イランのマシュハドに埋葬された前最高指導者ハメネイ師の棺(7月9日、提供:Iranian Supreme Leader’S Office/ZUMA Press/アフロ)

(英エコノミスト誌 2026年7月11日号)

国粋主義的なイランの新指導部はこけおどしを歓迎するかもしれない。

 それは殺害されたイスラム教シーア派の聖職者への伝統的な追悼というよりも、勝利を祝い、力を誇示し、米国との次の対決に向けてときの声を上げるパレードだった。

 6日間に及ぶイランの前最高指導者アリ・ハメネイ師の葬儀は、「米国に死を」というシュプレヒコールで彩られた。集まった人々は復讐を意味する赤い小旗を掲げた。

 ドナルド・トランプ米大統領の大きな写真に石を投げつけたり、同氏の人形を縛り首にしたりした人もいた。

停戦破りの攻撃の応酬

 そして葬儀の3日目と4日目、イランの体制の精鋭部隊である革命防衛隊(IRGC)がタンカー3隻をドローン(無人機)で攻撃した。

 ホルムズ海峡を通過する際にイラン指定のルートを無視した、というのがその理由だった。

 将軍たちの狙いがトランプ氏を挑発することにあったのなら、その試みは成功したように見える。

 トランプ氏は7月7日にイラン攻撃を命じ、イラン産原油の禁輸措置棚上げを撤回した。

 8日にはトルコ・アンカラで開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会談の席でイランの支配者たちを「クズ」と呼び、「彼らに関わるのは時間のムダだ」と言い放った。

 米国はイランとディール(取引)を行わず、再度イランを「激しく」攻撃するかもしれないと示唆した。

 米国は7日夜にイラン南部に数十回の攻撃を行い、8日にもこれを繰り返した。それでも、トランプ氏の言葉はこけおどしかもしれない。

 米国とイランの交渉担当者は、イランの核開発プログラムをめぐる最終合意を目指して7月11日にパキスタンの首都イスラマバードで交渉を再開する予定を変えていない。

 だが、双方がけんか腰になっているように見える。

 ハメネイ師の死去を経て登場した指導部は、強さを前面に打ち出し、外交ではなく軍事的圧力によってトランプ氏を少しずつおとなしくさせたいと思っているように見える。

 米国からの連日の攻撃に対し、イランはバーレーンとクウェートへの攻撃で応じた。7月9日朝には原油価格が1バレル80ドルに達し、イランの通貨リヤルは下落した。

 観測筋は再び、イランは世界経済よりも経済的な苦痛に耐えられると予想した。イラン側の交渉責任者であるモハマドバゲル・ガリバフ国会議長は7月8日、「我々は折れない」とソーシャルメディアに投稿した。

葬儀に見えた新たな支配構造の片鱗

 葬儀からはイランを支配する新たな構造と一部のイラン人が第二共和政と呼ぶものの輪郭が垣間見えた。

 まず、このイスラム共和国を立ち上げたルホラ・ホメイニ師が1989年に埋葬された時の特徴だった伝統的な儀式が今回は行われなかった。ホメイニ師の遺体はシンプルな白布にくるまれて死去の3日後には埋葬された。

 対照的に、ハメネイ師の最後の儀式については準備に126日間を費やした。イラン政府当局者はこれを史上最大の国葬だと評している。

 棺は6日間でイランおよびイラクの5都市を回り、その移動距離は2600キロに達した。

 葬儀では現体制の重心が移動したことも明らかになった。

 最上位の席に陣取ったのは戦争を指揮した革命防衛隊の将軍たちで、壇上にはイランの国旗が掲げられた。

 棺の側面も国旗で覆われ、そのふたの上にはハメネイ師の黒いターバン――彼が37年間統率してきた聖職者の支配階級の象徴――がほとんど目立たないように置かれていた。

 権力を継承してから100日以上経った今も、ハメネイ師の息子で後継者のモジタバ・ハメネイ師はまだ公の場に姿を見せていない。たとえ姿を現しても、お飾りの指導者にすぎないことが分かるだけかもしれない。

 テレビで流れたモジタバ師の声明文は、説教というよりは軍のコミュニケ(公式発表)のようだった。

 葬列の移動ルートに沿って配置された革命防衛隊の部隊とイラクの民兵は、集まってきた人々を統率し、食料と水を配布した。

 イランの支配者たちは自分たちの最高指導者のみならず、最高指導者が率いた聖職者階級も一緒に埋葬しているかのようだった。

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