたり、従わない船舶を攻撃したりした。

 これに対し、米国は、イラン港へ往来する船舶の航行を封鎖して対抗した。

 6月17日、米国のドナルド・トランプ大統領とイランのマソウド・ペゼシュキアン大統領は、停戦を60日間延長し、米国によるイラン港湾の封鎖解除とホルムズ海峡での商船通航再開などを定めた覚書(MOU)に署名した。

 この際、海峡の将来の管理は、イランがオマーンや他のペルシャ湾(湾岸)諸国と協議して決定することとされた。

 しかしイランは、覚書によって海峡を管理する権利を得たと主張し、同海峡に対する前例のない支配を確立しようとしている。

 イランは、海峡を通過する商船への攻撃を再開するとともに、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、クウェートやバーレーンなど湾岸諸国への攻撃も繰り返した。

 これを受け、米国も海上封鎖に戻り、双方の応酬が続いている。

 このように、停戦合意「覚書」は表現が曖昧で、米国とイラン双方や関係国が国内向けに「自国の勝利」と都合よく主張する材料となっており、今後の本格交渉や情勢の安定を複雑化させる要因となっている。

 今や、イラン戦争を終結させるための焦点は、海峡の管理と安全保障に移っている。

 海峡の両岸に位置し領海を接するイランとオマーンは、この問題の直接の当事国であり、そのため海峡の管理に関し交渉を続けている。

 8月9日付ロイター通信によると、イランのアッバース・アラグチ外相は、オマーンとの新航路をめぐる合意は「最終段階」にあると述べた。

 イラン最高国家安全保障会議(SNSC、議長は大統領)のモハマド・バゲル・ゾルガドル事務局長(当時、8月9日に退任)は8月8日、海峡再開の新たな条件として、米国が海上封鎖を解除してイラン周辺から軍隊を撤退させることや、すべての制裁の解除、凍結されているイラン資金の全額解放など厳しい要求を具体的に提示した。

 さらに、後任のモフセン・レザーイ事務局長も8月11日、米国がイラン側の条件を受け入れない限り、海峡を再開しないとの姿勢を示した。

 オマーンは、交渉は「前向きで建設的」だとする一方、海峡を通航する船舶への相次ぐ攻撃を批判した。

 米当局も8月7日、原油輸送の再開に向け、イランとオマーンの間で近く合意が成立するとの見通しを示した。

 アラグチ外相は、従来の船舶通航分離方式はもはや受け入れられないと発言しており、どのような具体的合意に至るかは不明である。

 この際、海峡管理の参考例として挙げられるのが、マラッカ・シンガポール海峡で構築されてきた沿岸国主導の多国間協力モデルである。

 インドネシア、マレーシア、シンガポールの沿岸3カ国は2007年、IMO(国際海事機関)の支援の下、「協力メカニズム(Co-operative Mechanism)」を発足させた。一方、安全保障面では別枠組みの「マラッカ海峡パトロール(MSP)」があり、2008年にはタイも正式参加した。

 その中には、「海峡の安全かつ効率的な利用に関心を持つ業界関係者および各国からの自発的な資金拠出」を募り、マラッカ海峡における「重要な航行援助施設提供と維持」を支援する航行援助施設基金(ANF:Aids to Navigation Fund)が含まれている。

 以下、その多国間協力体制について概説する。

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