この世はすべて——東京もまた、一つの舞台だ。私たちは皆、毎日いくつもの役を生きている。自分の人生では主役でありながら、他の誰かの人生では脇役となり、電車の中のエキストラに過ぎなかったりもする。俳優、詩人、脚本家として活躍するジェイ・竜人・ウェスト氏が東京で暮らし、仕事をするようになって約30年になる。本記事では、カナダで多文化・多言語に囲まれて育った経験、北米と日本でのキャリア、そして東京とそこに暮らす人々から尽きることなく受け続けているインスピレーションについて語ってもらった。

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ジェイ・竜人・ウェスト氏は、俳優としての国際的な経験から、東京に対して独自の視点を持つようになった(スタイリング:吉田洋平)

複数の世界を行き来して

 日本人の母とフランス系カナダ人の父のもと、カナダのバンクーバーで生まれたウェスト氏は、言葉の交響楽の中で育った。英語に加え、フランス語と日本語も流暢に話す。その語学力は、幼い頃からフランス語を使って学ぶイマージョン教育と日本語教室に通わせてくれた両親の先見の明のおかげだという。

 複数の言語に触れて育ったことは、文化によって物事の見方が異なることへの気付きにもつながった。「最初にその違いを感じたのは、竜でした」とウェスト氏は話す。「西洋文学に登場する竜はたいてい、大きくて恐ろしい火を吐く怪物です。でも日本神話では慈悲深く賢明で、どちらかといえば水と結びついている。同じモチーフに対して、二つの文化がこんなにも違う解釈を持ち得るということが、とても面白いと思いました」

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多文化的な生い立ちが、ウェスト氏の視野を広げ、豊かな想像力を育んだ

 ウェスト氏が演技の世界と出会ったのは、バンクーバーで暮らしていた12歳の頃だった。「姉が演劇をやっていて、地元で行われる『王様と私』の舞台オーディションを受けるよう勧めてくれたんです。なんとか王子の役をもらえて。その後、教育テレビ番組『KidZone』にも出演が決まり、7年間続いたその番組が、カメラの前で存在感を発揮する力を身に付ける上で、本当に大きな経験になりました」

 ウェスト氏はさらに、北米のテレビドラマ『21 Jump Street』『Highlander』、そしてカナダのファンタジーシリーズ『The Odyssey』にも出演した。後者では、バンクーバー出身の同郷人であるライアン・レイノルズ氏と共演している。「彼の才能は当時からすでに光っていました。特にアドリブの上手さは抜群でしたね」。ウェスト氏自身の演技も監督に強い印象を残し、シーズン1で演じた役が死亡したにもかかわらず、シーズン3に別の役で復帰することとなった。

 多言語に囲まれ、異なる文化の間を行き来してきたことは、俳優という職業を選ぶことにも影響したのだろうか。「きっとそうだったと思います」とウェスト氏はうなずく。「俳優は、どんな役を演じるときも、自分自身の何かをその役に持ち込みます。でも、説得力をもって他の誰かになりきるには、適応する力も必要です。物事をさまざまな角度から見られることは、役づくりにおいても大きな強みになっています」

日本で広がった新たな可能性

 1998年、MTVアジアが英語と現地語の両方を話せるVJ(ビデオジョッキー)を探しているという話がウェスト氏の耳に入ってきた。デモ映像を送った彼は、ほどなくして東京行きの飛行機に乗っていた。「本当にワクワクしました」と笑顔で振り返る。「単なる仕事の機会以上のものでした。自分のまったく別の側面を探り、日本という場所で自分が何者かを発見するための機会だったんです」

