「20年越しの謎解きの総決算です。30年読み継がれる本にするべく書きました」(著者)
『居るのはつらいよ』で紀伊國屋じんぶん大賞・大佛次郎論壇賞を受賞した臨床心理士の東畑開人さんが、自身の総決算として書き上げた現代新書『カウンセリングとは何か 変化するということ』(9月18日発売)。これまで世に知られてこなかったカウンセリングの現場を社会にひらき、「なぜ心は変わるのか」という謎を解き明かした一冊です。
家族、職場、学校、恋愛…どうしようもない悩みを抱えるすべての人に贈る『カウンセリングとは何か 変化するということ』より、まえがきを公開します。
ふしぎの国のカウンセリング
もう20年以上も前のこと。大学3年生になって、ようやく臨床心理学についての専門的な勉強がはじまったとき、僕にはカウンセリングという仕事がマジカルなものに見えていました。
二人きりの密室にこもって、何やら話をする。夜見た夢を報告したり、絵を描いたり、箱の中におもちゃを置いたりもする。実際に何がなされているのかは、授業を聞いてもよくわからない。でも、そういう時間を通して、人は確かに変化するらしい。
まるでふしぎの国。
面接室のドアの向こうでは、「心」という目に見えないものを扱う魔法みたいなことが行われていて、その密室で一定期間を過ごすことで、人間はなぜか変化する。
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学部生の頃の僕は、結構熱心に勉強していたはずなのですが、いくら本を読んでも、その印象が変わることはありませんでした。
ですから、大学院に進学し、実際にカウンセリングのトレーニングがはじまったときには高揚感がありました。
先生たちは大魔導士のように見えたし、先輩たちはいっぱしの魔法使いのように見えました。自分は魔法使い見習い。ちゃんと修行をすれば、「心」というふしぎなものを扱うふしぎなやり方を習得することができるはずだ。そんな夢みたいなことを思っていた。
