
開幕まであと3日。新加入選手9人を迎えた大分トリニータは、新たなシーズンへ向けた最後の仕上げに入っている。その中心に立つのが百年構想リーグから引き続きでキャプテンを任された榊原彗悟だ。
キャプテン就任は本人にとっても突然だった。後援会主催の激励会の約30分前、四方田修平監督から「お願いしたい」と告げられ、その日のうちに発表されたという。断る間もないほど慌ただしい任命だったが、それだけ監督からの信頼が厚い証でもある。
百年構想リーグで初めてキャプテンマークを巻いた榊原は、責任の重さと向き合い続けた。「いろいろ考え過ぎてしまって自分のプレーに集中し切れない部分があった」。チームを背負おうとする気持ちが強いほど、自分自身を見失う瞬間があった。その苦い経験が2季目のキャプテンとしての考え方を変えている。
気負わず、自然体でシーズンに臨む
新加入選手には経験豊富な選手が多く、リーダーシップを発揮できる選手も少なくない。だからこそ榊原は「自分一人で引っ張る」のではなく、「周りの力を借りながらチームをまとめる」ことを選んだ。「まずは自分の持ち味をしっかり出すことがチームの力になる。それをやりながら全体をコントロールし、仲間を鼓舞していきたい」と語った。
背負い込むキャプテンから、仲間を信じるキャプテンへ。その変化は今のチームにも通じる姿勢だ。榊原が今、何より強調する言葉がある。「戦う」ということだ。それは激しいタックルや球際だけを意味しない。切り替えを速くすること、戻るべき場面でしっかり戻ること、目の前の1対1で負けないこと。派手さはないが勝敗を左右する基本を全員が徹底できるかどうかだ。
「そういう積み重ねができないと、このリーグでは勝てない」(榊原)。開幕前だからこそ、あえて耳の痛い課題にも目を向ける。ゴール前でのミス、球際の甘さ、戦う姿勢―。積み上げてきたものへの自信と足りない部分への危機感。その両方を持ち合わせているのが今の大分だ。
課題ばかりではない。百年構想リーグから継続して取り組んできた攻撃は、前進できる回数が増え、相手を押し込む時間も長くなった。しかし、榊原は満足しない。「最後に仕留め切れなければ意味がない」。チャンスをつくるだけでは勝てない。ゴールという結果まで結び付けて初めて成長と言える。視線は常に勝利へ向いている。
同級生の林田(右)とは気心の知れた仲
課題を埋める存在として期待されるのが新加入選手たちだ。経験豊富な選手、身体能力で違いを生み出す選手、チームをまとめる選手。それぞれの個性が融合し始め、チーム内の競争も活性化している。中でも榊原が注目選手に挙げたのが、地元・大分市出身の林田滉也だ。「中盤で高さがあって技術もある。柔軟性もあって攻撃のテンポをつくってくれる選手」。
今季は榊原自身も一列前でプレーする機会が増えそうだ。林田とのコンビで攻撃を組み立て、前線へ決定機を送り込む役割を担う。「一番いい形はフォワードがゴールを決めること。自分や滉也でチャンスをつくっていきたい」。自ら得点を狙うよりもチーム全体が勝てる形を最優先に考える。その言葉にもキャプテンらしさがにじむ。
そういえば、キャプテンマークにも小さなこだわりがある。本当はクラブカラーでもある青を巻きたい。しかしホームでは見えにくいため黄色を着用することが多いという。しかも、「腕が細いためキャプテンマークは特注品」と笑う姿には気負いよりも自然体のリーダー像が映る。
開幕戦で榊原が見せたいのは、派手なゴールでも華麗なプレーでもない。誰よりも走り、誰よりも戦い、攻撃のリズムを生み出すこと。そして仲間を鼓舞し続けること。その背中を見てチームが動き出したとき、チームは新たな一歩を踏み出す。2季目のキャプテンが示すのは言葉ではなくプレーで導くリーダーシップなのだ。 (柚野真也)