 キャリアの面でも、東京はウェスト氏に大きな実りをもたらした。映画やテレビドラマに加え、日本では数多くのCMにも出演。東京ガスのCMで演じたユーモラスなベートーヴェン役は印象深い仕事の一つだ。近年では、サッポロビールカナダの2024年キャンペーン『The Katana』でバーテンダー役とナレーションを担当。東京で積み重ねたキャリアが、海外の視聴者と日本を結ぶ仕事にもつながっている。日本の現場に挑むにあたって、最初は戸惑いや試行錯誤も避けられなかった。それでもウェスト氏は、自身の国際的なバックグラウンドが仕事に生かされていると感じている。「俳優という仕事の本質は、世界中どこへ行ってもそれほど変わりません」と彼は語る。「つまるところ、私たちは語り部なんです。役に持ち込めるものは多ければ多いほど良いと思っています」

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東京での生活に刺激を受けたウェスト氏は、俳優の仕事と並行して執筆やスポークンワード・ポエトリーにも取り組むようになった。2026年5月には回顧録『Dragon Man: An Actor’s Transformation』を刊行した

 東京で暮らす中で、ウェスト氏は言葉を「意味」だけでなく「響き」の面からも見つめ直すようになった。詩を書き始めたのは、来日してすぐのことだった。「最初は、なかなか人に見せる気になれなくて。でも、東京で一緒に仕事をした監督の一人が背中を押してくれたんです。それが、スポークンワード・ポエトリー(詩の朗読パフォーマンス)を本格的に始めるきっかけになりました」

 その最初の試みは2000年、J-POPシンガーのオリヴィア・ラフキン氏とのコラボレーションという形で実現した。彼女のソロデビュー・アルバム『synchronicity』の2曲に声を提供したのだ。以来、ウェスト氏のスポークンワード・ポエトリーは日本語と英語を自在に織り交ぜながら、多彩な音楽ジャンルを伴奏に取り入れつつ、進化を続けてきた。近年は、マルチメディア作品『Dragon of Possibility』をYouTubeで発表し、回顧録『Dragon Man: An Actor’s Transformation』を執筆。信念と演技、そして自己発見が深く結びつくさまを探求した一冊となっている。

 「結局のところ、私の根っこにあるのは、人の声に魅せられているということなんです」

東京という鏡

 東京をこよなく愛するウェスト氏は、生活の場としても尽きないインスピレーションの源としても、この街を心から評価している。「東京はとにかく刺激的です。アイデアのほとんどは、街を歩いているだけで浮かんでくるんです。目に入る景色だけでも十分ですが、それに加えて音があり、質感があり、そして何より素晴らしい食文化があります」

 ウェスト氏を2018年から2019年にかけてカナダへ呼び戻したきっかけも、和食との縁だった。リアリティ料理番組『Iron Chef: Canada』で主宰を務めたのだ。1990年代のオリジナル版『料理の鉄人』で鹿賀丈史氏が演じた伝説の主宰者像を引き継ぐべく全力で臨んだ。

 この経験を通じて、日本と世界との距離がいかに縮まったかを改めて実感したという。「カナダに戻って、そこにいるのはカナダ人シェフばかりなのに、和食について驚くほど詳しいんです。どのだしが一番良いかといったような話題まで、深い議論が交わされていました」

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ウェスト氏にとって東京は、芸術的なインスピレーションと内省を与えてくれる街だ

 東京の巨大さに圧倒されそうになるとき、ウェスト氏はこの街の豊かな緑に安らぎを見いだす。「アーティストとしても、一人の人間としても、インスピレーションは欠かせません。でも、それと同じくらい、立ち止まって振り返る時間も大切です。新宿御苑のような場所が好きですね。自然が主役になって、しばらくの間、街の気配が遠のいていくんです」

 こうした内省のための空間こそ、ウェスト氏が東京で何よりも大切にしているものだ。「この街は鏡なんです。自分が何者なのか、何者ではないのか、そして何者になり得るのか、そのすべてが至る所に映し出されています。東京は、自分自身を、そして自分の『声』を見つけるのに最高の場所です」

ジェイ・竜人・ウェスト

取材・文/トレバー・キュー
写真/穐吉洋子
翻訳/舘山未来

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