Europe Trends

2026.06.08


欧州経済

欧州経済全般


EU加盟国の財政評価
~財政規律の適用除外の対象をエネルギー関連に拡大~



田中 理



要旨

欧州委員会によるEU加盟国の財政評価が公表され、財政規律違反の是正措置(EDP)下にある10ヶ国のうち、マルタがEDPを終了し、イタリアやフランスなどの残り9ヶ国については、現時点では有効な措置が採られているとして、EDPの手続きを待機状態にすることが勧告された。なお、ブルガリアが新たにEDPの開始が検討される。
イラン情勢の緊迫化を受け、財政規律の適用除外条項の対象を、従来の防衛費からエネルギー関連に拡大する。2028年までにGDP比で最大1.5%の総枠を維持したうえで、年0.3%、累積0.6%を上限に、化石燃料依存の削減、電化の促進、送電網の整備などに関連した財政支出を財政規律の計算から除外する。
財政不安を抱えるイタリアやフランスの是正措置の強化が回避され、財政規律の適用除外の対象がエネルギー関連に拡大したことは、欧州を取り巻く財政不安の封じ込めにつながる。


欧州委員会は3日、EU加盟国の経済政策調整と財政・マクロ不均衡監視の一環で春と秋に行っているヨーロピアン・セメスターの定例評価を公表した。春の定例評価は通常、前年度の財政統計の実績値の公表を受け、秋の予算審議に反映することを目的に、経済財政運営に関する国別勧告、財政状況やマクロ不均衡の評価を行うことを目的としている。秋の定例評価では、国別勧告の内容を踏まえ、各国政府が提出した次年度の予算案、中期的な財政運営方針、次年度の経済運営方針を評価する。

経済運営では、第二期フォン・デア・ライエン体制の政策目標に沿って、競争力、戦略的自立、強靭性(レジリエンス)を高めることを主眼とし、多くの加盟国に対して、規制の簡素化、研究開発投資の拡大、脱炭素の推進、エネルギー安全保障の強化、デジタル化の推進、質の高い雇用の創出、住宅供給の拡大などの勧告が盛り込まれた。

財政運営では、イラン情勢の緊迫化を受け、財政規律の適用除外条項(National Escape Clause)の対象を、現状の防衛関連支出に加えて、化石燃料依存を減らすエネルギー関連支出に拡大する方針が明らかとなった。加盟国の防衛費拡大については、欧州再軍備計画(ReArm Europe)の一環で、2025~28年の間にGDP比で最大1.5%の追加支出を財政規律の計算から除外する措置が既に動いている。17ヶ国(ベルギー、ブルガリア、クロアチア、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、ギリシャ、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ポルトガル、スロバキア、スロベニア、ドイツ、オーストリア)の利用申請が承認され、スペインが承認を待っている。このGDP比1.5%の総枠を維持したうえで、年間で同0.3%、2026~28年の累計で同0.6%を上限に、加盟国政府によるエネルギー支援についても、財政規律の適用から除外する。家計や企業の化石燃料依存の削減を支援する措置、電化の促進、送電網の整備、蓄電池の普及促進、クリーンエネルギーの供給能力拡大などに関連した財政支出が対象となる。適用除外を希望する加盟国は発動を要請し、欧州委員会がそれを審査し、理事会の特定多数決(人口の65%以上を占める加盟国の55%以上の賛成)に基づいて決定される。

EUの財政規律に抵触するとして、その是正措置である過剰赤字手続き(Excessive Deficit Procedure:EDP)の対象となっている10ヶ国(ベルギー、フランス、ハンガリー、マルタ、イタリア、オーストリア、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、フィンランド)のうち、マルタについては、財政赤字の対GDP比率が持続的に3%を下回る見通しとなったことを受け、EDPを終了することを勧告した。残りの9ヶ国については、適用除外条項の柔軟性を考慮すれば、現時点では有効な措置が採られているとして、EDPの手続きを待機状態(abeyance)にすることを勧告した。

イタリアについては、2025年の純歳出の伸び率が勧告の上限を上回ったが、2024~25年の累積での基準逸脱は軽微なうえ、2026年については過剰赤字の是正に取り組んでいると評価した。フランスについては、2026年の純歳出の伸び率が軽度な基準逸脱のリスクがあるとした。ハンガリーについては、2026年に重大な基準逸脱のリスクがあるとし、今後の包括的な評価で効果的な措置が講じられていないことが判明した場合、EDPを通じた是正措置の強化が必要になると指摘した。ルーマニアについては、財政状況が極めて脆弱で、深刻なリスクが存在するため、強力かつ持続的な財政調整が必要であると勧告した。

EDPの対象となっていない残りの加盟国については、ルクセンブルク、オランダ、ブルガリア、クロアチアが2025年実績で重大な基準逸脱のリスクが、リトアニア、スロベニア、ブルガリア、クロアチア、スウェーデンが2026年見通しで重大な基準逸脱のリスクがあると指摘した。ブルガリアについては、EDPの開始を検討するとしている。

マクロ不均衡(Macroeconomic Imbalance Procedure:MIP)の評価については、ルーマニア(大幅な財政赤字、経常収支赤字、外部資金への依存度、高インフレ、政策実施の遅れ)が過剰な不均衡を抱えていると、ドイツ(経常黒字の大きさ、投資不足、競争力)、ギリシャ(政府債務、対外債務)、フランス(政府債務、競争力)、イタリア(政府債務、低成長)、ハンガリー(高インフレ、財政赤字、外部不均衡)、オランダ(住宅市場、家計債務、経常黒字の大きさ)、スロバキア(競争力、生産性、財政の持続性)、スウェーデン(住宅市場、家計債務)、エストニア(競争力、外部不均衡)が不均衡を抱えていると評価された。

以 上



田中 理

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