連載
ドイツの「これでいい」暮らし
矢印
私はドイツで暮らして7年になる。現在はドイツの美術大学に通いながら、外部の美術館と連携して展示をしたり、街の公共彫刻のプロジェクトに参加して作品制作をしたりしている。労働者ではない学生という立場ながら、制作で関わる人や友人・知人のつながり、いち消費者として関わる人たちを見ているだけでも、ドイツと日本で労働というものに対する考え方が大きく違うように思える。
閉店間際のスーパーでは買い物できない
通っている美術大学の工房撮影:幸田詩織
ドイツで暮らし始めてまず感じた大きな違いは、「退勤時間にシビアである」というところだった。大学内の工房で、管理人に自身の設計図を見てもらおうとしたときのこと。設計書を持って管理人に相談をしに行ったところ、「もうあと15分で退勤だから、その話は次回の出勤日にして欲しい」と取り合ってもらえなかったことがある。これはドイツで生まれ育った友人たちが話していたのだが、「Feierabend(退勤)30分前くらいから新しいタスクや相談などのことは持ち込まない方がよい、という暗黙の空気がある」とのことであった。日本での労働というと厳格に定時までしっかり働くというイメージがあったため、非常に驚いた。他にも、日本ではスーパーなどで「閉店直前に滑りこみ」で買い物をすることがしばしばあったが、それはドイツの多くの場所では通用しない。「もうレジ締めちゃったから買えないよ」と言われたり、閉店間際に行くともう締め作業をしていて嫌な顔をされることも頻繁にある。
うまく行かないことが普通の環境
撮影:幸田詩織
そして労働についてしばしば考えるきっかけになるのが、ストライキだ。ドイツで暮らしていると、ストライキに遭遇する機会がとても多い。そもそもストライキが労働者の権利としてしっかり受け入れられていることに加え、ここ数年の高いインフレ率の上昇に伴い、賃金交渉が激化していることが背景にあるようだ。
非常に印象的に覚えているのがドイツ鉄道のストライキだ。数年前の冬、鉄道機関士労働組合(GDL)により行われたストライキでほどんど電車が動いていない月があった。組合とドイツ鉄道の話し合いは長期化し、その間は移動が非常に難しく、私自身いくつも予定をキャンセルせざるを得なかった。南ドイツから北上する用事のあった友人は、スイスやフランスなど周辺諸国の交通網で迂回したり、諦めて飛行機など別の選択肢をとったり、足止めを食らってしまって数日移動ができずに連泊した、というような話をいくつも聞いた。
国立印刷局のストライキについての外国人局からのメール。
また困ったこととして覚えているのが、EU圏内の別の国への移動の数日前、ビザの更新をしようとしたところ「ビザのカードを発行する国立印刷局のストライキにより、受け取りが遅くなります。いつ到着するかはわかりません」という連絡が来たことだ。急ぎ外人局にアポイントメントをとって仮ビザを発行してもらって最悪の事態は逃れたが、非常に焦ったことを覚えている。
日本ではそもそもストライキというものに遭遇する機会がほとんどなかったし、そのせいで不便な思いをするということもなかった。一方ドイツでは、こうしたストライキにより不便が生じた際にも、多くの人が「ストライキなら仕方ないか」と別の移動手段を検討したり、予定の日付をずらしたりなどして各自で対応していたのが印象的だった。
ワークライフバランスを重視
長期のバカンス中は旅行に行く人がとても多い。イタリアやスペインなど海外の他、北部のジルト島などのビーチリゾートにも多くの人が出かける。TasfotoNL / Shutterstock.com
教授や工房の管理人などの大学関係の知人や、それ以外にもさまざまな仕事をする友人らと話していて思うのが、ワークライフバランスをとても重視していることだ。多くの人が有給などもしっかりとり、生活を大切にしながら仕事をしている。特にそれは夏頃になると顕著で、長期のバカンス取得が盛んなため、大学事務局や制作会社などにメールを送ると、「担当者がバカンス中のため、返事ができるのは一カ月後」という自動返信が返ってくることもしばしばある。
「あえて働かない時間」を大事にする
近郊に住む農家たちによる労働環境改善を要求するデモ。トラクターを止めることにより市内交通を麻痺させた。撮影:幸田詩織
とはいえ、労働意欲が低いとか、いい加減だというわけでは決して無いということも、ドイツに住む中で感じることの一つだ。みんなその仕事をしている時間は、その内容にしっかりとプライドやプロフェッショナリティをもって臨んでいるような印象がある。工房の管理人は時間内の相談であれば非常に真剣に取り合って、一緒にベストな解決策を考えようとしてくれるし、ブロンズ鋳造を外部に依頼すると完璧なクオリティで仕上がってくる。
日本では、ワークライフバランスの重要性が広く認識されるようになってきてはいるが、まだまだ長時間働くことを是とする環境も少なくない。残業は当然という職場も少なくないだろうし、有給が貯まっていても仕事に穴を開けたくないから長期の休暇をとれないというような話もよく聞く。消費者が不便するようなストライキの話もほとんど聞かない。
一方ドイツでは、休暇やストライキを優先して不便が生じることを、多くの人が当然のこととして受け入れている。労働時間だけでなく、休暇や「あえて働かない時間」というものも含めて重要だと多くの人が感じているのだろう。そこには、日本とはまた違った真面目さがあるのではないかと感じた。

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