(CNN) 英国の自然科学者チャールズ・ダーウィンはかつて、ユキノシタ属の2種類の植物に粘着性の毛が生えているのを見て、食虫植物ではないかという仮説を立てた。それから150年あまりを経て、仮説は正しかったことがこのほど証明された。
ダーウィンは1857年、ユキノシタ属のサキシフラガ・ロダンディフォリアとサキシフラガ・ウンブローサが食虫植物である可能性を指摘した。一部の食虫植物と同じように、腺毛と呼ばれる毛のような突起から粘液を分泌するからだ。だが食虫植物と呼ぶには虫を誘い、捕らえ、消化吸収するという条件を満たす必要がある。ダーウィンの実験では、それが断定的に証明できなかった。
英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに今週発表された研究では、中国の青海チベット高原の南部や雲南省、四川省などにまたがる高原東端の横断山脈で花を咲かせる高山植物、サキシフラガ・カンデラブラムを使って実験が行われた。
研究チームは化学分析によって、この植物が虫の好むにおいで小さな虫を誘引し、ホスファターゼと呼ばれる酵素で獲物を消化したことを示した。また、特定の元素を質量だけが異なる同位体に置き換えて目印をつける「同位体標識」という手法で、栄養元素の「窒素15」が獲物の虫から植物へ移り、植物がそれを溶かしたことを突き止めて、捕獲から消化に至る直接の道筋を明らかにした。
さらに遺伝子解析によって、サキシフラガ・カンデラブラムとそのほかの粘着式の食虫植物との関連性が判明。獲物の誘引や消化、栄養吸収のような特性にかかわる共通の遺伝子があることが分かった。対象の範囲をほかの補虫方式にも広げたところ、さまざまな植物群で虫の消化に関係する数十の遺伝子が見つかった。研究を率いた中国科学院昆明植物研究所の孫航(スンハン)教授は、このデータを使ってほかにも隠れた食虫植物を見つけ出すことができるかもしれないと述べた。
孫氏はCNNへのメールで、「これまでに粘着性の腺毛があったり、偶発的に虫を捕らえたりすることが分かっていた植物の中にも、実際に消化吸収能力を持つ種類があるかもしれない」と述べた。「被子植物、つまり花を咲かせる植物の中には、これまで考えられていたよりずっと多くの食虫植物がありそうだ。今後、食虫植物の新たな系統が見つかるかもしれない」
少なくとも35万種に上る被子植物のうち、食虫植物と分かっているのは750種あまり。14の科で、さまざまな方式の食虫性が独立に発達した。これは収斂(しゅうれん)進化と呼ばれる現象だ。米ピッツバーグ植物園の植物学者、スーザン・マイヤーズ氏は今回の研究について、食虫性という興味深い生態に関する新たな重要情報を提供していると述べた。同氏は研究チームに参加していない。
マイヤーズ氏は、チームが食虫性に必要な形態と消化酵素を特定し、窒素に目印をつけて追跡した研究デザインを高く評価。「ダーウィンが観察と推論に基づいて予想したことを、現代の技術で確認した」と称賛した。
捕らえて食べる
研究チームのメンバーで米フロリダ自然史博物館とフロリダ大学に所属するダグラス・ソルティス教授は、過去40年以上にわたりユキノシタ科の植物を研究してきた。その間ずっと、一部に食虫植物が含まれる可能性を認識していたという。
「ユキノシタが属する科には粘着性の腺毛を持つ種類が多く、虫が張りついているのを見かけることも多い」と、ソルティス氏は言う。だが腺毛で虫を捕らえたからといって、その虫を消化するとは限らない。草食動物から身を守る構造として毛が生えている可能性もある。
チームはダーウィンと同じように、まず野外環境と制御された条件下で植物を観察することから始めた。成熟した個体のほとんどが何十匹かの虫を捕らえていた。その数は最大で70匹にも上った。虫が好むことで知られている化学物質を使い、においで獲物を誘い込むことも分かった。花粉を運ぶ大きめのハエが腺毛のわなにはまることはなく、受粉に使えない虫だけを捕らえている様子がうかがえた。

サキシフラガ・カンデラブラムは虫の好むにおいで小さな虫を誘引し、酵素で獲物を消化する/Xin-Jian Zhang via CNN Newsource
獲物の虫には窒素が豊富に含まれている。多くの食虫植物に共通する進化の原動力は、自生地の土壌に窒素供給源となる硝酸塩が乏しいという環境だ。
「食虫植物も光合成で自ら養分を作り出すことができるが、硝酸塩も必要だ」「これは土壌に硝酸塩が少ない場合に出現した適応のひとつだ」と、ソルティス氏は説明する。標高2500~3300メートルの乾燥した、養分の乏しい岩場で育つサキシフラガ・カンデラブラムにとって、虫を食べるという戦略は理にかなっている。
ソルティス氏によると、食虫植物の自生地が高山だった例は過去にない。「ウツボカズラやハエトリグサのように、大半は沼地に分布する」という。孫氏によれば、人里離れた高地に育つことのメリットのひとつは、今のところ気候変動や人間活動に脅かされていないということだ。

サキシフラガ・カンデラブラムは食虫植物としては珍しく高山地帯に自生する/Xin-Jian Zhang via CNN Newsource
孫氏は「サキシフラガ・カンデラブラムは現在の環境条件でよく育っている。現時点での個体数や分布範囲からみて、絶滅の恐れはない」と述べた。
「表面をかすっただけ」
ダーウィンの予言が後に正しかったと証明された例は、ユキノシタの食虫性が初めてではない。ダーウィンは1862年、アフリカの南東の島国マダガスカルに固有の星形のラン、アングレカム・セスキペダレは蜜のたまる管が長さ30センチにも及ぶのを見て、「すばらしく長い口吻(こうふん)を持つ巨大なガ」が花粉を媒介しているとしか考えられないと書いた。ダーウィンはそんな虫を見たことなどなく、1882年に亡くなった時も花粉媒介者のなぞは残った。だが1903年にマダガスカルで、30センチのストローのような舌を持つキサントパンスズメガが見つかり、ダーウィンは正しかったことが証明された。
孫氏は、今回の研究結果もダーウィンの後を引き継ぎ、科学研究が「時代を超えて続く追跡のリレー」であることを改めて示していると語った。「何世代も受け継がれてきた植物進化という分野の基礎研究における、切れ目のない学術的遺産の真価を、この結果から実感することができる」と、同氏は言う。
マイヤー氏は、サキシフラガ・カンデラブラムが食虫植物と確認されたことにより、植物の世界は驚きに満ちていること、まだ見つかっていない秘密がたくさんあることを思い知らされると述べ、「私たちはまだ、植物に関する知識の表面をかろうじてかすっているにすぎない」との認識を示した。
