SOCIETY
4min2026.6.17
戦死した息子の子供がほしい

Photo: Shabtay Emanuelov / Getty Images
Text by Meghan Davidson Ladly
戦争が続くイスラエルやウクライナでは現在、生殖医療が盛んだという。戦地で命を落とした兵士の精子を凍結し、パートナーや家族の希望のもとで「子供をつくる」ことが許されている。
それは遺された人たちの希望になるかもしれないし、国家単位で見れば戦争で失ったぶんの人口を「補充する手立て」になるだろう。
だけど、そもそも死んだ兵士たちは、絶対に自ら抱くことができない我が子を望んでいるのだろうか? その実情を「ニュー・ラインズ・マガジン」が取材した。
この記事は1回目/全2回
ガザ最大の不妊治療クリニックを爆破
兵役中の子供を持つイスラエルの親には、何にもまして耳にしたくない戸口を叩く音がある。
シャロン・アイゼンコット(51)がその音を聞いたのは2023年12月7日、ユダヤ教の祭り「ハヌカー」の初日の夜だった。戸口に立つ兵士たちから告げられたのは、19歳の息子マオルがガザで戦死したことだった。望むならば、軍がマオルの精子を採取して冷凍保存するという。
いわゆる「死後精子採取」と呼ばれる処置だ。3人の子供の母親であるアイゼンコットは、これを承諾した。
ガザで戦争が続いていた期間中、イスラエルの医療機関では24時間態勢で死後精子採取に対応してきた。この処置には時間の猶予があまりない。死後72時間のうちにすませなければ、生存可能な精子を確保できないのだ。戦争によって採取の要請が増えるなか、主に4つの不妊治療クリニックがその役目を担ってきた。
採取と保存の費用は国が負担するが、それで子供を作るには、地元の家庭裁判所の許可を求めなければならない。
2025年7月、イスラエル南部エイラートの家庭裁判所が示した判断は、その町で暮らすアイゼンコットが代理母を介して孫をもうけていいと認めるものだった。代理母は、生まれる子供をアイゼンコットと共同で育てることにも同意していた。
これが、いま重い意味を持つ判例となっている。戦死した兵士のパートナーが裁判所の承認を得た事例は、これまでにもいくつかあったが、親に同じ権利が認められたのはこれが初めてだったからだ。
アイゼンコットは言う。
「親が全員、家庭裁判所に訴え出るわけではありませんが、これからそれを望む人には道ができたということです」
戦死した息子が子供をほしがっていたのも、孫を作りたいと望んだ理由の一つだったが、それよりも「自分の心に空いた穴を少しでも埋めて、いくばくかの幸せを感じたい」気持ちが強かったという。
いま多くの戦争において、死んだ兵士の血脈を未来へつなげようとする試みは、珍しいものではなくなりつつある。その状況に対応すべく、法的枠組みの整備が急ピッチで進められており、アイゼンコットの事例は、まさにその一例なのだ。
生殖技術とそれに託された思いの数々が、世界の紛争でますます大きな意味を持つようになっていると言えばいいだろうか。生殖医療の技術は、国家の存亡にかかわるものとみなされるようになっており、戦時に生じる新しいタイプの倫理問題として向き合う必要が出てきている。
紛争が生殖医療に及ぼす影響は一様ではない。生殖医療施設が軍事攻撃の直接の標的になる場合もあれば、長年の戦争の影響で医療システムが崩壊し、生殖医療機能を保てなくなる場合もある。
スーダンでは、近時の戦争が始まる前から生殖技術を利用できる人は限られていたが、いまはそれも皆無に等しい。以前のイランは、生殖補助医療産業が根づいた国だったが、米国が主導する経済制裁の影響を間接的に受けて、その産業が打撃を受けた。生殖医療用の設備や消耗品が入手しづらくなっており、ときには、まったく手に入らないこともあるという。
とはいえ、生殖医療の技術への影響が顕著に出ている国と言えば、イスラエルとウクライナの2国だろう。
イスラエルは2023年、ガザでの戦争で同地区最大の不妊治療クリニック「アル・バスマ体外受精センター」を破壊し、各方面から批判を受けた。施設には約4000個の胚のほかに、凍結された精子や卵子など、子供を望むパレスチナ人から採取された生殖細胞が保管されていた。
国連の独立国際調査委員会が2025年の秋に公表した報告書では、ガザでジェノサイドが起きていると認定されており、この不妊治療クリニックへの爆撃もジェノサイドにあたる行為の一つとされている。なお、イスラエルは、同委員会のこの調査結果を否定している。
イスラエルは建国以来、早い段階から出生率を高く保つための政策を実施してきた。そのため、生殖技術に対して比較的寛容なムードがあるようだ。一方のウクライナでは、まだ忌避感を覚える人が多いという。亡くなった男性から「命を作ること」を巡る、倫理的、法的な議論はまだ続いている。(続きを読む)
This article is republished from New Lines Magazine. Read the original article.
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