全国に先駆けて、介護リフトやICT機器を導入し、入居者の心身の健康と、働きやすい環境を実現してきた「高寿園」。人と技術が二人三脚で取り組む新しい介護の形がここにあります。
※「第4回全国老人福祉施設大会・研究会議 〜JSフェスティバル in 山口」入賞施設を取材しています

施設長
仁木則子さん
社会福祉法人津山福祉会 高寿園
住所:岡山県津山市下高倉西1581-1
TEL:0868-29-0115
入居定員:80名
URL:https://www.kojuen.jp/
1980年設立。「居心地のよい、笑顔あふれる、私らしい暮らしと、人を支える専門職」を理念に掲げる、人権の尊重と地域福祉の拠点。入居者の暮らしやすさとスタッフの働きやすさ、そして人と技術を融合させた介護を目指しています。
高い水準のケアを支える「人」と「技術」
岡山県の特別養護老人ホーム「高寿園」では、入居者の生活の質向上と、介護スタッフがより良い環境で働けるように、介護リフトや最新のICT機器を活用しています。
全国老施協のICT導入実証モデルだったということもありますが、施設長の仁木さんは、早い時期から最新の様々な支援機器の導入を決めていたそうです。
「子育て支援をしていると、育休や産休などで、人手が足りなくなる時期もあります。でも、だからといって介護をおろそかにはできない。では、テクノロジーの手を借りようということを決めました」
2019年には、導入するリフトの選択とリーダー育成を進め、翌年には稼働が始まっていたそうです。
「リフトがなかったときは、2〜3人いないと離床も難しかったですが、限られた人員でも安全で質の高い介護ができるようになっています」
リフトに次いで眠りSCANが導入され、夜勤のストレス軽減を目指す。その積み重ねとスタッフの研さんが高寿園の暮らしやすさと働きやすさにつながっているのです。
「今では、リフトやICT機器のない介護は考えられません。機械は手段の一つではありますが、もはやなくてはならない存在です」と仁木さん。テクノロジーを駆使するスタッフと、お年寄りを思いやる気持ちの融合が示す介護新時代の道しるべ。それが高寿園の目指すゴールです。
[左]高寿園に一歩足を踏み入れると、広くてゆったりとしたロビーが出迎えてくれます。明るくて開放的な空間は、まるでホテルを訪れたような雰囲気が。[中央]トイレには、小さなお客さま用のトイレも。お孫さんが遊びに来てくれたときも、快適に過ごせるような工夫が行き届いています。[右]いくつになってもきれいでいたい。そんな気持ちを応援してくれるサロンスペースからは、中庭の緑を眺めることができます。
[左]カウンターキッチンが併設された日当たり良好のメインスペースは、地域の方との交流やお子さんの遊び場にもなっています。[中央]皆で集まってアクティビティを楽しむ時間。お友達やスタッフとの楽しい会話を楽しんだりできる大事なひとときです。[右]スタッフ間のコミュニケーションには、ブレインストーミングが大活躍。それぞれの意見を尊重して、より良いサービスを目指します。
現場に丸投げをしない課題は施設全体で解決する

Solution課 課長
野尾徳子さん
今では現場に溶け込んでいる介護テクノロジーですが、導入された当初には反発もあったといいます。
「抱える介護をしてきたスタッフにしてみれば、戸惑いもあったと思いますので、慣れるまでは徹底的に講習を行いました。機械の使い方だけではなく、問題の放置が起こらないようにしています」と仁木さん。
導入初期に使い方を学ぶ。その場を設けたことが活用への早道に繋がったのでしょう。
現場に投げない。皆で解決する。その役割を果たしているのが、Solution課です。課長の野尾さんのお仕事は、現場で起こる問題の解決。自身が現場に入り、対話を通じて孤立や放置を防ぐ役割であり、時にはユニットを越えてスタッフの交換留学をすることもあるとか。全員で改善をめざす。その裏には、ベテランスタッフの尽力がある。その姿勢が、施設全体の風通しを良くしているのは間違いがなさそうです。
第4回全国老人福祉施設大会・研究会議 ~JSフェスティバル in 山口〜
実践研究発表 優秀賞受賞 誌上プレゼンテーション
生産性向上の取り組み
〜可能性を信じたケアで介護士のモチベーションアップ〜
発表者:特別養護老人ホーム 高寿園 本多典子さん 野尾徳子さん
人手不足で諦めざるを得なかった介護のお手伝いをしてくれる介護リフトやICT機器は、現場を支える優れモノです。新しいテクノロジーを導入した結果、より充実した介護と、職員の前向きな変化を実現した「高寿園」の挑戦と実践、そしてその成果をまとめた研究をお送りします。
夜の睡眠を妨げない取り組み
タイムスタディで改善点を探し出す
生産性向上の取り組みを始めるにあたり、「業務量の見える化」を目指して、何時にどの業務が行われているかを調べました。その中で、排せつ介助に着目してみると、夜間でも介助が多く、入居者の睡眠の妨げと、職員の負担になっていることが分かります。

