伊藤 隆太

戦略コンサルタント

中国の景気が低迷を続ける中、撤退したり事業を縮小したりする日本企業が相次いで報じられている。戦略コンサルタントの伊藤隆太さんは「三菱自動車もホンダも、資本と技術を中国に縛られる前に手を打った。一方、中国市場で勝ちすぎたドイツ企業は、巨大な投資が足かせとなり、動けなくなっている」という――。


たくさんの車を背景にした中国国旗

写真=iStock.com/Scharfsinn86

※写真はイメージです



ドイツ車は中国に賭け、日本車は逃げた

2020年、中国政府が不動産の過熱を抑えようと規制を強めた結果、大手デベロッパーが次々と経営破綻に追い込まれた。バブル崩壊から約5年、住宅価格はいまも下がり続けている。住宅価格の下落やデベロッパーの債務問題は、建設業だけの不況にとどまらず、地方財政、家計消費、若年層雇用、外資企業の投資判断にまで影を落としている。


中国国家統計局の集計によれば、5月の小売売上高は前年同月比0.6%減と、2022年12月以来初めて減少した。1~5月の不動産投資も16.2%減と落ち込みが続く。


中国への資本の入り方も変わった。中国商務省のデータでは、2025年の対中外国直接投資(FDI)は前年比9.5%減の7477億元にとどまった。


かつて中国は、多少の政治リスクを抱えても入り込む価値のある巨大市場だった。いまは市場の大きさそのものが、供給網、技術、資本を一つの政治空間に縛りつけるリスクにもなっている。


巨大な中国市場に深く入り込んだ企業と、中国以外でも作り、調達し、撤収できる余地を残した企業のどちらが、経済安全保障の時代に企業価値を守ったのか。答えは後者だ。中国で売る力より、中国に止められても作り、売り、逃げられる力のほうが重くなった。


中国バブル崩壊後の5年は、その転換を日本企業とドイツ企業の差として浮かび上がらせた。


三菱自動車やキヤノンは、中国での生産や利益の出にくくなった事業を縮小し、損失が膨らむ前に手を打った。ソニーやホンダも、中国への一極集中を避ける生産体制の見直しに動いた。


対照的に、フォルクスワーゲン、BMW、ポルシェといったドイツ車メーカー、世界最大手の総合化学メーカーBASなど、中国で成功してきたドイツ勢は、中国市場との深い結びつきがかえって身動きの取れなさに変わりつつある。


明暗を分けたのは、中国市場を好きか嫌いかではない。技術や人材、資本、供給網が中国に縛られる前に動けたかどうかである。


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