特集です。高知県が進める新しい県民体育館の基本計画案が6月、有識者でつくる検討会で承認されました。
基本計画は、当初の内容から変更され、課題も山積しています。
検討会のこれまでの流れや専門家の話を通して今後の課題を考えます。
高知市桟橋通の県民体育館は完成から50年以上が経ち、老朽化が進んでいます。
県は、現在の場所で、体育館を建て替える方針をとり、2025年7月に有識者による検討会を立ち上げ年度内での基本計画の策定を目指し議論してきました。
県は当初、新しい体育館についてアリーナ機能を重視した「プロスポーツやエンタメによる地域活性化の拠点」と位置づけました。
プロスポーツの試合やコンサートが開催できる5000人収容のメーンアリーナを整備し、2029年度からの供用開始を目指しました。
■県観光振興スポーツ部 小西 繁雄部長
「アスパルこうちのグラウンドを全面、お貸しいただきたいという案になっています」
県は、再整備に向けて隣接する高知市の教育施設「アスパルこうち」のグラウンドを取り込む考えを示しました。
これに対して、グラウンドを利用する不登校児童・生徒の保護者が反発。
高知市は、県に、「教育施設への配慮」や屋内プールの整備などを要望し、県は、グラウンドの全面利用にともなう代替案として、施設の屋上に人工芝のグラウンドを設け、屋内プールを整備することにしました。
同じく、老朽化が進んだぢばさんセンター大ホールの機能を集約するため地下駐車場の整備も盛り込まれました。
当初よりも多くの機能が盛り込まれたことで、新しい体育館の方向性は当初に掲げた「アリーナ機能重視」から「社会体育施設にアリーナ機能を融合した複合施設」に変わりました。議論の前提が変わったことで基本計画の策定は年度をまたぐことになります。
ここからは取材にあたった林記者とともにお伝えします。
体育館の再整備に向けて県が、アスパルこうちのグラウンドの利用やぢばさんセンター大ホールの機能の集約に動いた背景には、何があるのでしょうか。
はい。それは、体育館の建て替え費用となる財源です。
県は、建て替え費用に209億円を見込んでいますが、そのうち、半分程は公共施設の集約化などに使う国負担の「地方債」を活用する考えです。
「地方債」を活用するには、集約する新しい施設の面積を古い施設よりも小さくする必要があります。
県は、老朽化が進んだ現在の県民体育館と県立武道館、ぢばさんセンター大ホールの3つを集約させることでその条件を満たそうというねらいがあります。
ぢばさんセンター大ホールの機能を集約するためになぜ地下駐車場を整備する必要があるのでしょうか。
ぢばさんセンター(大ホール)については当初、経済団体から、駐車場などの使い勝手の良さなどを理由に存続の声があがっていました。これに対し、県は、「250台以上の地下駐車場を整備する」として経済団体に了承を得た経緯があります。
一方で、県民体育館の周辺は、最大で2メートルから3メートルの津波浸水が想定されるため、地下駐車場の整備は施設の安全性という点で新たな懸念が出るかたちになりました。
県は何か対策を考えているのでしょうか。
はい。県は対策として、「出入り口に止水板や土のうなどの設置」、「地下駐車場から垂直避難できる階段、ルートを複数確保する」ことなどを示しています。
県が示した対策は、有効なのか。津波対策などの防災に詳しい高知工科大学の佐藤愼司教授に聞きました。
■ 佐藤愼司教授
「ここ(基本計画)に書いてあるのは、どちらかというと、大雨の浸水対策には有効。止水板をつくるとかですね、そういうのは有効なんですけど、津波の場合は、もう少し規模が大きいので、ドアを止水構造にするとかですね。それから外から。外だけが浸水して、水圧がかかっても大丈夫な設計にするとかいうふうにするのが普通です。ですので、それが駐車場の入り口っていうのは、これはもう駐車場にならないので、なかなかこの津波に対して、地下駐車場の浸水を防ぐというのは、難しいんじゃないかなというのが正直な感想」
佐藤教授は、地下駐車場の浸水対策よりも避難計画を綿密につくることに重点を置いた方が良いと強調します。
■ 佐藤愼司教授
「避難が優先できるように。車を何とかしようというような、人々の思いがあまり働かないように、避難計画をきちんと立てていただきたい。津波はいつ起きるか分からないので。イベントの開催中かもしれないし、開催前で人が集まる段階かもしれないので、それはいろんな場合を想定した上で、きちんと、まず人命だけは救うという計画をきちんと立てていただきたい」
施設整備などのハード面、避難計画などのソフト面、ともに課題がありますね。
この他に、再整備に向けた課題は、何があるのでしょうか。
はい。県が5月に実施したパブリックコメントに寄せられた意見の中には、交通渋滞による近隣住民への影響を懸念する声が複数あがっていました。今回の体育館再整備について、地域の人に話を聞きました。
県民体育館の近くで45年以上、学習塾を経営している岡田正隆さん(74歳)です。
体育館は、幹線道路に面していますが、現在の駐車場の出入り口に通じる道路などは、広くありません。
■岡田正隆さん
「ここはものすごく注意して。横断歩道と自転車が左右から来ますので。道路へ出る時も、右からの車。電車道の両方からの電車。向こうへ渡る時の、左からの車。さらに(向かいの)高知工業高校からの車が出てくることがありますので、本当にうんと注意して渡るようにしてます。だから、アリーナができて、地下駐車場にどこから入るか。交通事故等、今のでも心配している」
岡田さんは、にぎわいが地域に生まれると建て替えを歓迎する一方で、交通渋滞の緩和をどうするか、津波対策はどうするのか心配が尽きません。
■岡田正隆さん
「やっぱり若い人たちが楽しめるものが、あったらいいなとは思う。ただ、ここは父の代からそうですけど、津波とか台風とかうんと心配したところですので、それで地下駐車場いうたら、ものすごく心配」
ちなみに、県は、新しい体育館の駐車場の出入り口を現在とほぼ同じ場所につくる計画です。
このほかにも、施設の建て替えにともなう周辺の住宅への日照、日影、騒音対策も課題にあがります。
さらに、建て替えの費用も物価高騰の影響で上振れが確実な状況です。
このような、たくさんの課題に対して、どのような解決策を示し、県民を納得させていくのか。県は、6月10日、基本計画の最終案をまとめました。
6月10日に11回目となる検討会が開かれ、県から基本計画の最終案が示されました。これまでに県が説明してきた内容から大きな変更はないものの、利用開始の時期は当初の2029年度から2031年秋ごろに後ろ倒しとなりました。
委員から異論はなく、計画案は承認された一方、今後も必要に応じて、計画の修正などの柔軟な対応を求める意見が出ました。
■石塚悟史委員長
「いろんな段階で計画の見直しとか修正が起こってくる。そのなかでいかに県民にしっかり意見を求めて対応できるような形に今後できるかというのが大事。修正にも対応できるようにしていければと、県にはお願いしたい」
■県観光振興スポーツ部 小西繁雄部長
「使っていただく皆さまの声をしっかりと設計の段階で、反映させていただきながら、様々な機能をしっかりと使いやすくなるような、そういった設計を今後も目指していきたい」
県は、6月25日に開会予定の6月議会で基本計画の最終案を報告し設計費用などを補正予算案に計上する予定です。
県民体育館の再整備に向けた本格的な議論がようやく始まったといえます。