睡眠が妨げられるリスク
夜十分に眠ることができないと、生活のリズムが崩れやすく、日中の活動や覚醒に影響を及ぼします。また、排せつ介助にかかる時間は生活の中で決して少なくないため、アクティビティやコミュニケーションの時間が取れないといったリスクが考えられます。

排せつケア取り組みのステップ
夜間の排せつパターンを見直すために、メーカーに依頼して勉強会を開催。ユニット内で個々のパターンを共有し、適切なパッド選びや最適なタイミングでのトイレ内排便へのチャレンジを行うなど、個々の排せつパターンに合わせた適切なトイレ誘導を実施。
具体的な取り組み内容
1週間の尿量測定と排便時間の把握
全ての入居者の尿量測定と漏れ分析を実施。漏れがない状況と、パッドを超えてカバーに漏れた状況、そして衣類まで漏れた状況に分けて記録し、その過程で排便時間の確認もできました。尿量測定を行ったそれぞれの平均値と最大値から、使用すべきパッドの種類を決定できます。
職員の変化
尿量測定のデータや、パッドの当て方と種類、入居者についてなど、職員間のコミュニケーションが増えました。自分の行ったケアが次につながることを実感すると、責任感が出てきます。自信が次のチャレンジにつながり、改めてチームケアを実感することができました。
取り組みの成果
取り組み前後の数値を比較すると、トイレで排せつできる人が30人から55人になり、排せつケア時間は大幅に減少。夜間の排せつケアを見直したことで、平均睡眠効率は10%以上も改善され、日中のアクティビティ時間も大きく増加。排せつケアにかかるコストの削減も実現しました。
取り組み前
取り組み後
排せつ介助 トイレ/おむつ(トイレ率)
30人/50人(37.5%)
55人/25人(68.7%)
パンツ利用者
22人
47人
排せつケア時間(1週間当たり)
129.1時間
85.7時間
入居者の平均睡眠効率
66.6%
78%
夜間の訪室回数(入居者1人当たり)
6回
1.5回
排せつケア物品費用(一カ月当たり)
532千円
393千円
日常的なアクティビティ時間(行事以外/1日当たり)
15分
52.8分
夜間の排せつケアの減少が安眠へとつながる
排せつケアの見直しにより、夜に入居者を不必要に起こすことが少なくなり、安定した睡眠へとつながりました。日中の活動量が増えた他、トイレで排せつできることで下剤の使用が減り、精神も落ち着きます。ケアの標準化と統一化は、チームの信頼度にもつながります。
今後の課題
今回の取り組みでは、タイムスタディによって24時間の業務を可視化する中で、業務が極端に集中する時間が分かりました。今後は、入浴時間をはじめとして、業務全体のボリュームを平均化し、ゆとりのある生活の実現に向けた取り組みを続けていきたいと思います。
可能性を信じて支えるケアの実現へ

ユニットリーダー 主任
本多典子さん
真心の介護を続けている介護士の皆さんは、入居者の安らかな日々を願うもの。研究発表を行ったユニットリーダーの本多さんに、現場での取り組みについて伺いました。
急激に体が不自由になって、家に帰りたいのに、病院から施設に入らなくてはならなくなった「U氏」。気持ちの整理が付かないまま入居された当時は、常に興奮状態にあり、ベッド柵を外したり暴言があったため、安定剤の頓服を1日3回まで可の指示が出ていました。
ユニットリーダーの本多さんは、まずは、規則正しい生活をしてもらうところから挑戦したといいます。眠りSCANで確認すると、やはり不規則な睡眠が続いていたようで、まずはベッドに入る時間と起床を一定にすることから始めました。次第に、体操などの活動時間を増やしながら、新しい排せつケアの取り組みに着手したそうです。
「この人が元気になってくれたらいいな。どうしたらもっと健やかに過ごしてもらえるかな? と願っていました」と本多さん。コミュニケーションの中から感じ取っていた排せつケアの見直しに取り組むと、約10カ月で中途覚醒時間は140.1分から63.6分となり、睡眠効率も改善、周期性体動指数は22.5回から9.3回に減少しました。
落ち着いて過ごす時間が増えていた様子から、当然その改善を感じていましたが、改めてデータを見たときは「ここまで変わったのか!」と、心の底から感激したとのこと。現在のU氏は、入居時の様子とは打って変わって穏やかな日々を過ごされているそうです。
常に介護の最前線に立つ立場からの、実践的な研究発表を行った本多典子さん(写真右)と、Solution課の野尾徳子さん(写真左)。
撮影・取材・文=山田芳朗 写真提供=特別養護老人ホーム 高寿園
