昭和、平成、令和を駆け抜けてきた国鉄型の特急電車の車両が6月で定期運行から姿を消す。唯一残るJR西日本の特急「やくも」(岡山―出雲市)の「381系」が新型車両へ置き換えられるためだ。沿線では、最後の雄姿を収めようとカメラを構える「撮り鉄」のマナーが問題となっており、JR西や自治体は安全確保やトラブル防止に腐心している。(米子支局 東大貴)急カーブ対応「国鉄色」に塗装された「381系」。道路脇から鉄道ファンらがカメラを構える(18日、鳥取県日野町で)=東大貴撮影「国鉄色」に塗装された「381系」。道路脇から鉄道ファンらがカメラを構える(18日、鳥取県日野町で)=東大貴撮影 「381系」は、急カーブが多い山間部などの運行に対応するため開発され、国鉄時代の1973年に名古屋と信州方面を結ぶ特急「しなの」に登場。大阪と南紀方面を結ぶ「くろしお」にも使われ、「やくも」には82年から投入された。

 車体を傾け、高速で急カーブを走行できる「自然振り子式」を採用して所要時間を短縮した一方、独特の揺れが原因で乗り物酔いする人が続出。「やくも」は「ぐったりやくも」と
揶揄(やゆ)
された。
 5月18日、鳥取県日野町でカメラを構えていた大阪府和泉市の会社員男性(52)は、小学生の頃、和歌山への家族旅行の際に「381系」の特急に乗車した。「気分が悪くなる人は多いけど、揺れさえもワクワクした記憶として思い出す。日本の原風景のような鳥取の山間部を走る姿が似合う」と別れを惜しんだ。「20年来の相棒」 国鉄時代に製造・デザインされた特急車両は、民営化の87年以降もJR各社が使ってきたが、老朽化で順次引退。JR東日本では、東京と伊豆半島を結ぶ特急「踊り子号」の車両で親しまれた「185系」が2021年に定期運行を終了した。 JR西は今年4月、揺れを抑える技術を導入した新型車両「273系」を投入。6月15日までに全車両が新型に入れ替わり、「381系」は定期運行を終える。20年以上にわたって「381系」を運転してきた竹内さん(22日、鳥取県米子市で)20年以上にわたって「381系」を運転してきた竹内さん(22日、鳥取県米子市で) 20年以上、「381系」を担当してきたJR西の運転士・竹内洋右さん(44)は「運転士として育ててくれた相棒。古さは否めないが、丁寧に扱うと驚くほど言うことを聞いてくれ、人と接しているようだった」と話している。 JR西は6月14日、米子駅(鳥取県米子市)でラストランのイベントを開き、乗客に記念品を配布する。最終運行は、15日午前。「撮り鉄」警戒「鉄則」提唱…鳥取県  クリームにえんじのラインが入る「国鉄色」を復活させた車両が22年3月に登場すると、カメラを手にした鉄道ファンが「やくも」が走る伯備線などの沿線に殺到するようになった。トラブルも相次いでいる。 鳥取県日野町の男性(70)は昨年末、線路沿いにある畑の柿の木などを伐採される被害に遭った。男性は「撮影の邪魔だったのだろう。枝切りばさみを持った人を見たこともある」と憤る。 線路や私有地への立ち入り、迷惑駐車も目立つようになり、沿線を管轄する県警黒坂署に寄せられた通報は、23年が約50件で前年の約5倍に増加した。 3月上旬、駅に停車する「381系」の正面にカメラを持った人物が飛び移り、抱きつく迷惑行為が写った画像がSNSで拡散し、JR西が県警に相談した。 線路沿いの柵を壊される被害も起きており、鳥取県の平井伸治知事は4月、ルールを守った撮影を呼びかける「鉄則」を提唱し、県のサイトに掲載。JR西や自治体が協力し、沿線の撮影スポットに計300台分の駐車場を応急的に確保した。

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